大腿四頭筋の機能と役割:内側広筋は膝を伸ばし切る筋なのか

大腿四頭筋の機能と役割:内側広筋は膝を伸ばし切る筋なのか

Scharfが1984年に報告した実験では、新鮮な大腿切断肢28本を、大腿四頭筋のそれぞれの筋の向きにおもりで引きました。大腿骨に沿って縦に走る筋の向きなら、どれでも膝は完全に伸びました。ところが、膝のお皿である膝蓋骨の内側縁に向かって斜めに走る、内側広筋の斜頭の向きに引くと、最大の重さをかけても膝は伸び切りませんでした。

膝の手術を受けた50代の女性が、ベッドの端に座って膝を伸ばそうとしているとしましょう。介助者が足を持ち上げれば膝はまっすぐになるのに、自分の力では最後の10°ほどが伸び切りません。膝蓋骨の内側の上にあるふくらみは、反対の脚よりやせて見えます。担当の理学療法士は、ここにある内側広筋が弱いから膝が伸び切らないのだと考え、内側広筋を狙った運動を始めました。

膝を伸ばし切るのは、内側広筋の仕事なのでしょうか。

大腿四頭筋の機能と役割の要点

  • 構成:大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋の4つ。どれも大腿神経(L2〜L4)に支配され、膝蓋骨と膝蓋靱帯を介して脛骨粗面に付き、膝関節を伸ばす。大腿直筋だけが股関節もまたぎ、股関節を曲げる
  • 大きさ:筋が出せる力の目安となる生理学的断面積は、外側広筋が最も大きく、4つの合計の41%を占める。内側広筋は24%、中間広筋は19%、大腿直筋は16%
  • 引く向き:内側広筋の下部の斜頭は、大腿骨の長軸から内側へ46〜52°傾いて膝蓋骨を引く。切断肢の実験では、斜頭の向きに引いても膝は伸び切らず、縦に走るほかの筋の向きに引けば、どれでも伸び切った
  • 伸び切らない理由:1つの筋の弱さでは説明できない。関節の腫れで大腿四頭筋が反射的に抑えられる関節原性筋抑制が知られ、健康な人でも数度のずれはある
  • 斜頭だけを鍛えられるか:脚の向きを変えたり、ほかの筋の同時収縮を加えたりしても、斜頭を外側広筋より強く働かせられるという根拠は乏しい
  • 4つとは限らない:2016年、外側広筋と中間広筋の間に、独立した神経と血管をもつ筋腹(中間広筋張筋)が報告された

4つの筋と膝蓋骨

大腿四頭筋(quadriceps femoris)は、ラテン語で「4つの頭」を意味する名のとおり、4つの筋からなります。大腿の前面中央を走る大腿直筋、外側の外側広筋、内側の内側広筋、そして大腿直筋の深層にある中間広筋です。4つは合流して大腿四頭筋腱となり、膝蓋骨を包み込んで、膝蓋靱帯として脛骨粗面に付きます。4つとも大腿神経(L2〜L4)に支配されます(表1)。

筋起始 → 停止主な作用
大腿直筋下前腸骨棘(直頭)、寛骨臼の上縁(反転頭) → 膝蓋骨の上縁、膝蓋靱帯を介して脛骨粗面膝関節の伸展、股関節の屈曲
外側広筋大転子、大腿骨の粗線の外側唇など → 膝蓋骨の上縁と外側縁、膝蓋靱帯を介して脛骨粗面膝関節の伸展
中間広筋大腿骨体の前面と外側面 → 膝蓋骨の上縁(大腿四頭筋腱の深層)、膝蓋靱帯を介して脛骨粗面膝関節の伸展
内側広筋転子間線の下部、大腿骨の粗線の内側唇など → 膝蓋骨の上縁と内側縁、膝蓋靱帯を介して脛骨粗面膝関節の伸展

表1 大腿四頭筋の起始、停止、主な作用

膝蓋骨は、大腿四頭筋の力を脛骨に伝える中継点で、膝を伸ばす力のてこの腕を長くしています。Kauferによると、膝を伸ばす筋のモーメントアーム、つまり関節の回転の中心から力の向きまでの距離のうち、13〜30%は膝蓋骨によるものです(「てこの原理:人体の3種類のてこを見分ける」)。

