Timed Up and Go (TUG)


 Timed Up and Go (TUG,タイムドアップアンドゴー) は移動能力をスクリーニングするための評価指標です。TUGは1986年にMathiasらによって開発されたGet up and go test (ゲットアップアンドゴーテスト)を原型として,1991年にPodsiadloとRichardsonがGet up and go testの検者間信頼性を改善する形で開発されました。以下にその目的,方法および特性(床・天井効果,信頼性,妥当性など)について説明します。

評価の目的と対象

 TUGは座位〜起立〜歩行〜着座までの一連の流れを含むため,移動能力やバランス能力に加え,一連の動作を円滑に行えるかを評価することができます。もともと虚弱高齢者の移動能力を評価するために開発されましたが,現在では中枢神経系疾患,骨関節系疾患を含む様々な疾患に適用されています。

評価の方法

評価の手順

  1. 椅子に座り,背もたれに軽くもたれかけ,手は大腿部の上に置いた姿勢をとります。 その際,両足を床につけます。
  2. 合図で椅子から立ち上がり,できるだけ速く歩いて(走ってはいけない),3m先にあるミニコーンを折り返します。
  3. そのまま最大速度で歩いて,もとの椅子に座るまでの時間を計測します。
 対象者には一度だけ一連の過程を練習することが許されています。また,歩行補助具の使用も認められています。歩行補助具を用いた際は,どのような補助具を使用したかを記録する必要があります。

標準的な歩行時間

 健常な60〜80際の高齢者は10秒以内に課題を終えると言われています (Steffen et al., 2002)。疾患毎の基準値についてはまだ調べられていません。

使用する物品と環境

 肘掛け付きの椅子,巻き尺,3m地点をマークするテープまたはミニコーン,時計またはストップウォッチが必要です。少なくとも3m以上の空間が必要になります。

評価にかかる時間

 1〜2分程度で評価できます。

評価の特性

床・天井効果

 床効果として認知機能障害を持つ人の35.5%がTUGを行えなかったと報告されています (Rockwood et al., 2000) 。

カットオフ値

 虚弱高齢者の転倒を図るカットオフ値が13.5秒だとする報告があります(Shumway-Cook et al., 2000)。ただし,転倒転落に関するカットオフ値はコンセンサス(一定見解)を得ていませんので,安易に用いることはできません。

 カットオフ値とは異なりますが,TUGを開発したPodsiadloとRichardsonら(1991) による解釈は以下の通りです。あくまで解釈ですので,臨床で用いる際は目安程度にとどめる必要があります。

スコア 解釈
< 10秒 完全自立
< 20秒 主に移乗は自立
浴槽またはシャワー移乗も自立
階段昇降や一人で外に行くこともできる
> 30秒 ほとんどの活動に支援が必要

信頼性

(1) 再試験信頼性(いつ評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 高齢者において確認されています (Podsiadlo and Richardson, 1991)。他にも,パーキンソン病患者 (Morris et al., 2001),慢性期の軽度脳卒中片麻痺患者 (Holmback et al., 2005) で確認されています。

(2) 検者間信頼性(誰が評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 高齢者において確認されています (Siggeirsdottir et al., 2002)。また,下肢切断 (Schoppen et al., 1999),パーキンソン病患者 (Morris et al., 2001) でも確認されています。

(3) 検者内信頼性(同じ人が数回評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 高齢者において確認されています (Podsiadlo and Richardson, 1991)。また,下肢切断でも確認されています (Schoppen et al., 1999)。

(4) 内的整合性(評価したいことが評価できているかどうか)

 確認されていません。

妥当性

(1) 基準関連妥当性(他の似たような評価指標と関連するかどうか)

 OARS IADLやOARS ADL(Fillenbaum & Smyer, 1981) ,6MWT (Guyatt et al., 1985) ,Bathel Index (Berg et al., 1992),Berg Balance Scale (Tinetti, 1986) と相関を認めています。

(2) 構成概念妥当性(評価内因子を合わせて評価したいものを評価できているか)

 確認されていません。

(3) 内容的妥当性(項目に評価したい内容を含んでいるか)

 確認されていません。

(4) 表面的妥当性(その道の専門家からみて妥当かどうか)

 確認されていません。

まとめ

 TUGは簡便で,分かりやすい移動能力の評価指標です。高齢者に限らず,様々な疾患に応用されています。一方で,特定の疾患では信頼性や妥当性の検討が充分ではないので使用するなら注意が必要です。転倒転落などのカットオフ値を提示する報告も散見しますが,カットオフ値は対象者の属性や周辺環境に影響されるのでご自分の働かれている環境で安易に用いるのは危険です。できることなら,その環境でのカットオフ値を求めて活用するように心がけて下さい。

評価の特徴や方法(評価指標一覧)