大腰筋と腸骨筋の機能と役割:大腰筋は腰を動かす筋なのか

大腰筋と腸骨筋の機能と役割:大腰筋は腰を動かす筋なのか

100 kgのバーベルを持ち上げても、大腰筋の活動は最大の16%に届きませんでした(Jukerら 1998)。腰椎から起こる筋なのに、重い物を持ち上げる動作で大きな役割を担っているという証拠はないのです。それでも腰痛の説明では、大腰筋がしばしば中心に置かれます。

デスクワークの多い40代の会社員が腰痛を訴え、立った姿勢では腰の反りが強く見えたとしましょう。修正トーマステスト、つまり台の端にあお向けになって片方の膝を胸に抱え、台から垂らした反対側の脚の太ももが浮くかを見る検査では、太ももが浮きました。「腸腰筋が硬いせいで腰椎が前に引っぱられて反り腰になり、腰が痛むのだから、腸腰筋をストレッチすればよい」という説明は正しいのでしょうか。

大腰筋と腸骨筋の機能と役割の要点

  • 形:大腰筋は腰椎から、腸骨筋は骨盤の内側から起こり、共通の腱で大腿骨の小転子に付く。神経支配は異なり、大腰筋は腰神経叢から直接出る枝、腸骨筋は大腿神経に支配される
  • 主な作用:どちらも股関節を曲げる。2つの筋は多くの場面で一緒に働くが、課題によって使われ方が違う
  • 腰椎への作用:大腰筋が腰椎を曲げたり反らせたりする力はごく小さい。腰椎を安定させる働きは、可能性が示されている段階である
  • 腰痛との関係:「腸腰筋が硬い→反り腰→腰痛」という連鎖は、研究で支持されていない。修正トーマステストは腸腰筋だけでなく大腿直筋や大腿筋膜張筋なども含めた検査である
  • 歩行と加齢:大腰筋と腸骨筋は歩くたびに働き、脚を前に振り出すのを助ける。地域の高齢者433人を1年間追った研究では、股関節を曲げる筋力の弱さが、運動器の衰えによる生活機能の低下を予測した

大腰筋と腸骨筋の形:2つの筋と1つの腱

大腰筋と腸骨筋は、まとめて腸腰筋と呼ばれます。大腰筋は、第12胸椎から第4腰椎までの椎体の側面と椎間円板、そして第1から第5腰椎の肋骨突起、英語の教科書で横突起と呼ばれる突起から起こります(Gorman 2023)。腸骨筋は、骨盤の内側のくぼみである腸骨窩の上方3分の2を中心に、腸骨稜の内側や仙骨の一部から起こります(Vasković 2026)。2つの筋は骨盤の内側を下り、鼠径靱帯の下をくぐって股関節の前に出て、共通の腱で大腿骨の内側にある小転子に付きます(図1、表1)。

骨盤と腰椎を前から見た模式図。腰椎から起こる大腰筋と、腸骨の内側から起こる腸骨筋が、股関節の前で合流して大腿骨の小転子に付く

図1 大腰筋と腸骨筋の模式図。前から見た図で、筋は片側だけを描いている

筋起始・停止・神経支配
大腰筋起始:第12胸椎〜第4腰椎の椎体と椎間円板、第1〜第5腰椎の肋骨突起
停止:小転子
神経:腰神経叢から直接出る枝(L1〜L3)
腸骨筋起始:腸骨窩の上方3分の2、腸骨稜の内唇、仙骨の外側部など
停止:大腰筋の腱とともに小転子
神経:大腿神経(L2〜L4)

表1 大腰筋と腸骨筋の起始・停止・神経支配(Gorman 2023、Vasković 2026、BordoniとVaracallo 2026をもとに作成)。起始の高さや神経根の範囲は資料によって少し異なる

神経支配が違うことは、2つが別の筋であることを示す解剖学的な手がかりです。大腰筋は腰神経叢から直接出る短い枝に、腸骨筋は大腿神経に支配されます(BordoniとVaracallo 2026)。

大腰筋は股関節を曲げる筋の中で最も大きい、と説明されることがあります。しかし、遺体の下肢の筋を詳しく測った研究では、筋が出せる力の目安となる生理学的断面積、つまり筋線維の向きに垂直に切ったときの断面積は、大腰筋が7.7 cm²で、大腿直筋の13.5 cm²より小さい値でした(Wardら 2009、図2)。腸骨筋の9.9 cm²と合わせて、ようやく大腿直筋を上回ります。ただし、同じ研究グループによる別の遺体研究では、大腰筋の生理学的断面積が18.45 cm²と報告されており(Regevら 2011)、値は研究によって大きく異なります。

