研究結果に影響を与えるバイアス:人数を増やせば偏りは消えるか

研究結果に影響を与えるバイアス:人数を増やせば偏りは消えるか

心筋梗塞を起こしたことのある男性で、血液中の脂質を下げる薬を調べた臨床試験がありました。処方されたカプセルをきちんと飲み続けた人は、飲まなかった人より、長く生きていました。5年のあいだに亡くなった人の割合は、ほぼ半分です。ただし、このカプセルは、有効成分の入っていない偽薬でした⁠[1]。

同じことは、リハビリテーションでも起こりえます。外来で自主トレーニングを指導した患者さんを、3か月後に比べたとします。毎日続けた人ほど、歩く速さがよく伸びていました。運動の効果に見えますが、毎日続けられた人は、もともと体力や意欲に恵まれていたのかもしれません。比べる人数を増やせば、こうした偏りは消えるのでしょうか。

この記事の要約(押すと開閉します)
  • 定義:結果が真の値から一定の方向へずれる誤差。臨床研究に限らず、動物実験でも問題になる
  • 生まれた経緯:1946年にBerksonが、病院の患者だけで比べると、関係のない病気どうしが関係して見えることを計算で示した。BerksonやNeymanが指摘した偏りは、1979年にSackettが発表したバイアスの一覧にも収められた。1995年にSchulzらが、1983年の分析の弱点を補い、多くの試験を集めて方法の欠陥と効果の大きさの関係を調べた。この研究は、メタ疫学研究の先駆けとされる。Cochraneは2008年に偏りのおそれを判定する道具を公開し、2019年にRoB 2に改めた
  • 偶然による誤差との違い:人数を増やすと偶然による誤差は小さくなるが、バイアスは小さくならない。偽薬をきちんと飲んだ人と飲まなかった人の比較では、2,789人の偽薬の群でも、比べ方によるずれが残った
  • 種類:大きくは、比べる人の選ばれ方による選択バイアスと、測り方や聞き方による情報バイアスに分けて整理される
  • 選択バイアス:病院の患者だけ、生き残った人だけを調べると、関係のないものが関係して見えることがある
  • 情報バイアス:診断を受けた人は、過去を違うように思い出すことがある。検査を多く受ける人ほど、病気が見つかりやすい
  • 臨床試験のバイアス:割り付けの隠蔽や盲検化が不十分な試験は、効果を大きく見積もりやすい。1995年に250の試験を調べた研究では、隠蔽が不十分な試験は効果をオッズ比で41%大きく見積もっていた。主観で判定する結果では、この偏りが大きくなりやすい
  • 防ぎ方:バイアスの多くは、データを集めたあとでは取り除きにくい。対照の選び方、割り付けの隠し方、結果を判定する人に群を知らせない工夫、割り付けた群のまま解析することを、前もって計画書に書く
  • 論文で確かめる点:ランダム化比較試験では、RoB 2という道具で、5つの領域ごとにバイアスのおそれを3段階で判定する。領域は、ランダム化の過程、介入からの逸脱、結果の欠測、結果の測定、報告する結果の選択

バイアスとは

バイアスは、研究の結果が、真の値から一定の方向へずれる誤差です。Cochrane(コクラン)のハンドブックは、バイアスを「結果における系統的な誤差、つまり真実からのずれ」と定義しています⁠[2]。観察研究や動物実験の報告の指針も、偏りへの対処やランダム化と盲検化の記載を求めており、バイアスは臨床研究に限らず動物実験でも問題になります⁠[3, 4]。

バイアスという考え方が生まれるまで

いまのバイアスの知識は、医学研究の中で、偏りの指摘、偏りの大きさを測る研究、偏りのおそれの判定が積み重なってできたものです⁠[5–7]。それぞれは、その時代の別々の問題に答えるために生まれました。図1に、主な出来事を年の順に示します。

バイアスという考え方が生まれるまでの年表。各行に、そのとき問題になったことと、それに答えた方法を示す。1946年、Berkson、病院の患者で病気どうしの関係を調べると、入院の仕組みによって見かけの関係が生じうることを計算で示した。1995年、Schulzら、1983年の分析が治療の種類やほかの方法の違いを考慮していなかったため、メタアナリシスに集められた試験を使い、方法と効果の大きさの関係を調べた。2008年から2019年、Cochrane、合計点の採点表に代えて偏りのおそれを判定する道具を公開し、RoB 2に改めた

