大腰筋と腸骨筋は,あわせて腸腰筋とも呼ばれ,股関節の屈曲を担う巨大な筋群です。ここでは大腰筋と腸骨筋の機能と役割について説明します。
大腰筋 psoas major
大腰筋は腹部の深層に位置する筋で,腰椎と大腿骨小転子に付着しているため,大腿直筋,縫工筋,大腿筋膜張筋などの他の股関節屈筋群よりもモーメントアームは短くなります。一方で生理学的断面積が他の筋群よりかなり大きいので強力に股関節屈曲に作用すると考えられています。以下に,大腰筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
起始:第12胸椎から第5腰椎の椎体外側面,椎間円板,各椎骨横突起
停止:大腿骨小転子
神経支配:脊髄神経の腹根(L1-L3かL4)
作用:股関節屈曲,股関節外旋,股関節内旋,腰椎側屈(腰椎の屈曲や伸展については一定の見解を得ていない),腰椎の安定
主な作用は股関節の屈曲ですが,その他の作用も報告されています。ただし,一部の作用(腰椎の屈曲や伸展)については矛盾した報告多く,一定の見解を得ていません。股関節の内外旋は股関節90°屈曲位でわずかに働くと言われています。また,腰椎側屈は側臥位から体幹を起こすときや,立位で体幹を側屈する際に活動します。
大腰筋と歩行の関係
大腰筋の筋力低下は股関節を屈曲しにくくさせます。そのため,浴槽のまたぎ動作や,階段や段差の昇降動作を困難にして転倒のリスクが高まります。一方で,単純に平地歩行している分には,大腰筋の筋力をほとんど使用しないため,筋力低下の影響を受けにくいと言われています。歩行時の遊脚期には股関節の屈曲を振り子の原理で代償するからです。つまり,骨盤挙上により位置エネルギーが蓄積され,下肢全体が振り子のように前方に振り出され,本来なら大腰筋で必要な筋力を補完するのです。
腸骨筋 liacus
腸骨筋は腸骨と大腿骨小転子に付着している生理学的断面積の大きな筋です。大腰筋と同じく,モーメントアームは短いですが,生理学的断面積の大きさから股関節屈曲の主動作筋であると考えられています。以下に,腸骨筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
起始:腸骨窩の底部および仙骨,腰仙関節と仙腸関節の前面にある靭帯
停止:大腿骨小転子(断面積が大きく強い筋力を発揮するため,聖天市の遠位部や関節包の前部に広がって付着している)
神経支配:大腿神経の第2・3腰神経の分枝
作用:股関節屈曲,股関節外旋
主な作用は股関節屈曲です。大腰筋とは違って脊椎に付着していないため純粋に股関節屈曲に作用します。股関節の外旋作用も有りますが,股関節伸展位から屈曲位にかけてわずかに作用するだけです。
股関節の屈曲拘縮
股関節の屈曲拘縮は何かしらの障害を持っていなくても一般的に認められます。特にデスクワーク(座っていること)が多い職種の方は屈曲拘縮を起こしやすいといわれています。股関節に屈曲拘縮があると,立位姿勢時に腰椎の過剰な前弯を引き起こしたり,体幹が前傾位になったりします。これらは腰椎やその周辺の筋群に過剰なストレスをかけるため,腰痛の原因になる可能性があります。
まとめ
大腰筋と腸骨筋は,股関節に作用する大きな筋群です。基本的には股関節に単独で作用して,股関節の安定性や骨盤位置の決定など様々な役割を持ちます。これらの筋群の拘縮や筋力低下は日常生活動作の制限を引き起こしやすく,適切な評価や介入を行わなければならない重要な筋だといえます。
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