屈曲反射と交差性伸筋反射の特徴と役割:引っ込める反射は何をしているか

屈曲反射と交差性伸筋反射の特徴と役割:引っ込める反射は何をしているか

足の裏のかかとを電気で刺激したとき、働いたのは、足首を伸ばす側のふくらはぎの筋である腓腹筋の内側頭で、足首は底屈しました。デンマークのアンデルセンらが1999年に、座った姿勢の14人の足の裏の16か所を刺激し、脚を引っ込める屈曲反射を調べたときの結果です。「屈曲」反射でありながら、伸筋が働いたことになります。

はだしで画びょうを踏んだら、意識して足を動かすより先に、踏んだ足は床から離れ、反対の脚が体重を受け止めて踏ん張ります。刺激された脚を引っ込めるのが屈曲反射、反対の脚を伸ばして体を支えるのが交差性伸筋反射です。

屈曲反射と交差性伸筋反射の要点

  • 屈曲反射:皮膚などへの痛みを起こす刺激、つまり侵害刺激で、刺激された側の脚の屈筋が収縮し、伸筋は抑制されて、脚が刺激から離れる。信号は複数の介在ニューロンを経て、筋を収縮させるα運動ニューロンに届く。このような反射を多シナプス反射という
  • 交差性伸筋反射:同じ刺激で、反対側の伸筋が収縮し、屈筋は抑制される。脊髄の正中を越える介在ニューロンを介し、引っ込めた脚の代わりに体重を支える
  • 曲げるだけではない:足の裏のどこを刺激するかで動きが変わる。かかとの刺激では、足首を伸ばすふくらはぎの筋が働き、足首が底屈する
  • 痛みとの関係:太ももの大腿二頭筋に現れるRIII反射という屈曲反射が出始める刺激の強さは、痛みを感じ始める強さと一致した。痛みの処理を調べる手段として研究に使われている
  • バビンスキー徴候:大脳皮質から脊髄へ下る運動の経路である錐体路の障害で、母趾を背屈させる長母趾伸筋が、脚の屈曲反射にふたたび加わったもの。母趾の「伸展」は、脚を短くするので生理学的には屈曲にあたる
  • 歩行とのつながり:歩くリズムは反射の連鎖だけでつくられるのではなく、脊髄にリズムを生み出す回路がある。猫では、屈曲反射の経路の介在ニューロンにも、その回路と同じ「半中枢」の構成が見つかった

シェリントンの犬:引っ込める脚と、突っ張る脚

のちにノーベル生理学・医学賞を受ける英国の生理学者シェリントンは1910年、自国の生理学雑誌に「肢の屈曲反射、交差性伸展反射、反射性の足踏みと起立」と題した、90ページを超える論文を発表しました。扱ったのは、脚を引っ込める反射と、反対の脚を伸ばす反射だけではありません。題名の後半にあるとおり、足踏みや起立という、体を支えて移動するための動作までを、反射の働きとして論じています。

シェリントンは、ある筋が縮むとき、反対の働きをもつ拮抗筋がゆるむ「相反神経支配」を明らかにしたことでも知られます。屈曲反射でも、脚を曲げる筋が縮むとき、伸ばす筋は抑えられます。のちにバビンスキー徴候の意味を考え直した神経内科医たちが手がかりにしたのも、シェリントンが詳しく調べた犬の屈曲反射でした。

この論文の題名からは、2つの問いが浮かびます。足を引っ込める反射は、身を守るためだけのものなのか。体を支えることや歩くことと、どうつながっているのか。

反射の経路:皮膚から脊髄を通って筋へ

屈曲反射の出発点は、皮膚などにある侵害受容器、つまり組織を傷つけるおそれのある強い刺激に反応する受容器です。痛みを起こす刺激の信号は、細い神経線維で脊髄に運ばれます。痛みを伝える線維には、薄い髄鞘をもつAδ線維と、髄鞘をもたない、より細いC線維があります。Aδ線維は主に急性の痛みを速く伝え、C線維は、その最初の痛みに遅れて始まる深い痛みを伝えます。

ヒトの屈曲反射のうち、痛みと結びついた成分、つまり後で述べるRIII反射は、主にAδ線維からの入力で起こります。ただし、この反射を起こす入力はそれだけではありません。皮膚や筋から来る、痛みを伝えない線維も加わっています。

脊髄に入った信号は、感覚ニューロンと運動ニューロンのあいだを中継する介在ニューロンを、1つではなく複数経て、筋を収縮させるα運動ニューロンに届きます。このような反射を多シナプス反射と呼びます。筋が伸ばされるとその筋自体がすぐに縮む伸張反射が、感覚ニューロンから運動ニューロンへ直接つながる単シナプス反射であるのとは対照的です(「伸張反射:伸ばされた筋が縮むしくみ」)。介在ニューロンを経ることで、1つの侵害刺激からの信号は、4つの向きに分かれて伝わります(図1)。図1は経路を単純にして描いた模式図で、実際には多くの介在ニューロンが関わります。

