生理学は難解です。私自身,学生の時も医療従事者としての資格を手にしてからも,その認識は変わっていません。しかし,生理学は全ての医療職の養成校で必ず学ぶ学問であり,全ての医療職の国家試験に出題されます。今回は生理学とはなにかと,医療従事者が生理学を学ぶ必要性についてお話ししたと思います。
生理学とは
ヒトの身体は生存していくためにさまざまなしくみを併せ持っています。生存のためのエネルギーを得るために食事をして,それを消化吸収し,循環によって栄養を運び,細胞で栄養素を燃焼するために呼吸で酸素を取り入れ,排気ガスである二酸化炭素を出します。
食物吸収の残りは排便により体外に出され,細胞代謝の老廃物は尿として出されます。これらのしくみがスムーズに協調するために神経系や内分泌系が調節を行います。生体のさまざまな機能は,究極には生体内の細胞を生存させるためにあるといえるでしょう。
この生体の機能を探求する学問の一分野に生理学があります。生理学そのものは単に生体の機能を解明するだけでなく,解明された知見をもとに生命そのものの存在の理由を明らかにする学問です。ですから,生理学は生命の理にとわりを追求する学問といえます。
なぜ医療従事者は生理学を学ばなければならないのか
生理学は医学の基礎的分野を形成します。それは,正常な生体の機能を理解しなければ,生体機能の異常である「病気」は理解できないと考えられているからです。生体を理解する基礎的学問としては,形態を学ぶ解剖学がありますが,その解剖学の知識に立脚して生体の機能を理解するのが生理学です。
解剖学は各部位の名前や形を学ぶ学問ですから,医学における言語学であり,地理学です。一方,生理学は機能を学びますが,これには「動き」が意識されます。動きは時間の経過を伴いますので,生理学は時間の学問であるといえます。
形態が変われば,そこに生じる動きも変わります。その動きが逸脱して,破綻することを病気になるといえるかもしれません。我々が病気になった方に対峙したとき,正しい形態や動きを知らなければ何ができるでしょうか。
一般の臨床家が生理学全てを理解することは困難です。しかし,自分が焦点をあてる器官と,それに深く関わる周囲の器官については少なくとも理解を深める必要があると思います。生理学の学習を困難に思うのは誰でも同じです。そこを耐えて,なおかつ乗り越える契機となるのは,患者さんを少しでも良い方向へ改善したいと考える医療人としての意志なのかもしれません。