研究結果に影響を与えるバイアス


 バイアス bias は,研究結果に影響与える因子の一つです。研究結果に影響を与える因子については「研究結果の統合的解釈」を参照してください。この記事ではバイアスの詳細とバイアスにはどのような種類があるかを学びましょう。

バイアスとは何か?

 一般的には先入観や偏見のことです。疫学においては,バイアスとは真の値から系統的に (偶然ではなく) 偏ってしまうことと定義しています。このバイアスは研究結果に影響を与える因子の一つであり,軽視すると間違った研究結果を引き起こしてしまいます。バイアスには大きく分けて「情報バイアス」と「選択バイアス」があります。以下にこれら二つのバイアスとその回避方法について説明したいと思います。

情報バイアス information bias

 観察 (調査,データ収集) するときに得られる情報が正しくないために起こる偏りのことです。過去の情報を集める時や,質問の仕方によって生じます。下記に様々な情報バイアスをまとめます。

思い出しバイアス(リコールバイアス)

 過去の曝露を質問した時に,思い出し方が人や質問法によって異なることによって起きるバイアス。症例対照研究などの後ろ向きの研究方法で問題となります。

曝露疑いバイアス

 対象者に曝露の有無を確認するとき,質問者が疾病要因についての結果を前もって予測していると,相手が症例であるか対照であるかによって質問の仕方を無意識に変えてしうことがあります。その結果,対象者の答えが変わり,症例の方が曝露が多めに評価されてしまうなどの偏りが生じます。このようなバイアスを曝露疑いバイアスといいます。

家族情報バイアス

 自分が疾病を罹患している方は,疾病自体への理解や興味が強く,家族の疾病にも気づきやすい状況が考えられます。そのため,症例の方が対照に比べ多めに家族歴を評価されやすくなる場合があります。

診断バイアス(コホート研究)

 曝露の有無を診断材料に使うと,曝露した人のほうが罹患率は高めになってしまうというバイアスです。

発見兆候バイアス(コホート研究)

 曝露群の方が検査を受けやすくなって罹患率が上がってしまうバイアスです。

選択バイアス selection bias

 観察する集団が母集団を正しく代表していないときに起こる偏りです。対象者を選ぶ段階で偏ってしまい,その後の調査結果を間違った方向へ導きます。以下に様々な選択バイアスとまとめます。

Neyman バイアス

 罹患後症例とするまでに時間が長い場合,曝露が少ない者が治癒しやすいという関係があれば症例の曝露が多めに評価されるので,罹患率比が高くなります。曝露が多いものが死亡しやすいという関係があれば症例の曝露が少なめに評価されるので罹患率比が低くなります。このようなバイアスは prevalence-incidence bias や Neyman バイアスと呼ばれます。このバイアスを避けるには罹患直後に症例とすることが重要になります。

入院 (Berkson) バイアス

 病院対照を選んだ場合 (病院内で別の疾患に罹患している患者さんを選んだ場合) ,仮に研究対象としている曝露が,その疾患だけでなく各種の疾患を起こしやすいものであるなら,対照にも曝露があるので,結果として罹患率比が低くなる傾向となります。このようなバイアスを入院バイアスまたは Berkson バイアスといいます。

診断バイアス(症例対照研究)

 医師が曝露の有無を診断材料にする場合,曝露の無い患者は症例になりにくくなり,罹患率比が高くなるバイアスがおこります。このようなバイアスを diagnostic suspicion bias といいます。

非協力者バイアス・積極協力者バイアス・自己選択バイアス

 曝露のある人が調査を拒否しやすいときや(非協力者バイアス),逆に曝露があるからこそ積極的に協力する場合もバイアスが起こります(積極協力者バイアス,自己選択バイアス)。

発見兆候バイアス(症例対照研究)

 曝露が疾病そのものの発生を上げるのではなくて,その疾病への罹患を疑わせるような症状の発生率を上げるような場合,曝露した人の方が検査を受けやすくなるので,罹患率比は高くなります。ただし,エンドポイントが疾病への罹患ではなく,その疾病による死亡であるような場合は,早期発見される確率が上がって死亡率比が低くなります。

バイアスの回避方法

 これらのバイアスは研究結果を正しくない方向へ偏らせ,間違ったエビデンスを提供することにつながります。そのため,研究者は研究結果からバイアスを出来る限り排除する必要があります。

 バイアスを回避するためには,まずはそのバイアスが起こりにくい研究方法を選択することです。例えば,前向きコホート研究では対象者が罹患する前に曝露状況を調査するので,症例対照研究などで問題なる思い出しバイアスを回避できます。

 また,対象者を介入と対照に分ける際にランダム化 (無作為割付) を行うことで,選択バイアスを回避できるといわれています。さらに二重盲検によって,バイアスを回避しやすくなります。二重盲検とは,対象者がどちらの群に属しているか,対象者,観測者,解析者の少なくとも2名に知らせないことをいいます。

 完全にバイアスを除くことは困難ですが,出来る限りバイアスを取り除くことで,研究結果を真の値に近づけることができます。そのため,研究に取り組まれる方は,バイアスが研究結果に与える影響やその回避方法について深く理解する必要があります。

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