Evidence based medicine (EBM) とは日本語でいえば根拠に基づいた医療のことです。昨今,医療現場においてこのEBMの実践が求められてきています。EBMを実践することで患者さんに質の高い,明確に効果のある医療を提供することができると信じられています。EBMを誤解なく実践するためにまずはEBMの定義とそれが成立してきた背景について学びましょう。
EBMの定義
EBMの定義として最も有名なものはSackettの定義です (Sackett DL, BMJ 1996)。文献から一部抜粋したものをみてみましょう(原文の下は和訳です)。
“Evidence based medicine is the conscientious, explicit, and judicious use of current best evidence in making decisions about the care of individual patients. The practice of evidence based medicine means integrating individual clinical expertise with the best available external clinical evidence from systematic research.”
Evidence based medicineは,一人ひとりの患者のケアについて意思決定するとき,最新で最良の根拠を,良心的に,明示的に,そして賢明に使うことである。Evidence based medicineの実践は,個人の臨床的専門技能と系統的研究から得られる最良の入手可能な外部の臨床的根拠とを統合することを意味する。
さらにEBMのハンドブックである "How to Practice and Teach EBM" の改定において「最良のエビデンス」や「個人の臨床的専門技能」に「患者さんの価値観や状況」が加えられました。
つまりEBMとはエビデンスのみを用いることではなく,個人の経験や熟練,患者さんの価値観や状況など考慮してエビデンスを思慮深く用いることといえます。ここで注意していただきたいのはEBMは抽象的な概念や理論としてではなく,具体的な行動として定義されているところです。つまり,EBMとは医療従事者が実践的に判断し,行動するための方法論であるといえます。
実際,EBMは以下の5つのステップにより実践されます。
- 患者の臨床問題や疑問点を明確にする
- それに関する質の高い臨床研究の結果を効率よく検索する
- 検索した情報の内容を批判的に吟味する
- その情報の患者への適用を検討する
- (1)から(4)までのプロセスと患者への適用結果を評価する
このような一連のステップを通して,患者さんに (現状で) 最適な医療を提供すること,そのために必要な行為そのもの。それが,EBMというわけです。この5ステップは,EBMにおいてとりわけ重要なため,別記事に詳細を説明しました(→ EBMの5ステップについて)。
EBM成立の背景
EBMの考え方についてはかなり昔1960年代から存在しましたが,実際にevidence based medicine という用語が初めて使用されたのは1991年になります。さらに翌年1992年にJAMAにEBM宣言が掲載されました。一部を以下に示します。
ここで初めて臨床判断において直感や系統的でない臨床経験や病理学的理論による根拠よりも臨床研究からの根拠を優先して用いることを推奨しています。
またこのようなEBMが世界的に広まってきた背景には一般的に以下のことが関連していると考えられています。
“A NEW paradigm for medical practice is emerging. Evidence-based medicine de-emphasizes intuition, unsystematic clinical experience, and pathophysiologic rationale as sufficient grounds for clinical decision making and stresses the examination of evidence from clinical research.”
ここで初めて臨床判断において直感や系統的でない臨床経験や病理学的理論による根拠よりも臨床研究からの根拠を優先して用いることを推奨しています。
またこのようなEBMが世界的に広まってきた背景には一般的に以下のことが関連していると考えられています。
- 科学的な根拠に基づいた臨床判断の必要性に対する医療者側の意識が高まってきた
- 患者や家族がインターネットを利用して医療情報を入手しやすくなったことにより,医療の内容・質に対する患者側の意識が高揚してきた
- インターネットを利用して,コクラン・ライブラリーなどのエビデンス・データーベースから,質の高い臨床研究の結果を効率よく入手できるようになった
- 臨床疫学や統計学の進歩により,根拠となる臨床研究のデザインや方法論,妥当性・信頼性を判断するため基準が整備されてきた
- 医療の標準化と効率化を求める行政側からの要求が高まってきた
最近では,EBMを医療専門職ごとに根拠に基づいた○○ (例えば看護や理学療法など) と呼び,各々の専門領域に合わせた形でEBMを実践しようという考え方がでてきているようです。
コメント
私は過去にEBMをエビデンスと同義に捉えていました。頭の中でひとり歩きしていた言葉をしっかりと見つめなおして勉強していくと,EBMがエビデンスを臨床経験や患者さんの価値観や状況などと統合して用いる方法論だということが分かってきました。EBMに限らず何かを実践するためにまずはそれが何なのかを知ることが大切だと思っています。
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