屈曲反射と交差性伸筋反射の経路を示した模式図。足の裏への侵害刺激の信号はAδ線維などで脊髄に入り、介在ニューロンを経て4つに分かれる。刺激された側では屈筋が収縮して伸筋が抑制され、脚を引っ込める。反対側では伸筋が収縮して屈筋が抑制され、体重を支える

図1 屈曲反射と交差性伸筋反射の経路(模式図)。足の裏への侵害刺激の信号は、介在ニューロンを経て4つに分かれる。①〜④は下の番号に対応する。破線は脊髄の正中を表す

  1. 刺激された側の屈筋:興奮性の介在ニューロンを経て収縮し、脚を刺激から引き離します。
  2. 刺激された側の伸筋:抑制性の介在ニューロンを経て抑えられ、曲げる動きを妨げないようにします。
  3. 反対側の伸筋:脊髄の正中を越えて反対側へ向かう介在ニューロンを経て収縮し、引っ込めた脚の代わりに体重を支えます。これが交差性伸筋反射です。
  4. 反対側の屈筋:抑えられ、伸ばす動きを妨げないようにします。

片脚を引っ込めれば、それまでその脚が支えていた体重を、反対の脚が受け止めなければなりません。交差性伸筋反射は、逃げる動きと体を支える動きを、脊髄の中で同時に組み合わせるしくみです。

どこを刺激したかで、逃げ方が変わる

屈曲反射は、脚をひとまとめに曲げるだけの反射ではありません。デンマークのアンデルセンらは1999年、座った姿勢の14人を対象に、足の裏の16か所に順番を入れ替えながら電気刺激を加え、すねやふくらはぎ、太ももの筋の反射と、足首の関節の角度の変化を記録しました。

足の裏を下から見た模式図。母趾側のつま先寄りを刺激すると前脛骨筋が働いて足首が背屈し、内がえしも起こる。小趾側のつま先寄りの刺激では外がえしが起こる。かかとの刺激では腓腹筋内側頭が働いて足首が底屈する。太ももでは、どこを刺激しても大腿二頭筋が働いた

図2 刺激の場所と逃避反射の動き。足の裏を下から見た模式図。どの動きも、刺激された部分を床から浮かせる向きになる。「屈曲」反射でありながら、かかとの刺激では足首を伸ばす筋が働く。Andersenら(1999)をもとに作成

母趾側のつま先寄りを刺激すると、すねの前脛骨筋が働き、足首は背屈しました。同じ場所の刺激では内がえしも起こり、小趾側のつま先寄りの刺激では外がえしが起こりました。意外なのは、かかとを刺激したときです。働いたのはふくらはぎの腓腹筋の内側頭で、足首は底屈しました。腓腹筋は、足首を伸ばす側の筋です。「屈曲」反射でありながら、伸筋が働いたことになります。太ももでは、足の裏のどこを刺激しても、膝を曲げる大腿二頭筋が働きました(図2)。

床に足をついている場面で考えると、どの動きも、刺激された部分を床から浮かせる向きです。背屈ではつま先が、底屈ではかかとが、内がえしでは足の裏の母趾側の縁が、外がえしでは小趾側の縁が浮きます。アンデルセンらは、すねやふくらはぎの筋の一つひとつが、反射を起こす足の裏の範囲、つまり受容野をそれぞれにもっていて、それが足首の動き方を説明すると考えました。屈曲反射は、刺激がどこに加わったかに応じて、逃げる向きを変えているのです。

屈曲反射は、痛みのものさしにもなる

屈曲反射は、痛みの感じ方とも結びついています。パリのウィレルは1977年、健康な15人を対象に、外くるぶしの後ろを通る腓腹神経か、その神経が分布する足の皮膚に電気刺激を加え、太ももの大腿二頭筋に現れる反射と、感じた痛みの強さを比べました。

腓腹神経を刺激すると、大腿二頭筋には2つの反射が現れました。早く現れ、弱い刺激でも起こるRII反射は、触覚による反射でした。遅れて現れ、より強い刺激で起こるRIII反射は侵害刺激による反射で、RIII反射が出始める刺激の強さは、痛みを感じ始める強さと一致していました。皮膚を刺激したときには遅いRIII反射だけが現れ、その出始めの強さも、やはり痛みを感じ始める強さと一致しました。

