屈曲反射と交差性伸筋反射の特徴と役割


屈曲反射と交差性伸筋反射は、身体を潜在的な危険から保護するために不可欠な生理学的メカニズムです。本記事では、これらの反射反応が生じる神経経路とその生物学的な役割について、詳細に解説します。

屈曲反射とは

屈曲反射は、皮膚などへの痛みや不快な刺激に対する生体の防御機構の一つです。この反射では、刺激を受けた側の四肢の屈筋が収縮し、反対側の伸筋が弛緩します。この反応は、刺激を受けた部位から身を守るために、身体を刺激源から離す方向に動かすことを目的としています。

例えば、赤ちゃんが足の裏を針で刺激されると、反射的に足を引っ込めるのが屈曲反射の一例です。屈曲反射は、単一のシナプスを経由する単純な反射ではなく、複数のシナプスを経由することでより複雑な神経経路を形成する複シナプス反射の一種であり、脊椎動物において基本的な反射形式の一つとされています。

具体的には、3つのニューロンを経由する反射(他シナプス反射)で、感覚受容器(自由神経終末)から生じた情報が、求心性の感覚ニューロン(Aδ感覚ニューロン)から脊髄の興奮性介在ニューロンを経由して、遠心性の運動ニューロン(α運動ニューロン)へ伝わり、同側の屈筋を収縮させます。

屈曲反射に関わる受容器と神経細胞

屈曲反射において重要な役割を果たすのは、痛みなどの侵害刺激を検出する自由神経終末、その刺激情報を中枢神経系へと伝達するAδ感覚ニューロン、反応を調節する脊髄興奮性および抑制性介在ニューロン、そして最終的に筋肉を動かすα運動ニューロンです。

自由神経終末は特別な受容器構造を持たず、痛み、触覚、温度変化などの多様な刺激に反応し、主に皮膚の表皮に分布します。Aδ感覚ニューロンは、この刺激情報を脊髄へ伝える役割を担います。脊髄内の介在ニューロンは、神経伝達の過程で他の神経細胞の活動を興奮させたり抑制したりすることで、反射反応の調節を行います。α運動ニューロンは、最終的に筋肉の収縮を引き起こし、身体を刺激から遠ざける動作を行います。

屈曲反射は、これらの神経細胞が連携して機能することにより、痛みや不快な刺激から身体を守る反射動作を可能にします。以下に各神経細胞の詳細を記載します。

自由神経終末

刺激を受容するための特別な構造を持たない神経線維の末端です。髄鞘はありません。侵害刺激、触刺激、温冷刺激などの刺激に反応します。皮膚では主に表皮に分布しています。

脊髄介在ニューロン

脊髄内の神経細胞で、その次に繋がるニューロンを抑制するもの(抑制性介在ニューロン)や興奮させるもの(興奮性介在ニューロン)があります。脊髄の介在ニューロンによって運動ニューロンや感覚ニューロンの活動が調節されています。

Aδ感覚ニューロン

直径1~5μm、伝導速度5~30m/secの無髄神経線維を持つ神経細胞です。主に自由神経終末につながっており、痛みの情報を脊髄へ伝える役割を持ちます。

α運動ニューロン

直径12~20μm、伝導速度70~120m/secの有髄神経線維を持つ神経細胞です。脊髄前角に密集して分布しており、他方からの情報を筋へ伝える役割を持ちます。

屈曲反射に伴う交差性伸筋反射

屈曲反射と同時に対側の伸筋を収縮させる反射が起こります。

自由神経終末からの情報は脊髄で2つの興奮性の介在ニューロンを介して、対側の伸筋に向かうα運動ニューロンを興奮させます。

屈曲反射よりも1つ多い、4つのニューロンを経由する反射です。脊髄内を交差して対側のα運動ニューロンに影響をあたえるため、「交差性」伸筋反射と呼ばれています。

つまり、侵害刺激が与えられた時に、その同側では屈筋が、その対側では伸筋が活動するということです。

拮抗筋の抑制

同側屈筋と対側伸筋が活動する一方でそれぞれの拮抗筋は抑制されます。屈曲反射と交差性伸筋反射に加えて、侵害刺激はさらに2つの反射を引き起こします。

屈曲反射による同側の屈筋の活動を助けるために伸筋の抑制が起こります。同様に交差性伸筋反射によって対側の伸筋の活動を助けるために屈筋の抑制が起こります。

つまり侵害刺激は4つの反射を起こします(下図参照)。いずれの反射も脊髄で介在ニューロンを介してα運動ニューロンの抑制を引き起こします。同側経路では1つ、対側経路では2つの介在ニューロンを介します。


屈曲反射、交差性伸筋反射の役割

屈曲反射と交差性伸筋反射は、侵害刺激に対する迅速な反応として重要な役割を果たします。屈曲反射により危険から四肢を遠ざけ、同時に交差性伸筋反射が姿勢の安定性を保ちます。この相互作用は、体のバランスを維持しながら迅速に反応することを可能にし、日常生活やスポーツ活動における急な動きに対応します。また、このプロセスの理解は、リハビリテーションや運動療法におけるアプローチを改善する上で重要です。

しかしながら、屈曲反射の逃避はこれのみでも充分役割を果たせそうですが、交差性伸筋反射のみで完全に姿勢を調整しているわけではありません。交差性伸筋反射は姿勢保持を円滑に行うために補助的に作用していることを理解することが重要です。

まとめ

人間の動作は、複雑な脳の指令によって制御されるだけではありません。多くの自動的な反射が、日常生活のさまざまな状況において、身体を保護し、効率的に動かす役割を果たしています。

特に、屈曲反射と交差性伸筋反射は、身体に危害を及ぼす可能性のある刺激から迅速に避難する際に重要です。これらの反射は、自動的で無意識の運動パターンを生成し、身体の安全と適応能力を高めます。

セラピストや医療専門家にとって、これらの反射のメカニズムを深く理解することは、患者の治療計画を策定し、その実行を効果的にする上で極めて重要です。神経生理学の知識を深めることで、より適切な治療法の選択や、患者の回復過程における指導が可能になります。

それでは皆さまの学習がよりいっそう充実することを願って。

Charcot(@StudyCH)でした。All the best。