図1 バイアスという考え方が生まれるまでの主な出来事。矢印の左はそのとき問題になったこと、右はそれに答えた方法。緑は、いまのバイアスの知識のもとになった段階

1929年、米国の生物学者で統計学者のRaymond Pearl(レイモンド・パール)は、剖検の記録を比べました。がんで亡くなった816人では、活動性の結核の病変が6.6%に見つかりました。人種、性、年齢をそろえた、ほかの死因で亡くなった816人では16.3%でした⁠[5]。

Pearlの剖検の差からは、結核にがんを防ぐ働きがあるとも考えられました。生物学の知見や、ツベルクリンでがんを治療する試みも、その考えと矛盾しないように見えました⁠[5]。ただし同じ年に、Pearl自身が、結核が進む前にがんで亡くなったために、見かけの関係が生じた可能性を認めています⁠[5]。

米国の医師で統計学者のJoseph Berkson(ジョセフ・バークソン)は1946年、病院のデータを2×2の表で分析することの限界を論じました⁠[8]。病院の記録で病気どうしの関係を調べると、入院の仕組みによって見かけの関係が生じうることを、計算で示しました⁠[5]。

Snoep(スヌープ)らの解説によると、Berksonはのちに、自分の考えのもとがPearlの研究にあったと説明しています⁠[5]。入院の仕組みによる見かけの関係は、その後の活発な議論の中で、Berksonのバイアスなどと呼ばれるようになりました⁠[5]。

1950年代には、喫煙と肺がんの関係が議論されていました⁠[9]。ポーランドの統計学者Jerzy Neyman(イェジ・ネイマン)は1955年、すでに病気をもつ人を症例として集める研究の危うさを指摘しました⁠[9, 10]。Neymanは、その例に喫煙と肺がんを使っています⁠[9]。

BerksonとNeymanが指摘した偏りは、1979年にDavid Sackett(デビッド・サケット)が発表したバイアスの一覧にも収められました⁠[5, 9, 11]。Sackettは、カナダのMcMaster(マクマスター)大学の臨床疫学者です。いまは、ウェブサイトのCatalogue of Bias(カタログ・オブ・バイアス)が、Sackettの一覧を引き継いでいます⁠[12]。

臨床試験の方法の欠陥については、1983年に、割り付けの順番を隠さずにランダム化した試験では、隠した試験より効果が大きく出やすいと報告されていました。ただし、その分析は、治療の種類やほかの方法の違いを考慮しておらず、隠したかどうかの定義もあいまいでした⁠[6]。

1995年には、米国の疾病対策センターにいたKenneth Schulz(ケネス・シュルツ)らが、1983年の分析の弱点を補う分析を発表しました⁠[6]。Schulzらは、メタアナリシスに集められた試験を使い、試験の方法と効果の大きさの関係を調べました⁠[13]。

Schulzらは1994年の論文で、次の割り付けを前もって知られないようにすることを、割り付けの隠蔽と呼びました。盲検化という語は、割り付けたあとに群を隠すことに限って使いました⁠[6]。

研究の方法論を専門とするJüni(ユーニ)とEgger(エッガー)は、2005年の論評で、臨床試験の偏りをめぐる議論の変化を述べています。2人によると、議論の中心は、1つの試験での偏りの逸話から、多くの試験とメタアナリシスにもとづくメタ疫学研究へ移りました。2人は、この方法の先駆けをSchulzらの研究としています⁠[6]。

Schulzらのあとの研究も、同じ向きの関係を示しました。ただし、関係の強さは研究によって異なりました⁠[6]。

Cochraneは、合計点の採点表に代えて偏りのおそれを判定する道具を2008年に公開し、2019年にRoB 2(ロブ・ツー)に改めました⁠[7, 14]。

次の節からの知識のうち、表1の入院(Berkson)バイアスと有病率・罹患率(Neyman)バイアスには、指摘した人の名が残っています⁠[5, 9]。表1は、Sackettの一覧を引き継ぐCatalogue of Biasをもとにしています⁠[12]。

臨床試験で起きるバイアスの節の、割り付けの隠蔽と盲検化の区別は、Schulzらが1994年に使い分けた用語と同じです⁠[6]。同じ節の偏りの大きさの数値は、Schulzらの研究とそれに続くメタ疫学研究で見積もられたものです⁠[6]。論文で確かめる点の節で説明するRoB 2は、偏りのおそれを5つの領域ごとに判定する道具です⁠[7]。