この実験には、もう1つ意外な結果がありました。痛みとRIII反射が出始める電流は、皮膚を刺激したときの5 mAに対して、神経を直接刺激したときは10 mAと高かったのです。神経を直接刺激すると、RII反射が現れることから分かるように、触覚を伝える太い線維も同時に興奮します。ウィレルは、この太い線維からの入力が、痛みと反射の両方を抑えているのではないかと考えました。血流を止めて神経の太い線維の働きを選んで抑え、そのうえで神経を刺激すると、RII反射は小さくなり、RIII反射と痛みはどちらも強まりました。この結果は、ウィレルの考えを支持するものでした。

こうした性質から、RIII反射は、脊髄や脳での痛みの処理を調べる手段として使われてきました。2005年の総説は、反射の大きさも痛みの強さと関係することを紹介したうえで、欧州神経学会連合(EFNS)のガイドラインを引いて、侵害刺激による反射の中で最も広く使われているのがRIII反射だと述べています。ただし、神経が傷ついたり病気になったりして起こる神経障害性疼痛の臨床評価での利用は、まだ限られているとも書いています。同じ総説は、この反射の起こりやすさが、月経周期やストレス、注意、睡眠などの状態や、脊髄の損傷、筋を速く伸ばすほど抵抗が強くなる痙縮、全身に慢性の痛みが続く線維筋痛症、頭痛などの病的な状態によって変わることもまとめています。

バビンスキー徴候は、屈曲反射の一部

臨床でよく知られたバビンスキー徴候も、屈曲反射とつながっています。フランスの神経内科医バビンスキーが、足の裏を刺激したときの足の指の反応を記載したのは1896年です。バビンスキーは、年長の子どもや大人で母趾が上がる足指現象が、錐体路の機能の障害と関係することを見抜きました。錐体路は、大脳皮質から脊髄へ下る運動の経路です(「運動の下行性伝導路:指先と姿勢は別の道を下る」)。オランダの神経内科医ファン・ハインは、この徴候の100年の歴史と、その意味を詳しく論じています。

ファン・ハインによれば、母趾が上がる反応は生後1年のあいだは正常で、脚の屈曲の共同運動、つまり脚を短くする筋の組み合わせの一部です。この共同運動自体は、1896年より前から知られていました。ところが、神経内科医たちは足の指の反応だけに夢中になり、脚のほかの場所を刺激して母趾の動きをみる徴候が、次々に提案されました。日本の臨床でも知られるチャドック反射やオッペンハイム反射も、刺激する場所を変えて母趾の背屈をみる方法です。ファン・ハインは、こうした徴候の多くが、一時忘れられていた同じ屈曲の共同運動の一部だったと指摘しています。

1910〜1915年には、フランスのマリーとフォア、英国のウォルシュがこの関係を改めて強調し、シェリントンが詳しく調べた犬の屈曲反射との類似を指摘しました。母趾を背屈させる長母趾伸筋は、名前は「伸筋」でも、縮むと脚を短くするので、生理学的には屈筋として働きます(図3)。

あおむけで足の裏をこすると、股関節の屈曲、膝の屈曲、足首の背屈が組み合わさって脚が短くなり、錐体路の障害があると母趾の背屈もこの組み合わせに加わることを示した模式図。母趾を背屈させる長母趾伸筋も脚を短くするので生理学的には屈筋として働き、生後1年ほどは母趾の背屈もこの組み合わせに加わる

図3 バビンスキー徴候と屈曲の共同運動。あおむけで足の裏をこすると、股関節と膝の屈曲、足首の背屈が組み合わさって脚が短くなる。母趾を背屈させる長母趾伸筋も脚を短くするので、生理学的には屈筋として働く。生後1年ほどのあいだと、錐体路の障害があるときには、母趾の背屈もこの組み合わせに加わる。van Gijn(1995)をもとにした模式図

1995年の論文でファン・ハインは、この反射の成り立ちを次のように説明しています。生まれたばかりの赤ちゃんでは屈曲の共同運動がはっきり起こり、長母趾伸筋も含めた脚のすべての屈筋が加わります。神経系が成熟し、錐体路が脊髄の運動ニューロンを制御するようになると、共同運動は弱まり、長母趾伸筋は加わらなくなります。すると足の指は、足の小さな筋とその上の皮膚による別の反射によって、むしろ下を向くことが多くなります。腹部の皮膚をこすると腹筋が縮む腹壁反射に似た、脊髄の限られた高さ、つまり一部の分節だけで起こる反射です。錐体路が障害されると、構造的な病変でも機能的な障害でも、この下向きの反応が消え、屈曲の共同運動の抑えが外れて、長母趾伸筋がふたたび脚の屈曲反射に加わります。これがバビンスキー徴候です。