股関節を曲げる筋の生理学的断面積を比べた横棒の図。大腿直筋13.5、腸骨筋9.9、大腰筋7.7、縫工筋1.9平方センチメートル

図2 主な股関節屈曲筋の生理学的断面積(Wardら 2009の遺体での測定値の平均をもとに作成)。個人差は大きく、別の遺体研究では大腰筋の値がこの2倍以上と報告されている

筋電図が明らかにした2つの筋の働き

大腰筋はお腹の奥にあるため、体の外から調べるのが難しい筋です(Huら 2011)。1950年代にBasmajianは、2つの筋が別々の働きをするとは考えにくいとして、腸骨筋の筋電図から大腰筋の活動を推測しました(Huら 2011)。この考え方は、腸腰筋を1つの筋として扱う見方と重なります。1960年代には、Nachemsonが大腰筋の腰椎の部分の筋電図を記録し、大腰筋が腰椎を安定させる働きに注目しています(Nachemson 1966)。

1990年代には、大腰筋が腰椎にどれだけの力を及ぼせるかが、解剖と力学の両面から調べられました。Bogdukら(1992)は、遺体で大腰筋の筋束を一つずつ調べ、X線写真をもとにモデルを作りました。その結果、大腰筋が腰椎を前後に曲げる力はごく小さく、上部の腰椎はわずかに反らせ、下部の腰椎はわずかに曲げる向きに働くことがわかりました。一方で、最大に収縮すると、腰椎には強い圧縮力と大きなずれの力がかかりました。遺体の計測とMRIを組み合わせた研究も、大腰筋は脊柱をねじり戻す筋としては働けず、腰椎の前弯を調節する大きな作用もないと結論しています。ただし、腰椎に圧縮の力を加えることや、両側が同時に働くことで腰椎を安定させる可能性や、腰椎を横に曲げる作用は認めています。また、大きなずれの力がかかるのは第5腰椎と仙骨の間だけだとしています(SantaguidaとMcGill 1995)。

1990年代になると、超音波画像で確かめながら細いワイヤー電極を筋の中に刺す方法が使われるようになり、2つの筋を同時に、別々に記録できるようになりました(Huら 2011)。7人の成人で大腰筋と腸骨筋を同時に記録した研究では、2つの筋はおおむね一緒に働いていましたが、その強さの割合は課題によって違っていました。立って反対側の股関節を後ろに伸ばすときには、腸骨筋が選択的に働いて骨盤を安定させていました。背筋を伸ばして座るときや、反対側に負荷がかかって体幹を横方向に安定させる必要があるときには、大腰筋が選択的に働いていました(Anderssonら 1995)。筋の中に電極を刺す方法で8人の大腰筋を調べた研究では、腹筋運動のうち上体を少し起こすだけのカールアップでは最大努力で収縮させたときの10%未満、上体を起こしきるシットアップでは15〜35%、100 kgまでのバーベルを持ち上げても16%未満で、最も強く働いたのは股関節を最大に曲げようとしたときでした(Jukerら 1998)。大腰筋の活動は、持ち上げる重さよりも、股関節を曲げる力の必要性に応じて高まっていたのです。

あお向けで伸ばした脚を持ち上げる動作を、健康な女性17人で調べた研究では、腸骨筋は持ち上げる側でだけ働き、大腰筋の活動より先に始まりました。一方、大腰筋は左右両側でほぼ同じように働いていました。著者らは、大腰筋は左右両側で働いて、腰椎を横方向に安定させているのだろうと考えました(Huら 2011)。

大腰筋は腰を動かす筋なのか

こうした研究から、いくつかの考えが見直されました。1つめは、腸腰筋は1つの筋だという考えです。2つの筋は腱を共有し、多くの場面で一緒に働きますが、神経支配が違い、課題によって別々の使われ方をします(Anderssonら 1995、Huら 2011)。

2つめは、大腰筋が腰椎を強く曲げる、あるいは反らせるという考えです。大腰筋が腰椎を前後に動かす力はごく小さく、その向きも上部と下部で逆でした(Bogdukら 1992)。筋電図で大腰筋の部分ごとの働きを調べた研究でも、横突起から起こる筋束は体幹を反らせる力を出すときに、椎体から起こる筋束は曲げる力を出すときに、より強く働いていました(Parkら 2012)。大腰筋の中でも、部分によって使われ方が違うのです。