バイアスと偶然による誤差の違い

人数を増やすと、偶然による誤差は小さくなりますが、バイアスは小さくなりません(図2)。偶然による誤差なら、同じ研究をくり返すと、結果は真の値のまわりにばらつきます。バイアスがあると、くり返しても、平均してずれた答えになります⁠[2]。研究の前に必要な人数を計算しても、偶然による誤差しか小さくできません。必要な人数の計算は、検出力とサンプルサイズの決め方の記事で説明しています。

同じ研究を20回くり返したときの結果を、偏りのない場合とある場合、20人と200人の研究で並べた模式図。偏りがない場合は人数を増やすと結果が真の値のまわりに集まり、偏りがある場合は人数を増やしても真の値からずれた位置に集まる

図2 偶然による誤差とバイアスの模式図。同じ研究を20回くり返したときの結果を点で示す。偶然による誤差だけなら、人数を増やすと結果は真の値のまわりに集まる。バイアスがあると、人数を増やしても、ずれた値のまわりに集まる。点の位置は計算機で作った架空のもの(文献2の説明をもとに作成)

偽薬の死亡率の差は、人数を増やしても消えないずれの例です。Coronary Drug Project(コロナリー・ドラッグ・プロジェクト)は、血液中の脂質を下げる薬の臨床試験です。心筋梗塞を起こしたことのある男性8,341人を、くじ引きで薬の群と偽薬の群に分けました⁠[15]。

Coronary Drug Projectで調べた薬の一つ、クロフィブラートの群の5年死亡率は20.0%でした。偽薬の群は20.9%で、統計的に意味のある差はありませんでした。ところが、クロフィブラートの群の中だけで比べると、きちんと飲んだ人の死亡率は15.0%、きちんと飲まなかった人は24.6%でした。この比べ方だけを見れば、薬は効いているように見えます⁠[1]。

偽薬の群でも、飲んだ量で分けて比べると、処方されたカプセルの8割以上を飲んだ人の死亡率は15.1%、8割に満たなかった人は28.3%でした⁠[1]。研究グループが、試験を始めた時点の40の特徴を統計的にそろえて比べ直しても、差は9.4ポイント残りました⁠[16]。偽薬が死亡率を変えることはありません。偽薬をきちんと飲む人と飲まない人は、薬とは関係のないところで、もともと違っていたのです。

Coronary Drug Projectの偽薬の群には2,789人がいました。これだけの人数がいても、比べ方によるずれは小さくなりませんでした。研究グループは、くじ引きのあとで、きちんと飲んだかどうかのような本人の反応で分けた集団では、治療の効果を評価するのは非常に難しい、と結論しました⁠[1]。

研究結果の解釈では、偶然とバイアスのほかに、別の要因が結果に混ざり込む交絡も区別して確かめます。ただし、交絡をバイアスの一つに数える考え方もあります。Coronary Drug Projectの偏りも、飲み続けたかどうかが交絡の要因になったものとして説明されています⁠[17]。

バイアスの種類

バイアスの多くは、選択バイアスと情報バイアスの2つに分けて整理されます(表1)。選択バイアスは比べる人の選ばれ方による偏り、情報バイアスは測り方や聞き方による偏りです。

名前何が起こるか、例
選択バイアス
入院(Berkson)バイアス入院のしやすさが病気で違うため、病院の患者だけを調べると、関係がゆがんだり、見かけの関係が現れたりする。例:胆嚢炎と糖尿病
有病率・罹患率(Neyman)バイアスすでに病気をもち生き残った症例だけを調べるため、重い人や軽い人が抜け落ち、曝露と病気の関係がゆがむ。例:喫煙とアルツハイマー病
情報バイアス
思い出しバイアス病気のある人とない人で、過去の思い出し方の正確さが違う。例:悪性黒色腫と日焼け
検出バイアス群によって病気の見つけ方が違う。たとえば曝露が検査の機会を増やし、病気が見つかりやすくなる。例:エストロゲンと子宮体がん
観察者バイアス観察や記録が真実から系統的にずれる。判定する人が群を知っていると起こりやすい。例:群を知る判定者と知らない判定者
交絡としても扱われる偏り
遵守(adherence)バイアス治療を続けられる人と続けられない人がもともと違い、その違いが結果にもかかわる。例:偽薬をきちんと飲んだ人の死亡率

