この記事の要点
- 課題1 人も時間も足りない:誰が何をするかを見直し(タスク・シフト/シェア)、チームで話し合う時間を業務として確保する
- 課題2 互いの専門性を知らない、言い出せない:学生のうちから多職種で一緒に学び(多職種連携教育)、職場では立場に関係なく気づいたことを言える場をつくる
- 課題3 効果が見えにくい:チームの中身(メンバー、頻度、役割)を決め、生存や自宅への退院など患者さんにとって大切な成果で測る
1977年3月27日、大西洋に浮かぶスペイン領カナリア諸島のテネリフェ島。霧が立ちこめる空港で、離陸を始めたKLMオランダ航空のジャンボ機が、まだ滑走路上にいたパンアメリカン航空のジャンボ機に衝突しました。亡くなったのは583人。航空史上最悪の事故です。
KLMのコックピットでは、離陸滑走が始まった直後、航空機関士が機長にこう尋ねていました。
「あのパンナム機は、まだ滑走路から出ていないのでは?」
機長は「ああ、出ているよ」と答え、機関士はそれ以上確かめませんでした。衝突はその約30秒後です。
危険に気づいていた人は、コックピットの中にいました。しかし、その気づきはチームの判断に生かされませんでした。この事故などをきっかけに、航空業界は機長ひとりの判断に頼る安全から、乗員全員が情報を出し合う安全へと考え方を改めていきます。その考え方は、のちに医療にも取り入れられました。
厚生労働省の検討会の報告書(2010年)は、チーム医療を「医療に従事する多種多様な医療スタッフが、各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」と説明しています。言葉にすれば簡単ですが、テネリフェの機関士の一言が示すように、難しいのは「情報を共有し」「互いに補完し合う」ところです。
この記事では、チーム医療がうまくいかない3つの理由と、その解決策を、研究や事例とともに紹介します。チーム医療の基本と代表的なチームについては「チーム医療の必要性とその実際」にまとめています。
課題1 人も時間も足りない
チーム医療は、必要な専門職がそろい、話し合う時間があって初めて成り立ちます。ところが、そのどちらも簡単にはそろいません。
まず人です。専門職の数は、職種によって大きく違います。2025年12月末の資格登録者数は、理学療法士が23万6,289人、作業療法士が12万3,589人、言語聴覚士が4万3,317人でした。言語聴覚士は理学療法士の5分の1以下です(資格を持つ人の数で、実際に働いている人数とは異なります)。飲み込み(摂食嚥下)やことばの障害の評価と訓練は言語聴覚士の専門ですが、言語聴覚士が少ない病院では、その役割をほかの職種が補うか、手が回らないままになります。
次に時間です。カンファレンスや回診、情報の共有には時間がかかります。その時間を、目の前の患者さんの治療やケアの時間から生み出さなければなりません。
制度もこの課題に向き合ってきました。2010年度の診療報酬改定では、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士などのチームで栄養管理を行う「栄養サポートチーム加算」が新設され、チームでの取り組みが診療報酬で評価されるようになりました。2024年4月からは医師の時間外労働に上限(原則として年960時間)が設けられ、医師の業務の一部を他の職種に移したり分け合ったりする「タスク・シフト/シェア」が進められています。厚生労働省は、その狙いを「全ての医療専門職それぞれが、自らの能力を活かし、より能動的に対応できるようにする」ことだとしています。
解決策:役割を見直し、チームの時間を「仕事」にする
- 役割を見直す:人が足りないときこそ、誰が何をするかを見直します。タスク・シフト/シェアは医師の負担を減らすだけでなく、各職種が専門性を生かす機会でもあります。
- チームの時間を業務として確保する:話し合いの時間を、空いた時間ではなく業務として組み込みます。診療報酬で評価される取り組みであれば、病院にとっても時間を割く理由になります。
- 専門職の価値をデータで示す:人や時間を割り当ててもらうには、その職種が加わると患者さんがどう変わるのかを示す必要があります(課題3で取り上げます)。
たとえば、週1回の多職種カンファレンスが毎回1時間近くかかり、欠席する人が増えてきた病棟を考えてみます。各職種が電子カルテの決まった欄に要点を書いておき、当日は1人3分で「今週の変化」と「来週の目標」だけを話す形に変えたとします。司会と記録も医師に任せきりにせず、看護師やリハビリ職が持ち回りで担います。こうすれば話し合いは20分ほどで終わり、カンファレンスは「時間があれば出るもの」から、決まった時間に必ず行う業務に変わります。
課題2 互いの専門性を知らない、言い出せない