中間広筋のさらに深層には、膝関節筋という小さな筋があります。Woodleyらが遺体の脚22本を調べたところ、膝関節筋は大腿骨の下3分の1の前面から起こる平均7つの筋束からなり、膝蓋骨の上にある袋である膝蓋上包の壁、中間広筋の腱の深層、関節包に付いていました。膝蓋上包を引き上げる働きがあると考えられています。

断面積で比べると、最も大きいのは外側広筋

筋が出せる最大の力は、筋線維の向きに直角な断面の面積、つまり生理学的断面積にほぼ比例します。Wardらが遺体の脚21本で下肢の27の筋を測った研究では、大腿四頭筋の生理学的断面積は、外側広筋35.1 cm²、内側広筋20.6 cm²、中間広筋16.7 cm²、大腿直筋13.5 cm²でした(図1)。外側広筋は、ヒラメ筋(51.8 cm²)、中殿筋(33.8 cm²)と並んで、下肢で最も大きな力を出せる筋の一つです。

大腿四頭筋の各筋の生理学的断面積を示す横棒グラフ。外側広筋35.1平方センチメートル(41%)、内側広筋20.6(24%)、中間広筋16.7(19%)、大腿直筋13.5(16%)。線維の長さは外側広筋9.9センチ、内側広筋9.7センチ、中間広筋9.9センチ、大腿直筋7.6センチ

図1 大腿四頭筋の各筋の生理学的断面積(Wardら, 2009より作成)。遺体の脚19〜21本の平均値。%は4つの合計(85.9 cm²)に占める割合で、比較するとヒラメ筋は51.8 cm²、中殿筋は33.8 cm²。生理学的断面積は筋線維の向きに直角な断面の面積で、筋が出せる最大の力の目安になる。線維の長さは、サルコメアの長さを2.7 µmにそろえて補正した値

外側広筋は、大腿骨の長軸から外側へ傾いて膝蓋骨を引きます(図2)。最も大きな筋が外側へ傾いて引くので、膝蓋骨には外側へ引かれる力がかかりやすいことになります。この力に向き合うのが、内側広筋の下部です。

内側広筋は膝を伸ばし切れるのか:切断肢の実験

内側広筋の下部の線維は、膝蓋骨の内側縁に向かって斜めに走ります。この部分は斜頭(vastus medialis obliquus:VMO)、上部の、より縦に近い向きに走る部分は長頭(vastus medialis longus:VML)と呼ばれます。

Scharfは1984年、遺体の脚115本を解剖し、どの例でも内側広筋を、膝蓋骨の上縁に付く長頭と、膝蓋骨の内側縁に付く斜頭に分けられたと報告しました。さらに32体で各筋が膝蓋骨を引く向きを測ると、大腿直筋は内側へ8〜11°、外側広筋は外側へ12〜16°、長頭は内側へ15〜18°、斜頭は内側へ46〜52°傾いて引き、中間広筋は大腿骨の長軸と平行に引いていました(図2)。

右膝を前から見たときに各筋が膝蓋骨を引く向きを矢印で示した図。中間広筋は大腿骨の長軸と平行、大腿直筋は内側へ8〜11°、内側広筋の長頭は内側へ15〜18°、斜頭は内側へ46〜52°、外側広筋は外側へ12〜16°。斜頭が49°の向きに引くと、長軸に沿う成分は力の約0.66倍、内側へ向かう成分は約0.75倍になる

図2 各筋が膝蓋骨を引く向き(Scharf, 1984より作成)。右膝を前から見たときの、大腿骨の長軸に対する角度。遺体32体で測った値で、図は各範囲の中央の角度で描いた。大腿直筋は前方へも3〜6°傾く。斜頭が49°の向きに引くと、長軸に沿う成分は力の約0.66倍、内側へ向かう成分は約0.75倍で、内側へ引く成分のほうが大きい