ここから、臨床での見方も導かれます。本当のバビンスキー徴候は錐体路の機能障害を示すもので、脚の屈曲の共同運動に属さない母趾の背屈とは、はっきり区別しなければなりません。ファン・ハインは、足のどこをどう刺激するかは判断にあまり影響しないとし、何より大切なのは脚全体の反応を見ることだと述べています。

反射をつなげば、歩けるのか

シェリントンの1910年の論文の題名には、「反射性の足踏み」という言葉が入っていました。片脚を曲げると、反対の脚が伸びる。それなら、屈曲反射と交差性伸筋反射が左右で交互に起これば、足踏みになるのではないか。当時は、歩くリズムは脊髄の反射がつくり出しているという見方が主流でした。

この見方に異を唱える結果を出したのが、グラハム・ブラウンです。グラハム・ブラウンは1910〜1913年にリバプール大学のシェリントンの研究室で、1913〜1915年にはマンチェスター大学の自分の研究室で実験を重ね、モルモットや猫の脊髄が、脳からの指令にも感覚からの入力にも頼らずに、足踏みのリズムを生み出せることを示しました。左右それぞれに、屈筋を働かせる部分と伸筋を働かせる部分が対になってあり、互いに抑え合うことでリズムが生まれる、という考えも示しています。この対の片方ずつを半中枢と呼びます。そのリズムは、筋や関節からの感覚の入力で調整されるとも考えていました。

当時の研究者たちは、この成果をほとんど評価しませんでした。例外はシェリントンくらいでしたが、そのシェリントンの評価も揺れ動き、多くは控えめなものだったといいます。グラハム・ブラウンの考えが再び注目されるきっかけをつくったのは、スウェーデンの神経科学者ルンドベリでした。1957年から各国での講演で、1965年以降は広く読まれた論文や総説で、この考えを紹介し続けました。

ルンドベリとヤンコフスカらは、歩行の制御に関わる半中枢の介在ニューロンの回路が脊髄にあることを示す、説得力のある証拠を出しました。その1つが1967年の報告で、題名は「屈曲反射求心線維からの作用を伝える介在ニューロンの半中枢構成」です。ドーパミンやノルアドレナリンのもとになる物質であるDOPAを与えた猫の脊髄で、屈曲反射を起こす求心線維、つまり感覚の信号を脊髄へ運ぶ線維からの作用を伝える介在ニューロンが、グラハム・ブラウンの考えた半中枢と同じ構成をもつことを示しました。屈曲反射の経路と、歩くリズムを生み出す回路が、少なくとも一部で重なっている可能性が出てきたのです。今では、歩くリズムを生み出す脊髄の回路は中枢パターン発生器(CPG)と呼ばれ、そのモデルはしだいに複雑になりましたが、多くはいまも半中枢の考えを含んでいます。

ヒトの屈曲反射についても、2005年の総説は、身を守る働きに加えて、姿勢や歩行と結びついているとみられると述べています。屈曲反射の回路は多くの介在ニューロンからなり、運動中には感覚からの入力と脳からの指令の両方を受け取っています。そのため反射の起こりやすさは、そのときの状態や運動の時期によって細かく調整されています。反射をつなぐだけでは、歩くリズムは説明できませんでした。それでも屈曲反射は、歩くための回路と無関係ではなかったのです。

まとめ

屈曲反射は、侵害刺激を受けた脚を引っ込める多シナプス反射で、同時に起こる交差性伸筋反射が反対の脚を伸ばして体を支えます。脚をひとまとめに曲げるだけでなく、足の裏の刺激された場所に合わせて逃げる向きを変え、痛みを感じ始める強さで反射も出始めます。錐体路が障害されると、母趾の背屈がふたたび屈曲の共同運動に加わり、バビンスキー徴候として現れます。そして、歩くリズムは反射の連鎖ではなく脊髄の回路から生まれ、屈曲反射の経路はその回路と一部で重なるとみられています。足を引っ込める反射は、身を守る反射であると同時に、体を支え、歩くための脊髄のしくみの一部なのです。

神経内科医たちが足の指の反応だけに注目していたあいだ、脚のほかの場所を刺激して母趾の動きをみる徴候が、次々に提案されました。脚全体の反応に目を戻したとき、その多くは同じ屈曲の共同運動の一部としてつながりました。足の裏の16か所を順に刺激し、すねやふくらはぎ、太ももの筋の反射と足首の角度の変化を記録したアンデルセンらの実験も、ひとまとめの「屈曲」に見えていた反応を、刺激された場所ごとの逃げ方に分けて示しました。当時ほとんど評価されなかったグラハム・ブラウンの半中枢の考えも、ルンドベリらがDOPAを与えた猫の脊髄で介在ニューロンを調べたことで見直され、屈曲反射の経路が歩くリズムの回路と一部で重なる可能性が見えてきました。

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参考文献

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