医療専門職は、養成校で自分の職種のことは深く学びます。けれども、他の職種が何を考え、何ができるのかを学ぶ機会は多くありません。そのため臨床では、「理学療法士は歩く練習をする人」「言語聴覚士は話す練習をする人」といった大まかな理解のまま、依頼や役割分担が行われることがあります。
もう一つの壁は上下関係です。テネリフェの事故では、異変に気づいた機関士が、ベテランの機長に重ねて確かめることはありませんでした。航空業界はこうした教訓から、乗員が互いに確認し合い、気づいたことを口に出すための訓練を始めます。クルー・リソース・マネジメント(CRM)と呼ばれるこの訓練は、1981年にユナイテッド航空が初めて正式に導入し、1995年には米国の航空会社の乗員に義務づけられました。医療でも、米国国防総省が医療研究品質庁(AHRQ)と共同で開発したTeamSTEPPSのように、チームで働く技術を学ぶプログラムが生まれています。
「よいチームほどミスが多い」という発見
1990年代、組織行動学の研究者エイミー・エドモンドソンは、米国の2つの病院の8つの病棟で、投薬ミスと病棟のチームワークの関係を調べました。結果は意外なものでした。看護師長の関わり方やメンバー同士の関係がよい病棟ほど、記録された投薬ミスが多かったのです。
エドモンドソンはこう考えました。よいチームがミスを多く起こしているのではなく、よいチームではミスが報告されやすい。反対に、関係がぎくしゃくした病棟では、ミスが起きても表に出てこない。彼女はのちに、チームの「心理的安全性」を「このチームでは対人関係のリスクをとっても安全だ、という共有された信念」と定義し、研究を深めていきます(1999年)。
理学療法士が看護師に、看護師が医師に、「少し気になることがあるのですが」と言えるかどうか。チーム医療の質は、こうした一言を言える雰囲気があるかどうかにもかかっています。
解決策:学生のうちから一緒に学び、言い出せる場をつくる
- 多職種連携教育(IPE):WHOは2010年、2つ以上の専門職の学生が「互いについて、互いから、互いと共に学ぶ」教育を進めるための枠組みを示しました。養成校の段階で他職種と一緒に事例を検討しておくと、臨床に出てからの「知らない」を減らすことが期待できます。たとえば、同じ脳卒中の事例を看護・薬学・理学療法の学生が一緒に検討すると、看護学生は夜間の転倒を、薬学の学生は睡眠薬の影響を、理学療法の学生は歩き方のふらつきを挙げるかもしれません。同じ「転びやすさ」を、職種ごとに違う角度から見ていたと気づくこと。それが「互いについて、互いから学ぶ」ということです。
- 言い出せる場をつくる:カンファレンスでは、経験の浅いメンバーや発言の少ない職種にも意見を求めます。専門用語は、他職種にわかる言葉で言い直します。
たとえば、カンファレンスの最後に司会が、経験の浅い人から順に「気になっていることはありますか」と尋ねる決まりにしたとします。入職1年目の理学療法士が「リハビリの途中で、食後によくむせています」と口にすれば、言語聴覚士が飲み込みを評価し直し、食事の形を見直すきっかけになります。誰も尋ねなければ、この一言は「自分の担当ではないから」と胸にしまわれていたかもしれません。
心理的安全性について詳しく知りたい方には、エドモンドソン自身の著書『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』(英治出版、2021年)があります。
課題3 効果が見えにくい
「チーム医療は、本当に患者さんのためになっているのか」。この問いにデータで答えるのは、簡単ではありません。
ただし、効果がはっきり示されたチームの形もあります。代表例が脳卒中ユニットです。脳卒中ユニットは、脳卒中の患者さんを専用の病棟に集め、医師、看護師、リハビリテーション専門職などの多職種チームが連携して治療とリハビリテーションを行う仕組みです。
29件のランダム化比較試験(参加者5,902人)をまとめたコクラン・レビュー(2020年)によると、脳卒中専用の病棟で治療を受けた場合、一般病棟の場合と比べて、100人あたり約2人多くの患者さんが生存し、約6人多くが自宅に戻り、約6人多くが自立した生活を送っていました(エビデンスの確実性は中程度)。入院期間が延びることもありませんでした。
新しい薬や機器を使ったわけではありません。変わったのは、専門職の集まり方と連携の仕方です。

図1 脳卒中ユニットと一般病棟の差(100人あたりの概数。緑の点が、脳卒中ユニットで多かった人数。コクラン・レビュー 2020をもとに作成)
一方で、「チーム医療全般」の効果を示すのは難しいのが実情です。多職種の連携を促す取り組みを調べた別のコクラン・レビュー(2017年)では、9件のランダム化比較試験が見つかりました。脳卒中の患者さんの機能がわずかに改善する可能性などは示されたものの、エビデンスの確実性は低く、明確な結論は出せないとされています。