決め手になったのは、新鮮な大腿切断肢28本をおもりで引いた実験です。縦に走る筋の向きのうち、最も効率よく膝が伸びたのは中間広筋の向きで、斜頭の向きだけは、最大の重さをかけても膝が伸び切りませんでした。Scharfは、膝が伸び切らないことを1つの筋の不足で説明することはできず、斜頭は膝を伸ばし切ることにほとんど寄与していない、と結論しています。

斜頭の力を向きで分けると、この筋の性格が見えてきます。49°の向きに引く力のうち、大腿骨の長軸に沿う成分は力の約0.66倍、膝蓋骨を内側へ引く成分は約0.75倍で、内側へ引く成分のほうが大きくなります。斜頭の主な役割は、膝を伸ばすことよりも、膝蓋骨を内側へ引いて外側へずれないように支えることにあると考えられます。

ただし、斜頭と長頭が本当に別の筋なのかには、まだ結論が出ていません。Smithらは、26編の研究(健康な膝699例、膝蓋大腿関節の障害がある591例)を、決まった手順で集めてまとめたシステマティックレビューで、多くの例で内側広筋の上部と下部の線維の向きは大きく違っていたものの、両者を分ける筋膜の面がみられたのは一部だけで、内側広筋に入る神経の枝も1本の例と2本の例があったと報告しました。そのうえで、2つの別の部分からなると言えるだけの質の高い根拠はない、と結論しています。115本すべてで分けられたとしたScharfの報告とは対照的です。

膝が伸び切らない本当の理由

膝の手術を受けたこの50代の女性のように、他動的には伸びるのに自力では伸び切らない状態は、伸展不全(extension lag、quadriceps lag)と呼ばれます。まず知っておきたいのは、健康な人にも小さなずれがあることです。Stillmanが健康な成人64人で調べたところ、座って膝を自力で最大まで伸ばしたときの角度は、他動的に伸ばしたときより平均2.5°足りず、その姿勢を5秒保つと差は5.0°まで広がりました。5°以上のずれは、伸ばした瞬間で16%、5秒後で41%の人にみられました。伸展不全を測るときは、何秒保った時点の角度かをそろえる必要があります。

手術や外傷の後に大きなずれが残る理由として知られているのが、関節原性筋抑制(arthrogenic muscle inhibition)です。Spencerらは、健康な10人の膝関節に生理食塩水を少しずつ注入し(最大60 ml)、大腿四頭筋の運動ニューロンの興奮性をH反射で調べました。注入によって、H反射の振幅は、内側広筋で注入前の55.7%、大腿直筋で69.1%、外側広筋で65.3%に下がりました。抑制が始まる量は、内側広筋では20〜30 ml、大腿直筋と外側広筋では50〜60 mlで、内側広筋が最も少ない量で抑えられました。関節の中に局所麻酔薬を入れてから同じことをすると、H反射は下がりませんでした。膝が腫れて筋が機械的に動きにくくなったのではなく、腫れを感じ取った関節の感覚受容器からの信号が、脊髄で大腿四頭筋の運動ニューロンを抑えていたのです。

RiceとMcNairは総説で、関節原性筋抑制は関節炎、手術、外傷の後に広くみられ、腫れ、炎症、関節の緩み、関節の感覚神経の損傷などによって関節の感覚受容器からの信号が変わることで起こる、と整理しています。対策としては寒冷療法、経皮的電気神経刺激、神経筋電気刺激が有望で、炎症が強い場合は非ステロイド性抗炎症薬や関節内へのステロイド注射も役立つ可能性があると述べています。

こうして見ると、この女性の膝が伸び切らない理由を、内側広筋だけの弱さに求めることはできません。腫れによる抑制は4つの筋すべてにかかり、Scharfの実験のとおり、縦に走るどの筋の向きでも膝は伸び切るからです。内側広筋のふくらみがやせて見えることは、Spencerらの結果のように、内側広筋が腫れに最も敏感なことと関係している可能性があります。まず腫れや痛みの有無を確かめ、大腿四頭筋全体を働かせることを考えるのが筋道です。

斜頭だけを鍛えることはできるか

膝蓋骨が外側へずれやすい膝や、膝の前が痛む膝蓋大腿疼痛症候群に対しては、斜頭を選んで鍛えようとする方法が試されてきました(「膝蓋大腿疼痛症候群 PFPS の特徴と治療法」)。股関節、膝関節、足部の向きを変えたり、股関節の内転などの同時収縮を加えたりして、斜頭を外側広筋より強く働かせようとするものです。