表1 この記事で取り上げるバイアス(文献17、18をもとに作成)

臨床試験でも、割り付けの隠し方や結果の測り方によって、この2種類の偏りが入り込みます。選択バイアスも情報バイアスも、症例対照研究のように過去をさかのぼる研究では、特に注意が必要です。

選択バイアス

選択バイアスは、調べる人の選ばれ方によって生じる偏りです。関係のない2つのものが関係して見えたり、本当の関係が弱く見えたりします。回復期の病棟に入院した人だけを調べると、重すぎて入院できなかった人や、軽くて、急性期の病院から自宅へ直接退院した人は入りません。そこで見つかった関係が、患者さん全体に当てはまるとは限りません。

病院の患者だけで比べると、関係がゆがむ

病院の患者だけを調べると、一般の人の中では関係のない2つの病気が、関係があるように見えることがあります⁠[5, 8]。それぞれの病気が、入院のきっかけになります。そのため、両方の病気をもつ人は入院しやすく、病院の中に集まります。これを、入院(Berkson)バイアスといいます。先に述べたように、Berksonは1946年に、胆嚢炎と糖尿病を例にした計算でこれを示しました⁠[8]。

のちにRoberts(ロバーツ)らは、家庭を対象にした健康調査の実データで、入院(Berkson)バイアスを確かめようとしました⁠[19]。Snoepらの解説によると、28組の病気の組み合わせの多くで、最近入院した人の中での関係は、地域全体での関係と違っていました。ただし、入院は医師の判断でも決まります。その判断による別の偏りとは、区別しにくかったとされています⁠[5]。

生き残った症例だけでは、関係がゆがむ

すでに病気をもつ人を症例として集めると、病気になってからの生き残りによって、関係がゆがむことがあります⁠[9]。病気の原因と疑われる要因を、曝露といいます。曝露のある人ほど、病気になってから早く亡くなるとします。すると、調べた時点で生き残っている症例には、曝露のある人が少なくなります。これを、有病率・罹患率(Neyman)バイアスといいます。

有病率・罹患率(Neyman)バイアスは、先に述べたように、1955年にNeymanが指摘しました⁠[9]。喫煙がアルツハイマー病を防ぐように見えた研究があります。この研究は、Neymanの偏りを考える例として取り上げられています。ただし、喫煙がアルツハイマー病になったあとの死亡を早める場合でなければ、この偏りでは説明できません⁠[20]。

情報バイアス

情報バイアスは、曝露や結果の聞き方、測り方、見つけ方によって生じる偏りです。思い出し方による偏りと、検査の受けやすさによる偏りは、その例です。結果を判定する人が群を知っていることで生じる観察者バイアスも、情報バイアスに入ります(表1)。

診断のあとでは、思い出し方が変わる

米国の看護師を長く追跡している、Nurses' Health Study(ナーシズ・ヘルス・スタディ)という研究があります。その中で、同じ質問を2回した症例対照研究がありました。1回目は1982年の質問票です。皮膚がんの一種である悪性黒色腫と診断された人にとって、これは診断の前でした。2回目は、診断のあとです⁠[21]。

Weinstock(ワインストック)らは、診断の前とあとの2回の答えを比べました。診断を受けた人の答えは、2回目に「日に当たっても肌が黒くなりにくい」の方向へずれていました。肌の黒くなりにくさは、悪性黒色腫の主な危険因子です。髪の色の質問では、答えはずれていませんでした⁠[21]。

診断を受けた人は、危険因子にあたる方向へ、過去を思い出し直すことがあります。これが思い出しバイアスです。先天異常のあった子の母親とそうでない母親で、妊娠中の記録と産後の聞き取りを比べた研究でも、一部の項目で思い出しの正確さに差がありました⁠[22]。

検査が多い人ほど、病気が見つかりやすい

1970年代、女性ホルモンの一つであるエストロゲンを使う人に、子宮体がんが多いと報告されました。Horwitz(ホーウィッツ)とFeinstein(ファインスタイン)は、これに異を唱えました⁠[23]。エストロゲンを使うと、子宮から出血しやすくなります。出血すれば検査を受けるので、ほかの人なら見つからないがんまで見つかるはずだ、という主張です。このような偏りを、検出バイアスといいます。

