後ろ向きコホート研究 retrospective cohort study は臨床研究方法の一つです。前向きコホート研究よりエビデンスレベルが劣りますが,特殊な状況においてはこの研究方法しか選択できないこともあります。以下にその特徴として方法,統計学的指標,利点および問題点をまとめました。
方法
前向きコホート研究では,対象者の曝露要因を研究者が調べるところから研究が始まります。これに対して後ろ向きコホート研究では,すでに曝露がおこってしまった後で,研究者が事後的に(後ろ向きに)その状況を調べ,さらにその集団を追跡調査することで,疾病の発生を確認します。例えば,事故によって高濃度の化学物質や放射線などにさらされた産業労働者の曝露状況を事後的に調べ,その集団のがん発生を追跡調査によって明らかにする場合などに,この研究方法が用いられます。
指標
後ろ向きコホート研究では,曝露要因と疾病の関連性をあらわす指標として,O/E比,標準化死亡比,標準化罹患比が使われます。例えば,O/E比の分子は調査集団から実際に観察された疾病の罹患数(または死亡数),分母は性別や年齢構成が調査集団と同じ一般の人口集団から期待される疾病の罹患数です。したがって,O/E比が1より大きければ調査集団から生じた罹患数が一般集団から期待される罹患数より大きいことになるので,ある要因への曝露による疾病リスクの上昇を示すことになります。
利点と問題点
利点
後ろ向きコホート研究では,対象者が曝露されてからその後に生じた疾病との関係を調べるので,曝露要因と疾病との時間的前後関係を正しく評価できます。
問題点 (欠点)
曝露がすでにおこった後で研究を開始するので,曝露の程度を定量的に評価することが困難な場合があります。また,交絡要因についても不明なことが多いです。こういった背景から,実測値が期対値より高く (O/E比が1より大きい) ても,曝露要因の影響なのか,それとも他の要因が関与しているのかを区別できない場合があります。
コメント
既に曝露が起こった後に研究を開始するため,通常,研究デザインを練る過程で,この研究方法にいきつくことは稀です。症例対照研究と混同されがちですが,その違いはあくまで前向きに追跡調査を進めることだと言えます。