Smithらは、こうした条件で内側広筋と外側広筋について、筋が働くときに出る電気を記録した筋電図の活動を比べた20編の研究(参加者387人)をまとめました。研究の多くは、脚の関節の向きを変えても、同時収縮を加えても、斜頭の活動が外側広筋より選択的に高まることはないと報告していました。ただし、研究の方法には大きな限界が多く、膝蓋大腿関節の障害がある患者を多く集めた質の高い研究が必要だとしています。

大腿直筋:股関節と膝関節をまたぐ二関節筋

大腿直筋は、4つのうちただ1つ、股関節と膝関節の両方をまたぐ二関節筋です。股関節を曲げ(腸腰筋とともに担います。「大腰筋と腸骨筋の機能と役割」)、膝関節を伸ばします。股関節を伸ばしたまま膝を曲げると、大腿直筋は両端から引き伸ばされます。そのため、うつ伏せで膝を曲げると、大腿直筋が短い人では膝が曲がり切る前に止まったり、骨盤が持ち上がったりします。関節可動域を測るとき、膝の屈曲を股関節を曲げた肢位で測るのも、この影響を除くためです(「下肢の関節可動域測定(評価):参考可動域角度は「正常値」なのか」)。

二関節筋なのだから線維も長いはず、と考えたくなりますが、Wardらの計測では、大腿直筋の線維の長さは7.6 cmで、3つの広筋(9.7〜9.9 cm)より短いものでした(図1)。Wardらは、二関節筋が単関節筋より長い線維をもつとは限らないと述べています。

大腿四頭筋は4つなのか

大腿四頭筋は、大腿直筋と3つの広筋からなる筋群として説明されてきました。ところが2016年、Grobらは遺体の脚26本すべてで、外側広筋と中間広筋の間にもう1つの筋腹を見つけ、中間広筋張筋(tensor of the vastus intermedius)と名づけました。この筋腹は、大腿神経と外側大腿回旋動脈から独立した枝を受け、自前の腱膜となって大腿四頭筋腱に合流し、膝蓋骨の内側に付いていました。26本のうち11本では独立した筋で、残りの15本は中間広筋、外側広筋、またはその両方との結びつきが強い型でした。論文のキーワードには「quinticeps(五頭筋)」という言葉も添えられています。

膝関節筋や中間広筋張筋のように、大腿四頭筋のまわりには、数え方しだいで別の筋とも一部とも言える筋束があります。斜頭と長頭の議論と同じく、筋をいくつに数えるかは、解剖の方法と定義によって変わります。

まとめ

大腿四頭筋は大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋からなり、膝蓋骨を介して膝関節を伸ばします。断面積は外側広筋が最も大きく、内側広筋の斜頭は大腿骨の長軸から約50°内側へ傾いて膝蓋骨を引きます。切断肢の実験では、斜頭の向きに引いても膝は伸び切らず、縦に走るほかの筋の向きならどれでも伸び切りました。膝が伸び切らない伸展不全は、内側広筋だけの弱さではなく、関節の腫れによる大腿四頭筋全体の抑制などから考える必要があり、健康な人にも数度のずれがあります。斜頭だけを選んで鍛えられるという根拠は乏しく、斜頭と長頭が別の筋かどうかも決着していません。

斜めに走る線維と、やせて見えるふくらみを前にすれば、膝が伸び切らないのは内側広筋が弱いからだ、と考えたくもなります。Scharfは新鮮な大腿切断肢をそれぞれの筋の向きにおもりで引き、形からの推測を、膝が実際に伸び切るかどうかで確かめました。その結果と、斜頭が引く向きを力の成分に分けた計算からは、斜頭の主な役割は、膝を伸ばすことよりも、膝蓋骨を内側へ引いて支えることにあると読めます。生理食塩水を膝に入れてH反射を調べたSpencerらの実験は、内側広筋が腫れに最も敏感なことを示し、やせて見えるふくらみを関節の腫れとあわせて見る手がかりを与えました。

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参考文献

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