HorwitzとFeinsteinが通常の方法で対照を選ぶと、関係の強さを表すオッズ比は11.98でした。オッズ比は、1なら関係がないことを表します。症例も対照も、出血のために子宮の検査や摘出を受けた人に限ると、オッズ比は1.7になりました⁠[23](図3)。

ところが、出血した人に限る対照の選び方にも偏りがありました。Hulka(ハルカ)らは、子宮体がんの256人と、3種類の対照を比べました⁠[24]。子宮の検査のために入院した人を対照にすると、この対照では、エストロゲンを使っていた人が、子宮体がんの人より多くなっていました。エストロゲンを使う人ほど出血して検査を受けるので、この対照に集まり、関係の強さの推定値が1に近づいたと考えられます⁠[24]。

検出の偏りを正すために対照を変えると、別の偏りが入り込むことがあります。その後、30の研究を統合した分析が行われました。エストロゲンを使う人は、使わない人の2.3倍、子宮体がんになりやすいと推定されました。10年以上使った人では、9.5倍でした。この倍率を、相対危険度といいます⁠[25]。

閉経後の女性をくじ引きで割り付けた試験もあります。予定外の子宮内膜の検査を受けた人は、偽薬の群の8.4%に対して、エストロゲンだけを使った群では66.4%でした。がんの前段階とされる、異型を伴う子宮内膜増殖症は、偽薬の群では0%、エストロゲンだけの群では11.8%に起こりました⁠[26]。検査の機会が増えることと、エストロゲンが子宮内膜を変えることは、どちらも実際に起こっていたと考えられます。

エストロゲンと子宮体がんの関係の推定値。1978年に通常の方法で選んだ症例と対照ではオッズ比11.98、出血で検査を受けた人どうしでは1.7、1995年に30研究を統合した相対危険度は2.3、10年以上の使用では9.5

図3 エストロゲンと子宮体がんの関係の推定値。横軸は対数目盛で、1は関係がないことを表す。誤差範囲は95%信頼区間で、報告されたものだけを示す。1978年の2つの値は、同じ施設で症例と対照の選び方を変えたもの。統合した値は30研究のメタアナリシスによる(文献23、25をもとに作成)

臨床試験で起きるバイアス

臨床試験では、割り付けの隠蔽や盲検化が不十分だと、効果が大きく見積もられやすくなります。割り付けの隠蔽は、次の人がどの群に入るかを、参加者を選ぶ人に知らせないことです。盲検化は、参加者や治療する人、結果を判定する人に、どの群かを知らせないことです。隠蔽は選択バイアスを、盲検化は測り方による偏りを防ぐためのものです⁠[27]。

隠蔽や盲検化の不十分さによる偏りは、主観で判定する結果で大きくなりやすいことが、多くの試験を比べた研究で示されています⁠[28, 29]。

割り付けを隠さないと、効果が大きく出がち

次の人の群を前もって知ることができれば、参加者を選ぶ人は、ランダム化しても、治療が合いそうな人を治療の群に入れることができます。くわしくはランダム化の方法とランダム化比較試験の記事で説明しています。先に述べたように、Schulzらは、妊娠と出産の分野の臨床試験について、方法の質と効果の大きさの関係を調べました⁠[13]。

Schulzらが調べた250の試験では、割り付けの隠蔽が不十分な試験は、適切に隠した試験と比べて、効果をオッズ比で41%大きく見積もっていました。参加者も治療する人も群を知らないようにする方法を、二重盲検といいます。二重盲検でない試験も、二重盲検の試験と比べて、効果をオッズ比で17%大きく見積もっていました⁠[13]。

のちに1,973の試験を集めた研究では、平均の偏りはSchulzらの推定よりかなり小さく、隠蔽が不十分または不明な試験で約7%と推定されています⁠[30]。偏りの大きさは、結果の種類によっても違いました。Wood(ウッド)らは、1,346の試験を調べました⁠[28]。痛みの程度のように主観で判定する結果では、偏りが大きくなっていました。死亡のような客観的な結果では、偏りはほとんど見られませんでした⁠[28](図4)。

主観で判定する結果では、隠蔽や盲検化の不十分な試験が、効果を大きく見積もりやすくなります。41の研究をまとめた報告も、判定する人が盲検化されていないと、主観的な結果で効果が過大に見積もられる、と結論しています⁠[29]。

