EBMを実践するための手順として5つのステップがあります。EBMは医療のための方法論なので,この手順に従って実践します。この5つのステップがどのようなものなのかを学びましょう。
EBM実践の5ステップとは
EBMは5つの手順で進めます。その手順を以下に示します。
(1)患者の臨床問題や疑問点を明確にする
(2)それに関する質の高い臨床研究の結果を効率よく検索する
(3)検索した情報の内容を批判的に吟味する
(4)その情報の患者への適用を検討する
(5)(1)から(4)までのプロセスと患者への適用結果を評価する
この5ステップはエビデンスを患者さんに適用するために重要な過程です。どのステップも飛ばして進めてはいけません。次の項からは各ステップを具体的に説明します.
(1)患者の臨床問題や疑問点を明確にする
(2)それに関する質の高い臨床研究の結果を効率よく検索する
(3)検索した情報の内容を批判的に吟味する
(4)その情報の患者への適用を検討する
(5)(1)から(4)までのプロセスと患者への適用結果を評価する
この5ステップはエビデンスを患者さんに適用するために重要な過程です。どのステップも飛ばして進めてはいけません。次の項からは各ステップを具体的に説明します.
患者の臨床問題や疑問点の明確化(ステップ1)
まずはじめに,患者さんに対する医療行為について,問題点や疑問点を抽出し,後で検索しやすい形式に整理する必要があります。何が問題なのかわからなければ,エビデンスを調べようがありません。患者の臨床問題や疑問点に関する情報を調べやすい形にするためには,「PICO」というフォーマットを用いて整理します。
PICOとは,どんな患者 Patient に,どんな介入 Intervention があると,何と比較 Comparison して,どんな結果 Outcome になるのかという4つの要素に分けて定式化するフォーマットです。以下に具体例を交えて表にしました。
PICO | 説明 | 例 |
Patient (患者) | どんな患者に | 脳卒中肩麻痺患者に |
Intervention (介入) | どんな介入をすると | 短下肢装具を使用すると |
Comparison (比較対照) | 何と比較して | 装具未使用と比べて |
Outcome (結果) | どんな結果になるか | 歩行速度が向上した |
PICOを用いて問題を定式化するさい,患者さんの状況にあったエビデンスを抽出するために,患者さんの特徴をできるだけ考慮する必要があります。しかし,あまり細かく問題を抽出しようとすると,同じような問題を検証したエビデンスが見つからなくなってしまいます。逆に一般化しすぎると,探しあてたエビデンスが目の前の患者さんに適用できなくなってしまう場合があるので注意が必要です。
PICOに設定したキーワードが,ステップ2における情報収集の材料となるため,この段階で,本当に調べたい内容をPICOに当てはめることが重要になります。
質の高い情報の効率的収集(ステップ2)
臨床上の疑問点が抽出され,PICOにより患者さんの臨床問題や疑問点が定まれば,次に,その疑問点に関する情報を検索・収集する作業を行います。ここでのポイントは,設定したPICOに関連した「質の高い」臨床研究を検索することです。そのためには,まず,二次研究を優先して検索することが大切となります。
一般的に,独創的な学術研究の成果は原著論文として専門誌や学会誌に掲載されます。二次研究とは,このように掲載された複数の原著論文を要約して1つにまとめたもので,系統的文献レビュー systematic review やメタアナライシス meta-analysis ,臨床ガイドライン clinical practice guideline などがこれにあたります。
臨床現場で担当患者さんの臨床問題や疑問点に関連するエビデンスを効率よく検索・収集するためには,PICOに基づいて,まず,システマティックレビューのような二次研究を検索することです。なぜなら,二次研究は多くの場合,その分野に精通し,かつEBMの手順に精通したグループが,疑問点に関わる原著論文を網羅的に検索・収集し,作成しているからです。
情報の批判的吟味(ステップ3)
エビデンスが見つかればそれをそのまま患者さんに適応すれば良いかというと,そう単純ではありません。臨床研究には,その計画からデータ収集,解析,報告に至るまで,さまざまな形で結果に影響する要因(バイアス)が存在します。バイアスの有無や,程度を適切に評価し,その研究結果がどれだけ信頼できるか(これを内的妥当性と言います)を判断する必要があります。
システマティックレビューなどの二次研究では,専門家によって内的妥当性が吟味されているため,自分が設定したPICOと二次研究の結果との整合性の程度を確認する程度で問題ありません。しかし,一次研究 (例えばランダム化比較試験やコホート研究など) ではその文献の内的妥当性を批判的に吟味する必要があります。
実際に批判的に吟味するさいのポイントは以下になります。
- 研究デザインのレベルの高さ
- 症例数は十分に多いか
- 対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっているか
- 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析しているか
- 統計的解析方法は妥当であるか
- 結果と考察との論理的整合性が認められるか
- フォローアップは十分に長く行われたか
- 臨床的アウトカムが評価指標(エンドポイント)とされているか
- 介入によるマイナスの影響についても報告されているか
残念ながら,質の高い論文は英語で書かれていることが多く,忙しい臨床の合間に論文の内容を全て読むことは難しいと思います。そこで,上のポイントを踏まえて,あるいは学会などで推奨しているチェックリストに照らし合わせて情報の質を検討することが重要です。チェックリストについては「批判的吟味に用いるチェックリスト」を参照して下さい。
情報の患者への適用(ステップ4)
文献の内的妥当性について批判的吟味を行った後,次にそれらの論文の結果が,目の前の対象者に適用できるかどうか (これを外的妥当性と言います) を検討します。
この段階で重要な点を以下にあげます。
- 見つけた文献の結果だけが選択肢ではないこと
- 医療従事者の専門的知識・技能・臨床経験
- 施設環境 (設備や機器の有無)
- 患者の意向や価値観
- ステップ2から3までと4とのすり合わせを行うこと
- 最終的に,ステップ1から5を通して患者の臨床問題や疑問点に最も適した介入方針を選択すること
実際にその医療行為を患者さんに適用できるか(法的に資格的に適応できるかではありません)を,包括的に判断しなくてはなりません。つまり,いくらその医療行為を行う資格を持っていようとも,法的に認められていようとも,それを行う者にその技術がなければ適用してはいけません。その技術があったとしても,患者さんが望んでいないことをやってはいけません。
ステップ1から4までの評価(ステップ5)
最後のステップは,患者さんへ適用された治療の有効性等についての評価を可能な限り長期的なフォローアップに基づいて分析していくことです。適用した医療行為で目の前の患者はどうなったか,改善すべき点はなかったか,あるとすれば,どのように改善すれば良かったか,などを分析します。
まとめ
EBMはこの5ステップの繰り返しで行われます。1〜5までのステップを丁寧に行うことで,患者さんに適した介入方法がみつかります。しかし,実際は臨床的な疑問を解決する文献はなかなかみつかりません。答えをだす文献の量がまだ足りないためです。そうなれば臨床推論に頼るか,あるいは答えをだすために自ら研究に取り組まなくてはなりません。とにかくEBMを実践してみて,EBMの利点や問題を肌で感じとっていただければ幸いです。
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