3つめは、大腰筋が腰椎の主要な安定筋だという考えです。弾力のある金属の板と糸を使った模型の実験をもとに、大腰筋は立った姿勢で前弯した腰椎を安定させている、という仮説が出されています(Penning 2000)。遺体での筋の構造の測定と、手術中の筋の測定を組み合わせた研究も、腰椎を安定させる役割を支持すると述べています(Regevら 2011)。しかし、重い物を持ち上げても大腰筋の活動は最大の16%未満にとどまり、持ち上げる動作で大きな役割を担っているという証拠はありません(Jukerら 1998)。腰椎を横方向や圧縮によって安定させる役割はありうるものの、主要な安定筋とまでは言えないのが現状です。

4つめは、大腰筋が股関節を外にひねる、あるいは内にひねるという考えです。遺体の大腰筋を筋の向きに引っぱった実験では、解剖学的な姿勢の股関節は曲がるだけで、ひねる動きは起きませんでした。外にひねる動きが見られたのは、股関節を外に開いた姿勢のときだけでした(Skyrmeら 1999)。大腰筋がひねる作用をもつかどうかは、股関節の姿勢によって変わるのです。

硬い腸腰筋は腰痛を招くのか

「腸腰筋をストレッチすればよい」という助言は、腸腰筋が硬いと腰椎の前弯が強くなり、それが腰痛を招く、という2段階の連鎖を前提にしています。しかし、どちらの段階も研究では支持されていません。股関節を後ろに伸ばせる角度と腰椎の前弯の関係を25人で調べた研究では、相関係数はr = −0.09で、関係はほとんどありませんでした(Heinoら 1990)。症状のない成人90人を調べた研究でも、腰椎の前弯や骨盤の傾きを股関節屈曲筋の長さなどでうまく説明することはできず、姿勢を直す目的で股関節屈曲筋をストレッチすることには疑問があると述べています。ただし男性では、腹筋と単関節の股関節屈曲筋の長さに、ふだんの身体活動量を組み合わせると、前弯の個人差の約4割を説明できました(Youdasら 1996)。

腰痛との関係も同じです。腰痛のある人とない人あわせて600人をある時点で比べた横断研究では、腰椎の前弯の大きさや骨盤の傾き、腸腰筋の長さは、腰痛と関連していませんでした。関連していたのは、背筋の持久力や、股関節屈曲筋、股関節内転筋、腹筋の筋力などでした(NourbakhshとArab 2002)。横断研究なので、筋力の弱さが腰痛の原因なのか結果なのかはわかりません。腰痛が起きる前の状態を調べた前向きコホート研究をまとめた系統的レビューでは、むしろ腰椎の前弯が小さいことが、弱いながらも、のちの腰痛の発生を予測していました(Sadlerら 2017)。

トーマステストの結果の読み方にも注意が必要です。修正トーマステストは、腸腰筋だけでなく、大腿直筋や大腿筋膜張筋も含めて、股関節の前の組織の短さを見る検査です(Eimillerら 2024)。骨盤の傾きを管理しないで測ると、股関節を伸ばせる角度の不足を正しく判定できず、健康な大学生29人での感度は31.82%、特異度は57.14%でした(Vigotskyら 2016)。信頼性の研究をまとめた系統的レビューでも、股関節屈曲筋の柔軟性を調べる検査の中で、トーマステストの検者間の信頼性は最も低い値でした(González-de-la-FlorとSeijas-Otero 2026)。

腰痛や下肢のけがのある患者さん33人のうち、股関節を後ろに伸ばす角度が小さい人を対象にした試験では、自宅で行う2種類のストレッチ、つまり姿勢や外からの力で伸ばす他動的なストレッチと、股関節を伸ばす筋を収縮させて伸ばす自動的なストレッチのどちらでも、6週間で角度が同じように改善しました(Wintersら 2004)。ただし、この試験にはストレッチをしない群がなく、腰痛を減らす効果も調べていません。腸腰筋のストレッチが腰痛を減らすかどうかは、まだ十分に確かめられていません。

太ももが浮いた会社員について言えるのは、股関節の前にある組織のどれかが短いかもしれない、というところまでです。その組織が腸腰筋だとは限らず、骨盤の傾きを管理していなければ、その判定自体も不確かです。腰の反りが強く見えることも、腰痛の原因とは言えません。ストレッチで股関節を伸ばす角度が改善することはあっても、腰痛が減るとは約束できないので、腰痛のある人で弱かった背筋の持久力や、股関節屈曲筋と腹筋の筋力も含めて評価することになります。股関節を伸ばす角度の測り方は「下肢の関節可動域測定(評価):参考可動域角度は「正常値」なのか」で、腰椎の構造は「椎体間連結の構造と機能:腰痛との関連について」で紹介しています。

