股関節の内転に作用する主な筋群は,恥骨筋,短内転筋,長内転筋および大内転筋です。これらは単関節筋で,全て恥骨に付着しています。ここでは股関節の内転に寄与するこれらの筋群の機能と役割について説明します。
恥骨筋 pectineus
恥骨筋は,最も大腿骨頭に近い位置に付着している股関節内転筋です。大殿筋と長内転筋に挟まれており,恥骨筋のみを触診することはできません。以下に恥骨筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
神経支配:大殿神経(L2−3),閉鎖神経(L3)
神経支配:閉鎖神経(L2-4)
起始:恥骨結節の間の恥骨上枝と腸恥隆起
停止:小転子と粗線との間の大腿骨後面の恥骨筋線
神経支配:大殿神経(L2−3),閉鎖神経(L3)
作用:股関節内転,股関節屈曲,股関節内旋
主な作用は股関節の内転です。股関節の屈曲や内旋にも作用すると言われています。大殿神経や閉鎖神経が支配神経ですが,恥骨筋の神経支配には個体差があると言われています。
短内転筋 adductor brevis
短内転筋は,恥骨筋の後下方に位置する股関節内転筋です。恥骨筋,長内転筋,大内転筋囲まれており,短内転筋を単独で触診することはできません。以下に短内転筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
起始:恥骨体,恥骨下枝
停止:恥骨筋線,粗線の近位1/2
神経支配:閉鎖神経(L2-4)
作用:股関節内転,股関節内旋,股関節屈曲
主な作用は股関節の内転です。短内転筋はモーメントアームが長く,股関節屈曲角度によらず,股関節の内転に作用します。股関節の内旋,屈曲にも作用します。まれに,股関節の外旋や股関節の伸展に作用すると書かれている書籍もありますが,まだ議論途中で一般的な見解ではありません。
閉鎖神経麻痺
閉鎖神経麻痺が起こることで,股関節内転筋に限局して筋力低下が起こることがあります。閉鎖神経麻痺は普通に生活していて起こることは稀で,多くは腹腔鏡検査や鏡視下前立腺切除術,子宮切除術などの手術後に生じます。また,分娩によってまれに生じるという報告もあります。
長内転筋 adductor longus
長内転筋は,短内転筋の前下方に位置する股関節内転筋です。恥骨筋や短内転筋と違い,長内転筋は鼠径部で触診可能です。以下に長内転筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
神経支配:閉鎖神経(L2-4)
主な作用は股関節の内転です。長内転筋は短内転筋と同様に股関節屈曲角度によらず,股関節の内転に作用します。股関節の屈曲にも作用し,股関節屈曲の作用が内転と同じか,それ以上であるとする報告もあります。股関節の内旋,外旋に作用するという報告もありますが,一定した見解は得られていません。
起始:腸骨交叉部の恥骨体,線維軟骨結合
停止:粗線の内側唇
神経支配:閉鎖神経(L2-4)
作用:股関節内転,股関節屈曲
主な作用は股関節の内転です。長内転筋は短内転筋と同様に股関節屈曲角度によらず,股関節の内転に作用します。股関節の屈曲にも作用し,股関節屈曲の作用が内転と同じか,それ以上であるとする報告もあります。股関節の内旋,外旋に作用するという報告もありますが,一定した見解は得られていません。
大内転筋 adductor magnus
大内転筋は内転筋群の中でも巨大な筋です。内転筋結節上で大内転筋の遠位部を触診することができます。以下に大内転筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
神経支配:坐骨神経の脛骨神経部からでた枝,第4腰神経と閉鎖神経(L2−3)
主な作用は股関節の伸展です。大内転筋はハムストリングスの一群として考えられていて,股関節伸展位であれば大内転筋後部線維は他のハムストリングスよりもモーメントアームが長く,効率的に伸展に作用します。
一方で内転筋と名前がついていますが,股関節内転の作用については意見が分かれています。大内転筋は筋腹が広いため,研究によって計測している部位が異なるためです。筋全体としては確実に内転の作用があることは確かです。しかし,その程度や役割については不明なことが多い現状です。
起始:恥骨下枝,坐骨枝,坐骨結節
停止:方形結節大腿骨長軸に沿って内転筋結節に向かう内側顆上線と粗線の内側唇
神経支配:坐骨神経の脛骨神経部からでた枝,第4腰神経と閉鎖神経(L2−3)
作用:股関節伸展,股関節内転(諸説あり)
主な作用は股関節の伸展です。大内転筋はハムストリングスの一群として考えられていて,股関節伸展位であれば大内転筋後部線維は他のハムストリングスよりもモーメントアームが長く,効率的に伸展に作用します。
一方で内転筋と名前がついていますが,股関節内転の作用については意見が分かれています。大内転筋は筋腹が広いため,研究によって計測している部位が異なるためです。筋全体としては確実に内転の作用があることは確かです。しかし,その程度や役割については不明なことが多い現状です。
股関節内転筋群の役割
内転筋群は股関節の外転筋群とともに,歩行やスクワット動作時に骨盤を安定させる役割を担っています。歩行中は遊脚期から立脚期への移行期や,立脚期から遊脚期への移行期に外転筋と共に活動します。同様にスクワット動作でも,起立時に股関節の内転筋と外転筋が共同して活動します。
はさみ脚歩行
脳卒中後などの中枢神経系障害によって股関節内転筋群が過剰に緊張する場合あります。股関節内転筋群が過緊張することによって,「はさみ脚歩行」と呼ばれる特徴的な歩行がみられることがあります。はさみ脚歩行とは,歩行の遊脚期に股関節が過剰に内転してしまい,ふりだした脚が立脚側にひっかかる,あるいは立脚側の近くに接地してしまう現象です。
まとめ
今回,股関節の内転に関与する4つの単関節筋を説明しました。これらの筋群には,股関節の外転筋と共同して動作時に骨盤を安定させるという大切な作用があります。私の知る限り,リハビリテーションの臨床現場では,股関節外転筋ばかりに気を取られて股関節の内転筋の機能を無視する傾向があります。骨盤の安定性は股関節の内転筋と外転筋が共同してはじめて得られるということを再度認識する必要があります。
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