前向きコホート研究 prospective cohort study は臨床研究方法の一つです。対象者が疾病にかかる前に調査を開始する,つまり未来に向かって調査を進めるため,単に前向き研究 prospective study と呼ばれることもあります。どの分類においてもエビデンスレベルはそこそこ高く位置づけられています。以下にその特徴として方法と統計学的な指標,利点と問題点をまとめました。
方法
まず最初に,多数の健康人の集団を対象として疾病の原因となる可能性のある要因(例えば喫煙・食生活・血液データなど)を調査します。次に,この集団を追跡調査して疾病にかかる者を確認します。その上で,最初に調査した要因と,その後の疾病の発生との関連を分析します。研究例としては,喫煙者と非喫煙者でその後の肺がんの発生率を比較する研究などがこれにあたります。
指標
前向きコホート研究では,仮説要因と疾病の関連性をあらわす指標として,相対危険度 relative risk が使われます。例えば,喫煙者の非喫煙者に対する肺がん罹患の相対危険度が3であれば,喫煙者は非喫煙者と比べて肺がんの罹患率が3倍高いことを意味します。また,ビタミンCの少量摂取群に対して多量摂取群の胃がん罹患の相対危険度が0.5であれば,多量摂取群は少量摂取群と比べて胃がんの罹患率が0.5倍低いと言えます。
利点と問題点
利点
前向きコホート研究では対象者が罹患する前に曝露状況を調査するので,症例対照研究などで問題なる思い出しバイアスを回避できます。また,一部の研究命題においては重要な研究方法になります。例えば血清コレステロール値と心筋梗塞との関連や,喫煙と肺がんの関連 (煙草のケースに記載されている) など,今日では常識的な知見もこの研究方法で明らかにされた古典的な成果です。この手の曝露 (喫煙など) は,ランダム化比較試験などで実験的に対象者に与えることが倫理的に難しいため,曝露が疾病に及ぼす影響などを知りたい場合,コホート研究で調査するしかありません。
問題点 (欠点)
一方で,多人数の集団を長期間にわたって追跡調査をしなければならないため,多大な手間と費用がかかります。年月が経つにつれて,対象者が研究から離脱していく可能性もあります。
コメント
この研究方法は大規模調査にこそ意味がありますが,そのためには費用だけではなくて,病院であれば他施設間の連携がとれるような研究環境などが必要になります。最後までやり遂げるには環境を整えることが重要です。因みに,コホート研究で観察される集団(母集団)のことをコホート cohort といいます。もともとは人口学で用いられる概念のようです。
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