大腿四頭筋は大腿直筋,中間広筋,外側広筋,内側広筋から構成されていて,主に膝関節の伸展に作用します。ここでは大腿四頭筋の機能と役割について構成する各筋にわけて説明します。
大腿直筋 rectus femoris
大腿直筋は大腿四頭筋のなかで唯一の二関節筋(2つの関節にまたがり作用する筋)で,股関節と膝関節に関与します。大腿骨の前面に位置しており,近位部は縫工筋と大腿筋膜張筋の間,遠位部は内側広筋と外側広筋の間で簡単に触診できます。以下に,大腿直筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
起始:下前腸骨棘および腸骨溝,寛骨臼上縁
停止:大腿四頭筋腱として膝蓋骨上縁に停止
神経支配:大腿神経(L2-4)
作用:膝関節伸展,股関節屈曲,股関節外旋,股関節外転
主な作用は膝関節の伸展です。膝関節伸展の作用に股関節位置はあまり関係がなく,股関節屈曲位でも伸展位でも大腿直筋は活動します。二関節筋であるため股関節屈曲,股関節外旋,股関節外転に作用します。
大腿直筋の生理学断面積は,大腿四頭筋の約15%を占めます。また,大腿四頭筋の最大収縮時には伸展トルクの20〜25%を担っているといわれています。
中間広筋 vastus intermedius
中間広筋は大腿直筋の下層を通る筋で純粋に膝関節運動に関与します。この筋は,大腿四頭筋のなかでも最も深層に位置するため触診困難です。中間広筋の深層部は膝関節筋とつながっていることがあります(個人差があります)。以下に,中間広筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
起始:大腿骨骨幹部上方2/3の前面と外側面.大腿骨骨幹部の前面下部(膝関節筋)
停止:膝蓋骨外側縁と脛骨外側顆(大腿四頭筋腱の深層).膝蓋上嚢内(膝関節筋)
神経支配:大腿神経(L2-4)
作用:膝関節伸展
主な作用は膝関節の伸展です.というより,膝関節の伸展にしか作用しません。内側広筋は膝関節を伸展させた時に全可動域を通して活動します。
中間広筋の生理学断面積は,大腿四頭筋の約15〜40%を占めます。また,大腿四頭筋の最大収縮時には伸展モーメントの40〜50%を担っているといわれています。
膝関節筋の役割
膝関節筋は内側広筋と癒着していることがあります。つながっているか否かには個体差があるようです。いずれにせよ膝関節筋の作用は,膝蓋上嚢に付着して,膝関節を伸展した時に膝蓋上嚢を近位と牽引することにあります。この作用によって膝蓋大腿関節でのインピンジメントを防いでいるのです。
外側広筋 vastus lateralis
外側広筋は大腿の外側を通る筋で純粋に膝関節運動に関与します。この筋は,大腿の外側部で触診できます。以下に,外側広筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
起始:転子間稜,大転子の前内側縁,殿筋粗面の外側縁,粗線外側唇の近位1/2,筋間中隔の外側部
停止:大腿四頭筋腱となり膝蓋骨底,膝蓋靭帯の外側縁に停止
神経支配:大腿神経(L2-4)
作用:膝関節伸展
主な作用は膝関節の伸展です。というより,中間広筋同様に膝関節の伸展にしか作用しません。外側広筋は膝関節を伸展させた時に全可動域を通して活動します。
外側広筋の生理学断面積は,大腿四頭筋の40%を占める場合もあるようです(個体差が大きい)。また,大腿四頭筋の最大収縮時には伸展モーメントの20〜25%を担っているといわれています。
内側広筋 vastus medialis
内側広筋は大腿の内側を通る筋で膝関節運動や膝蓋骨の安定性に関与します。この筋は,大腿の内側部で触診できます。古典的には内側広筋を長頭(VML)と斜頭(VMO)に分類します。以下に,中間広筋の起始,停止,神経支配および作用をまとめます。
起始:
停止:
(VML)転子間線の遠位1/2,粗線内側唇,内側顆上線の近位2/3,内側筋間中隔
(VMO)大腿内転筋腱
停止:
(VML)大腿四頭筋腱となり膝蓋骨内側縁と膝蓋腱に停止
(VMO)膝蓋骨内側縁に直接停止
神経支配:大腿神経(L2-4)
作用:膝関節伸展,膝蓋骨の安定化
主な作用は膝関節の伸展です。従来,内側広筋は伸展最終域で活動するといわれてきましたが,現在では否定されています。内側広筋は膝関節を伸展する時に膝蓋骨を安定化させる作用もあります。この作用は主にVMOが担っていると考えられています。
内側広筋の生理学断面積は,大腿四頭筋の20〜35%を占めています。また,大腿四頭筋の最大収縮時には伸展モーメントの10〜12%を担っているといわれています。
VMOの選択的筋力強化?
VMOは膝蓋骨の安定性にかかわる筋束です。膝蓋大腿関節は痛みを生じやすいので,膝蓋骨の安定化にVMOの選択的な筋力増強が試みられてきました。様々な通説が存在しますが,それらは矛盾点が多く全て一定見解の得られたものではありません。VMOを選択的に強化する方法は確立されていないのです。現在のところ最も効果の高い運動は,シンプルに大腿四頭筋全体の筋力を増強させるプログラムです。
まとめ
大腿四頭筋は多くの日常生活動作に関わる重要な筋群です。これらの筋群は,抗重力筋として立ち上がりや立位の安定性などに関与します。また,内側広筋の一部線維は膝関節安定性に関与していて,変形性膝関節症や膝蓋大腿疼痛症候群の患者さんに対して大腿四頭筋へのアプローチを選択することもあります。したがって,臨床では大腿四頭筋の作用が重要で,膝伸展筋力を充分に評価することが求められます。
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