歩く、走る、年をとる

大腰筋と腸骨筋は、歩くたびに働いています。歩くときの脚の振り出しは振り子のような受動的な動きで、平地では股関節を曲げる筋の弱さはあまり問題にならない、という説明があります。しかし、細いワイヤー電極で記録した研究では、腸骨筋も大腰筋も、調べたすべての速度で、1歩行周期ごとに働いていました。股関節を曲げる働きにかかわる活動は、速く歩くほど早く始まり、秒速2.0 mを超える速さでは活動の大きさが大きく増え、歩くときと走るときの差も大きくなりました(Anderssonら 1997)。歩行のコンピュータシミュレーションでも、股関節の前の伸ばされた組織による受動的な力とともに、股関節だけをまたぐ屈曲筋の力も、脚を前に振り出し始めるのを助けていました(Neptuneら 2004)。高齢者は、足関節で蹴り出すパワーが小さい分を、股関節を曲げるパワーを大きくして補っているようだ、とも報告されています(Judgeら 1996)。

走ることとの関係も調べられています。男子の短距離選手56人と、体格が同じくらいで特別なトレーニングをしていない男性40人をMRIで比べた研究では、短距離選手の大腰筋の断面積は21.7%大きく、大腰筋の断面積が大きいほど100 m走の自己最高記録が速い、という弱い相関がありました(r = −0.36〜−0.39、Tottoriら 2021)。しかし、大学の短距離選手14人の研究では、大腰筋の断面積と100 m走の記録に有意な相関は見られませんでした(Fujitaら 2019)。一流と準一流の短距離選手を比べた研究では、両者を分けていたのは、股関節を伸ばす筋や大殿筋の大きさでした(Millerら 2021)。大腰筋の大きさが走る速さと関係するという報告はありますが、結果は研究によって一致せず、それだけで速さが決まるわけでもありません。

年齢との関係も調べられています。20歳代から70歳代までの女性をMRIで調べた研究では、大腰筋の断面積は20歳代が最も大きく、年代が上の人ほど小さい値で、60歳代までは少しずつ、70歳代では大きく下がっていました。一方、大腿四頭筋は40歳代まで保たれ、その後も急な低下はありませんでした(Takahashiら 2006、図3)。地域に住む高齢者433人を1年間追った研究では、運動器の衰えによる生活機能の低下が進むかどうかについて、調べた体の機能の中で主な決定因子とされたのは、股関節を曲げる筋力でした(Ikezoeら 2021)。

女性の大腰筋と大腿四頭筋の断面積を20歳代の値を100%として年代ごとに示した折れ線の図。大腰筋は70歳代で63%、大腿四頭筋は72%

図3 女性の大腰筋と大腿四頭筋の断面積の年代による違い(Takahashiら 2006の各年代35人の平均値から、20歳代を100%として計算)。同じ人を追った変化ではなく、年代の違う人どうしの比較である。高齢の年代ほど平均身長が低く(20歳代160.7 cm、70歳代148.5 cm)、身長で補正した値では70歳代は大腰筋で約80%、大腿四頭筋で約89%になる

まとめ

大腰筋は腰椎から、腸骨筋は骨盤の内側から起こり、共通の腱で小転子に付いて、どちらも股関節を曲げます。2つの筋は神経支配が違い、多くの場面で一緒に働きながら、課題によって別々に使われます。大腰筋が腰椎を前後に動かす力はごく小さく、腰椎を安定させる役割はありうるものの、主要な安定筋とまでは言えません。腸腰筋が硬いと反り腰になって腰痛を招く、という連鎖は研究で支持されていません。一方で、2つの筋は歩くたびに働きます。高齢者では、股関節を曲げる筋力の弱さが運動器の衰えによる生活機能の低下を予測した、という報告もあります。

大腰筋はお腹の奥にあり、筋電図の電極を届かせることが難しい筋でした。1950年代には、腸骨筋の記録から大腰筋の活動が推測されていました。共通の腱で同じ場所に付く姿からも、2つは1つの筋のように見えます。超音波で確かめながら細い電極を筋の中に刺し、2つを同時に記録できるようになって、課題によって使われ方が違うことがわかりました。100 kgのバーベルを持ち上げても大腰筋の活動が最大の16%に届かないという結果も、筋の中に電極を刺して得られたものです。形から推測された働きと、電極で測られた働きとは、必ずしも一致しなかったのです。

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