医療従事者のための大学院選びのポイント


 もしあなたが医療専門職で,このサイトをみてくれているのだとしたら,日々の臨床でなんらかの疑問を持ち,その疑問を解決するための「研究」に興味がある方かもしれません。もしかすると,研究方法を学びに大学院への進学を考えている方もいると思います。そういう方々のために大学院 (研究室) を選ぶさいのポイントや注意点についてお話ししたいと思います。

何を目的に大学院に進学したいのか?

 医療専門職が大学院へ進学しようと考えている方には,以下の2つの目的のうちどちらかを持っているのではないでしょうか。一つは,大学院に進学して,臨床で研究できる能力と方法論を学びたいという目的,もう一方は,大学院へ進学して研究機関あるいは養成校の教職に就きたいという目的です。目的は人それぞれですので,ここで議論しようとは思いません。この記事では,一つ目の目的を持った方に向けて大学院に進学する際のポイントを説明したいと思います。

臨床で研究するために大学院へ進学したい!

 日頃,真剣に患者さんと向き合っていたら,自分のやっていることに本当に効果があるのか,自己満足で終わっていないか,知りたくなりますよね。そういったことを知りたいのでしたら,大学院への進学は正解です。大学院への進学によって,今以上に文献の検索がうまくなり,内容の読解力も向上するでしょう。また,自身の疑問を解決するための研究方法にも精通すると思います。

 しかし残念なことに,いくつかの大学院は一般社会の常識が全く通じないところです。良く知らずに選んでしまうと,今まであなたが高めてきたモチベーションや,貴重な時間を無駄に消費してしまう結果になります。そうならないためにも,大学院選びのポイントを大学院進学の注意点とともに下記に説明したいと思います。

まずはよく調べましょう.

 大学院の研究室は数多にあります。あなたが興味のある分野を研究している研究室を探しましょう。方法はいくつかありますが,一番は興味のある分野についての文献を検索することです。研究を臨床に生かしたいと思っているあなたです,既に論文を読む習慣はあるかと思います。

 論文には著者名や,所属が書かれています。著者名のうち,ファーストオーサー (論文の一番はじめに名前のある著者) か,セカンドオーサー (二番目に名前のある著者) ,あるいはラストオーサー (論文の最後に名前のある著者) がその研究室の教授 だと思います。該当する名前と所属を調べて,webで検索してみて下さい。大学か,研究室のHPが引っかかるはずですので,そこからその人の実績や風貌を調べてください。

 ここで注意していただきたいのは,探し当てた教授がいいお年頃で,それにも関わらず近年掲載された論文でファーストオーサーであることが多いときです。一見,自ら論文を執筆している実績のある研究者にみえるのですが,その実,若手 (研究室の助手や大学院生) を育てる能力に欠けるのかもしれません。

 あるいは,最悪な教授だと,大学院生が行った研究をファーストオーサーで投稿している方もいます。どこの会社でも同様だと思いますが,晩年の研究者は後続を育てることが重要だと考えられています。そういった思想をもった教授は,ラストオーサーに位置していることが多いです。

実際に教授に会いましょう.

 どこの大学院でも,まずは研究室の教授にメールを送り,後日,面談して進学の許可をいただく決まりとなっています。大学院は試験を受ければ誰でも入れるわけではなく,研究室の教授の許可が必要です。形式張っていて面倒かと思います。しかし,この面談がとても重要なのです。

 面談の際は,一度,その教授が書いた素晴らしい論文のことは忘れて,曇りのない心の目で目の前の彼 (あるいは彼女) を見て下さい。話し方,考え方,見た目の怪しさ…この面談はあなたが評価される場ではありません,あなたがその教授を評価する場です。人として尊敬できないと思ったら,迷わず違う研究室を選択して下さい。

研究室の状況を把握しよう

 大学のHPや研究室のHPには,所属する院生の数や属性 (同大学進学者か他大学進学者かなど) を公表していることがあります。出来ることなら,院生の全くいない研究室はやめておくことをお勧めします。なぜなら,そのような研究室には多くの場合なんらかの問題を抱えていることが多いからです。

 例えば,研究費.研究者の多くは科学研究費 (科研費) を国からもらって研究を進めます。この科研費は,誰でももらえるわけではありません。研究計画や過去の実績などをあわせて応募し,審査に通った研究者のみが受け取ることができます。従って,科研費をもらえていない研究者は,新規性のある研究計画をたてられない,あるいは過去の実績が乏しいともいえます。研究費を用意できない研究室は当然,やりたい研究が思うようにできませんので,院生の数も多くありません。

 また,大学院へ進学したものの途中で辞めてしまう院生も多いです。その場合,院生の個人的な資質に問題があるかもしれませんが,教授の指導に問題があることもあります。そのような研究室は院生 (特に同じ大学の学部出身者) がよりつきません。その研究室のある大学に知り合いがいるのなら必ず話を聞いてみましょう。可能でしたら,今現在,研究室に所属している院生の話を聞いてみましょう。

良い研究室をみつけたら

 とにかく,やると決めた以上は最大限努力して下さい。努力の結果,研究に精通することで,今までの臨床感がかわることを約束します。臨床経験で培った,患者さんの心情や状況を考えられる能力に,大学院で得た客観的に自分の医療行為を観察できる能力が加わり,今以上に医療人として成長した自分を感じるはずです。そのときあなたが持っているだろう新しいエビデンスを生み出す能力は,未来の患者さんへの希望となります。

まとめ

 学費や時間,最も貴重な臨床家としてのモチベーションを失わないように,研究室選びは慎重に行って下さい。患者さんと医療従事者との関係も人と人,教授と大学院生の関係も人と人です。相性のあう教授を選ぶことをお勧めします。

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