股関節の外旋に作用する主な筋群は,梨状筋,内閉鎖筋,上・下双子筋,大腿方形筋および外閉鎖筋です。これらの筋群は深層外旋六筋と呼ばれることもあり,全て筋で長さが短く,大殿筋の深層に位置しています。ここでは股関節の外旋に寄与するこれらの筋群の機能と役割について説明します。
梨状筋 piriformis
梨状筋は,股関節の最も上部に付着している股関節外旋筋です。梨状筋は大殿筋を弛緩させることで,一部の筋線維(大坐骨切痕から水平に走行する線維)を触診できる可能性があります。以下に梨状筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
神経支配:第5腰神経と第1−2仙骨神経の前枝
神経支配:内閉鎖神経(L5,S1-2)
起始:第2〜4仙椎の高位の仙骨前面.一部は大坐骨切痕の周囲を通って骨盤外へ
停止:大転子の上内側部
神経支配:第5腰神経と第1−2仙骨神経の前枝
作用:股関節外旋
主な作用は股関節の外旋です。梨状筋は股関節伸展位で股関節外旋,股関節屈曲位で股関節内旋と股関節位置によって作用が変化するという報告もあります。梨状筋と坐骨神経は並行しています。
梨状筋症候群
梨状筋の筋緊張亢進が,殿部から下肢へ続く痛みを引き起こすことが知られています。これは梨状筋によって並走する坐骨神経が圧迫されることによって生じると信じられています。この痛みは股関節の他動的な内旋で梨状筋を伸長したり,外旋抵抗運動で梨状筋を収縮させることで増悪します。
内閉鎖筋 obturator internus
内閉鎖筋は,大腿方形筋と並び強力に股関節外旋に位置する筋です。殿筋群に完全に包み込まれているため触診することはできません。以下に内閉鎖筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
起始:閉鎖孔側面,閉鎖切痕の境界部.小坐骨切痕を通って骨盤外へ.
停止:大転子の内側部
神経支配:内閉鎖神経(L5,S1-2)
作用:股関節外旋
主な作用は股関節の外旋です。股関節屈曲位では股関節外転に作用するとの報告もあります。
上・下双子筋 gemellus
上・下双子筋は,坐骨棘や小坐骨切痕を起始部とする上部を「上双子筋」,坐骨結節を起始部とする下部を「下双子筋」と分けて呼ぶこともあります。殿筋分の深部に位置しており,内閉鎖筋の上下端に密着しているために触診ができません。以下に上・下双子筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
神経支配:内閉鎖神経(L5,S1,上双子筋),大腿神経(L5,S1,下双子筋)
主な作用は股関節の外旋です。内閉鎖筋を挟みこむように走行して,同じ位置に停止します。そのため,内閉鎖筋と同様の作用を持っていると考えられています。
起始:坐骨棘の下部,坐骨結節の上部
停止:大転子内側部
神経支配:内閉鎖神経(L5,S1,上双子筋),大腿神経(L5,S1,下双子筋)
作用:股関節外旋
主な作用は股関節の外旋です。内閉鎖筋を挟みこむように走行して,同じ位置に停止します。そのため,内閉鎖筋と同様の作用を持っていると考えられています。
大腿方形筋 quadratus femoris
大腿方形筋は股関節外旋筋群の中で最も下方に位置しており,股関節外旋に強力に作用する筋です。殿筋群に阻まれ触診することができません。以下に大腿方形筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
神経支配:大腿方形筋の神経(L4-5,S1)
主な作用は股関節の外旋です。大腿方形筋は股関節伸展位や軽度屈曲位で股関節の内転に作用するという報告もあります。
起始:坐骨結節の外側縁
停止:大腿骨の転子間稜と方形筋結節
神経支配:大腿方形筋の神経(L4-5,S1)
作用:股関節外旋
主な作用は股関節の外旋です。大腿方形筋は股関節伸展位や軽度屈曲位で股関節の内転に作用するという報告もあります。
外閉鎖筋 obturatorius externus
外閉鎖筋は,股関節外旋筋群の中で唯一支配神経や停止部が異なる筋です。殿筋群に阻まれ直接触診することはできません。以下に外閉鎖筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
神経支配:閉鎖神経の枝(L3,4)
主な作用は股関節の外旋です。大腿方形筋とともに股関節伸展位や軽度屈曲位で股関節の内転に作用するという報告もあります。
起始:閉鎖孔および閉鎖膜が恥骨および坐骨と境界する位置の前部
停止:転子窩
神経支配:閉鎖神経の枝(L3,4)
作用:股関節外旋
主な作用は股関節の外旋です。大腿方形筋とともに股関節伸展位や軽度屈曲位で股関節の内転に作用するという報告もあります。
股関節外旋筋群の役割
股関節の外旋筋群とひとくくりになっていますが,実際は股関節位置によって股関節外旋への各筋の貢献度は違います。例えば,梨状筋は股関節伸展位で股関節外旋モーメンが高くなりますが,外閉鎖筋は股関節の屈曲位で股関節外旋モーメントが増加します。このように,どの股関節位置でも外旋方向に働くこと,またこれらの筋群が股関節の最も近位で関節を取り囲んでいることから,股関節の動的な安定性に関与していると考えられています。
まとめ
今回,股関節の外旋に関与する5つ(6つ)の筋を説明しました。これらの筋群は,股関節の最も近位に位置して,どの股関節位置でも外旋に作用できることで,股関節の動的な安定性に作用していると考えられます。リハビリテーション専門職が得意とする触診が困難なことが多く,機能不全を推論するには触診以外の手法を用いる必要があります。
オーチスのキネシオロジー
プロメテウス解剖学アトラス
運動学(関連記事一覧)
参考図書
基礎運動学オーチスのキネシオロジー
プロメテウス解剖学アトラス
運動学(関連記事一覧)