割り付けの隠蔽と盲検化が不十分な試験での偏り。主観で判定する結果では、オッズ比の比が隠蔽の不十分・不明で0.69、盲検化なしで0.75と効果を大きく見積もり、客観的な結果では0.91と1.01でほとんど偏りがない

図4 割り付けの隠蔽と盲検化が不十分な試験での偏り。値は、隠蔽が不十分または不明な試験や盲検化のない試験のオッズ比を、十分な試験のオッズ比で割った比で、線は95%信頼区間を表す。1より小さいほど、不十分な試験が効果を大きく見積もっていることを表す(文献28をもとに作成)

判定者が群を知ると、効果は大きく出やすい

結果を判定する人がどちらの群かを知っていると、判定はどれだけずれるのでしょうか。Hróbjartsson(フロビャルトソン)らは、珍しい試験を集めました⁠[31]。同じ患者さんの結果を、群を知らない判定者と、知っている判定者の両方が判定していた試験です。集まった試験は21で、参加者は4,391人でした⁠[31]。

Hróbjartssonらが集めた試験では、多くの結果が、患者さんの機能を判定者が見て評価するような主観的なものでした。データのあった12の試験では、2人の判定は中央値で78%の患者さんで一致していました。それでも、同じ試験の中で比べると、群を知っている判定者は、効果をオッズ比で平均36%大きく見積もっていました。この偏りは、1つの試験あたり中央値で3%の患者さんの判定の違いから生じていました⁠[31]。

Hróbjartssonらの続きの研究は、点数で表す主観的な結果を調べました。群を知っている判定者では、効果の推定値が68%大きくなっていました⁠[32]。群を知る判定者による偏りを、観察者バイアスといいます。

理学療法の試験での隠蔽と盲検化

リハビリテーションの試験は、隠蔽や盲検化の不十分さによる偏りを受けやすい条件をそろえています。運動や手技は、参加者にも治療する人にも、どちらの群かを隠しにくい介入です。結果の多くは、痛みや機能の評価のように主観を含みます。

Armijo-Olivo(アルミホ・オリボ)らは、理学療法の393の試験を調べました⁠[33]。調べた393の理学療法の試験のうち、割り付けが適切に隠されていた試験は11.5%にすぎませんでした。隠蔽が不十分な試験では、効果量が0.12大きい傾向がありました。効果量は、群の差を標準偏差を単位にして表した値です⁠[33]。

隠蔽が不十分な試験での効果量の差0.12は、Armijo-Olivoらの393の試験だけでは有意ではありませんでした。変形性関節症の試験を調べた別の研究と合わせると、差は0.14となり、有意になりました⁠[33]。

理学療法の393の試験のうち、盲検化が適切だった試験は20%でした。盲検化と効果の大きさの間に、有意な関係は見られませんでした。ただし著者らは、有意でないことを、影響がないことと受け取ってはいけないと述べています⁠[34]。リハビリテーションの分野で、盲検化が効果の推定値にどう関係するかは、まだ結論が出ていないとまとめられています⁠[35]。

バイアスの防ぎ方

バイアスの多くは、データを集めたあとでは取り除きにくいので、計画の段階で防ぎます。Coronary Drug Projectの偽薬の群が、その例です。のちにMurray(マレー)とHernán(エルナン)は、偽薬の群を解析し直しました。元の解析は、来院しなかった回に飲んだ量を0とみなしていました⁠[16]。

MurrayとHernánが、来院しなかった回の扱いを改めて、始めた時点の特徴でそろえると、差は7.0ポイントでした。試験の途中で記録された病状の変化なども使ったところ、差は2.5ポイントに縮みました⁠[16]。2018年にさらに改良した解析では、差はほぼなくなっています⁠[15]。偽薬を飲み続けられるかどうかは、その人の経過のよさの目印だったことになります。

MurrayとHernánは、ランダム化のあとのデータを少ししか集めない試験が多い、と指摘しています⁠[16]。あとから偏りを小さくできるかどうかも、何を記録するかを前もって決めたかどうかで変わります。

ランダム化比較試験の計画書に書く項目は、SPIRIT(スピリット)2025という指針にまとめられています。指針は、これに従うことが、質の高い試験の設計と実施につながりうるとしています⁠[36]。表2は、この記事で取り上げるバイアスと、計画の段階での主な防ぎ方です。計画書の書き方は、「研究計画書の書き方」で取り上げています。