なぜ、これほど差が出るのでしょうか。「チーム医療」という言葉が指す中身が、病院やチームによって違うからです。誰が参加し、どのくらいの頻度で、何を話し合うのか。中身が違えば、効果が違っても不思議ではありません。脳卒中ユニットの効果がはっきりしているのは、対象となる患者さん、チームの体制、測る成果がはっきりしているからだと考えられます。
解決策:チームの中身を決め、患者さんにとって大切な成果で測る
- 中身を決める:メンバー、話し合いの頻度、それぞれの役割を具体的に決めます。中身が決まっていなければ、効果は測れません。
- 大切な成果で測る:脳卒中ユニットの研究が見たのは、生存、自宅への退院、生活の自立でした。生活の自立度の評価には、たとえば「Modified Rankin Scale」が使われます。
- できるところから比べる:自施設なら、導入の前後を比べるところから始められます。ただし前後の比較には限界があります(「前後比較研究」)。研究をまとめて効果を確かめる方法は「系統的文献レビュー」で解説しています。
たとえば、病棟に多職種の嚥下チームを立ち上げるとします。まず、対象(入院時に飲み込みの障害が疑われる患者さん)、メンバー(医師、看護師、言語聴覚士、管理栄養士、歯科衛生士)、活動(週1回の回診と食事の形の見直し)を決めます。成果は「チームが何回集まったか」ではなく、「誤嚥性肺炎の発生」や「退院時に口から食べられている人の割合」で見ます。導入前の1年と比べれば変化の方向はつかめますが、その間に入院患者さんの年齢層や病棟の体制が変わっていないかには注意が必要です。
まとめ
| 課題 | なぜ起きるか | 解決の方向 |
|---|---|---|
| 人も時間も足りない | 職種によって人数に差があり、話し合う時間が業務として確保されにくい | 役割を見直し、チームの時間を業務として確保する |
| 互いの専門性を知らない、言い出せない | 養成段階で他職種を学ぶ機会が少なく、上下関係が発言をためらわせる | 多職種連携教育と、言い出せる職場づくり |
| 効果が見えにくい | 「チーム医療」の中身がさまざまで、成果を測りにくい | チームの中身を決め、患者さんにとって大切な成果で測る |
テネリフェの事故から半世紀近くがたち、航空業界では、気づいた人が声を上げることが訓練の基本になりました。医療のチームに求められることも同じです。チームのための人と時間を確保し、互いの仕事を知って気づいたことを口に出し、その連携が患者さんの役に立っているかを確かめ続ける。3つの課題の解決策は、この一続きの取り組みにまとまります。
チーム医療の基本と代表的なチームは、「チーム医療の必要性とその実際」で紹介しています。
参考文献
- 厚生労働省. チーム医療の推進について(チーム医療の推進に関する検討会 報告書). 2010年3月19日.
- 内閣府. 令和8年版 障害者白書.
- 厚生労働省. 医師の働き方改革(資料).
- Edmondson AC. Learning from mistakes is easier said than done: group and organizational influences on the detection and correction of human error. J Appl Behav Sci. 1996;32(1):5-28.
- Edmondson A. Psychological safety and learning behavior in work teams. Adm Sci Q. 1999;44(2):350-383.
- World Health Organization. Framework for Action on Interprofessional Education & Collaborative Practice. 2010.
- Langhorne P, Ramachandra S; Stroke Unit Trialists' Collaboration. Organised inpatient (stroke unit) care for stroke: network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2020;(4):CD000197.
- Reeves S, Pelone F, Harrison R, Goldman J, Zwarenstein M. Interprofessional collaboration to improve professional practice and healthcare outcomes. Cochrane Database Syst Rev. 2017;(6):CD000072.