バイアス計画の段階での主な防ぎ方
入院(Berkson)バイアス対照を、病院の患者ではなく一般の集団から選ぶ
有病率・罹患率(Neyman)バイアス症例対照研究では、すでに病気をもつ人ではなく、新しく発症した人を症例にする。前向きのコホート研究では生じない
思い出しバイアス前向きの研究で、曝露の情報を病気になる前に集めておく。先天異常の症例対照研究では、別の先天異常をもつ子の母親を対照にする方法がある
検出バイアス介入研究では、病気の見つけやすさを左右する条件がどの群でも同じになるように計画する。観察研究では、見つけやすさの違いを測っておき、解析で調整する
観察者バイアス結果を判定する人に、参加者の群や曝露を知らせない。測り方、道具、時期を前もって決め、判定する人を訓練する
割り付けの隠蔽が不十分なことによる偏り中央のコンピュータや電話で割り付ける、薬局が管理する、外から同じに見える連番の容器を使う。封筒なら、連番をつけた中の透けない封筒に入れて封をし、ていねいに管理する
遵守(adherence)バイアス続けてもらう工夫とその確かめ方を決めておき、主な解析は、途中でやめた人も含め、割り付けた群のまま行う
結果のデータの欠測によるバイアス追跡を続けてもらう工夫を決め、介入をやめた人からも結果を集める。欠測の扱いを前もって決める
報告する結果の選択におけるバイアス参加者を割り付ける前に試験を登録し、主な結果と解析の方針を計画書に定めて見られるようにしておく

表2 バイアスと、計画の段階での主な防ぎ方(文献9、22、27、36–41をもとに作成)

観察研究での防ぎ方

観察研究では、誰を調べるかと、いつ曝露を記録するかが大切です。病院の患者だけで比べる偏りは、対照を一般の集団から選ぶと避けやすくなります⁠[37]。生き残った人だけを調べる偏りは、新しく発症した人を症例にすると避けられます⁠[38]。思い出し方の偏りには、病気になる前に曝露を記録しておく前向きの研究が最も適しているとされています⁠[39]。曝露を先に記録する研究の進め方は、前向きコホート研究の記事で説明しています。

臨床試験での防ぎ方

ランダム化比較試験の報告の指針、CONSORT(コンソート)2025の説明の文書は、割り付けの隠し方を具体的に挙げています。この文書は、中央で一括して割り付ける方法や、試験の外の第三者に割り付けてもらう方法を、特に望ましいとしています⁠[27]。

CONSORT 2025の説明の文書によると、連番をつけた中の透けない封筒に入れて封をする方法も、ていねいに作って管理すれば使えます。ただし、やり方がずさんだと隠蔽が破られることがある、としています。封筒は光にかざしても中が透けないものを使い、参加者の名前などを書き込んでから、番号の順に開けるよう求めています。盲検化はいつもできるとは限らないが、割り付けの隠蔽はどの試験でもできる、とも述べています⁠[27]。

ランダム化した参加者を全員、割り付けた群のまま解析する方法があります。これを、intention-to-treat(インテンション・トゥ・トリート、ITT)解析といいます⁠[27]。ITT解析は、優先する解析として広く勧められています⁠[27]。Coronary Drug Projectは、ITTの原則から外れた解析の危うさを示す例として、世界中の授業で教えられてきました⁠[16]。

ただしMurrayとHernánは、別の推定もできると述べています。途中の経過の記録が十分にあり、適切な方法を使えば、決められたとおりに飲み続けた場合の効果も推定できるというのです⁠[16]。SPIRIT 2025は、介入を続けてもらう工夫とその確かめ方、誰をどの群として解析するかを、計画書に書くよう求めています⁠[36]。

途中で結果が得られなくなった人の値を、推測して埋める方法もあります。しかしCONSORT 2025の説明の文書は、欠測について強い仮定が成り立たなければ、偏りが避けられる保証はないとしています。その仮定が成り立つかどうかは、わからないことがあります⁠[27]。SPIRIT 2025は、追跡を続けてもらう計画、介入をやめた人からも集める結果、欠測の扱い方を、計画書に書くよう求めています⁠[36]。

参加者や治療する人を盲検化できない試験でも、結果を判定する人の盲検化は、しばしば可能です⁠[42]。CONSORT 2025の説明の文書には、治療の前後に病変を写真に撮り、外部の人が判定する例が挙げられています⁠[27]。運動の試験での例は、ランダム化比較試験の記事で紹介しています。

ただし、痛みや満足度のように、参加者が自分で答える結果には、盲検化の問題が残ります。答える本人が群を知っていれば、答えそのものが、群を知ったうえでの答えになるからです。Catalogue of Biasは、盲検化ができないときは、客観的な結果を選ぶことも、偏りを小さくする方法の一つだとしています⁠[43]。

CONSORT 2025の説明の文書は、参加者を割り付ける前に試験を登録して公開することを、最低限の望ましいやり方としています。主な結果を前もって計画書で決めておけば、都合のよい結果だけを選んで報告することが起こりにくくなります⁠[27]。

論文で確かめる点

ランダム化比較試験のバイアスのおそれは、RoB 2という道具を使い、5つの領域ごとに判定します。RoB 2は、Risk of Bias 2の略で、2019年に改訂された道具です⁠[7]。ふつうは、一つの研究の結果がバイアスでどれだけ動いたかを、知ることはできません。そこでCochraneのハンドブックは、結果が偏っていると断定せず、バイアスのおそれを判定するべきだとしています⁠[2]。

RoB 2は、試験の一つの結果について、バイアスが入り込む道筋を5つの領域に分けます(表3)。それぞれで決められた質問に答え、バイアスのおそれを「低い」「いくらか懸念あり」「高い」の3段階で判定します。全体の判定は、ふつう最も悪い領域の判定と同じになります⁠[7]。

領域主に確かめること
ランダム化の過程から生じるバイアスくじの順番の作り方と、割り付けの隠蔽。例:割り付けを隠さない試験
意図した介入からの逸脱によるバイアス割り付けた介入から外れた人の扱いと、参加者と治療者の盲検化。例:きちんと飲んだ人と飲まなかった人の比較
結果のデータの欠測によるバイアス途中で結果が得られなくなった人の数と理由。例:効果のなかった人ほど脱落する
結果の測定におけるバイアス判定者が群を知っていたか、測り方が群で同じか。例:群を知る判定者
報告する結果の選択におけるバイアス前もって決めた結果と解析を報告しているか。例:有意な結果だけを選んで報告する

表3 RoB 2の5つの領域(文献7、42をもとに作成)

表2の防ぎ方も、RoB 2の領域に対応しています。割り付けの隠し方はランダム化の過程の領域、割り付けた群のままの解析は介入からの逸脱の領域、追跡と欠測の扱いは欠測の領域にあたります。判定する人の盲検化は結果の測定の領域、試験の登録は報告する結果の選択の領域にあたります。

本文で取り上げた試験の例も、RoB 2の5つの領域のどこかに当てはまります。割り付けを隠さない試験は1つめの領域、群を知る判定者は4つめの領域の問題です。Coronary Drug Projectの、きちんと飲んだ人ときちんと飲まなかった人の比較は、2つめの領域にかかわります。

一方、RoB 2はランダム化比較試験のための道具なので、観察研究には使いません。観察研究の論文では、誰をどう選んだかと、曝露と結果をいつどう測ったかが、表1の偏りにかかわります。論文を読むときの確かめ方は、「批判的吟味に用いるチェックリスト」で取り上げています。

まとめ

バイアスは、研究の結果を一定の方向へずらす誤差で、人数を増やしても小さくなりません。誰を調べるかで生じる選択バイアスと、聞き方や見つけ方で生じる情報バイアスがあります。臨床試験では、割り付けの隠蔽や判定者の盲検化が不十分だと、効果が大きく見積もられやすくなります。表1のもとにした一覧は、BerksonやNeymanの指摘を、Sackettが1979年にまとめた試みを引き継いでいます。

一つの研究を見ているだけでは、その結果がどれだけ偏っているかはわかりません。Schulzらは250の試験を方法の質で分けて、効果の大きさを比べました。Hróbjartssonらは、群を知る判定者と知らない判定者が、同じ患者さんを判定した試験を探し出しました。多くの試験を並べて比べる方法が生まれて、ふつうは一つの試験では見えない偏りの大きさを、測れるようになりました。

自主トレーニングを毎日続けた人の伸びも、続けた人と続けなかった人を比べるだけでは、運動の効果とはいえません。偽薬をきちんと飲んだ人の死亡率が低かったのと、同じしくみが働いているかもしれないからです。人数の多さより、誰をどう選び、どう割り付け、誰がどう測ったかで、結果の確かさは変わります。

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