NIH Stroke Scale (NIHSS)


 National Institutes of Health Stroke Scale (NIHSS) は,主に急性期脳卒中患者に対して用いられる評価指標です。以下にその目的,対象,方法や特性(床・天井効果,信頼性,妥当性)についてまとめました。記事の最後にMELT Japanが作成している評価表PDFの外部リンクをおかせていただきましたので,必要な方は活用して下さい。

評価の目的と対象

 NIHSSは脳卒中患者の初期評価ツールとして,意識障害,運動麻痺,感覚障害,言語機能にいたるまで患者の全般的な機能を評価します。また,NIHSS得点は脳卒中の重症度として,点数に応じて手術の適応の有無を判断したり,その後の神経回復(あるいは生活の自立度)を予測したりすることに使われています。Fugel-Meyer AssessmentやSIASのように,治療介入の効果を判定する指標としてはあまり用いられません。

評価の方法

評価の項目

 意識障害,眼球運動,視野,顔面麻痺,上下肢の運動機能,感覚障害,運動失調,失語症,構音障害,注意障害を評価して,計15項目があります。詳細は以下の通りです。

NIHSSの15項目
  1. 患者の反応(意識障害)
  2. ・さまざまな刺激に対する反応をみる

  3. 質問への返答(意識障害)
  4. ・月と年齢について質問する

  5. 命令に従う(意識障害)
  6. ・眼と手の開閉を命令する(麻痺の影響を受けないように)

  7. 最良の注視
  8. ・水平眼球運動を評価

  9. 視野
  10. ・上下左右視野(1/4)を対座法などで評価

  11. 顔面神経麻痺
  12. ・歯をみせたり,眉を上げたり,目をつぶったりさせる

  13. 右側上肢の運動
  14. ・挙上90度(坐位)または45度(仰臥位)を10秒間たもっていられるか評価する(切断や関節癒合がある場合は未評価)

  15. 左側上肢の運動
  16. ・挙上90度(坐位)または45度(仰臥位)を10秒間たもっていられるか評価する(切断や関節癒合がある場合は未評価)

  17. 右側下肢の運動
  18. ・挙上30度(必ず仰臥位)を5秒間たもっていられるかを評価

  19. 左側下肢の運動
  20. ・挙上30度(必ず仰臥位)を5秒間たもっていられるかを評価

  21. 運動失調
  22. ・開眼で指-鼻-指試験と踵-脛試験を両側に行う(切断や関節癒合がある場合は未評価)

  23. 感覚
  24. ・pinprick(針刺激) に対する渋面,逃避反応を評価する

  25. 最良の言語
  26. ・絵カードや文章カードなどのツールを用いて評価する

  27. 構音障害
  28. ・発話の明瞭度で評価する

  29. 消去現象と注意障害(無視)
  30. ・2点同時刺激や,自己身体の認識なので評価する

評価の得点

 各項目によって0〜2,0〜3,0〜4まで複数の段階があります。段階内容もそれぞれの項目に沿ったものとなっていますので,詳しくは記事下の外部リンクを確認して下さい。最大スコアは42点です。点数が高いほど,重症の脳卒中であると判断されます。項目内容をみていただけば分かる通り,意識と運動で得点配分が多くなっています。

使用する物品や環境

 絵カードや文章カード,感覚検査用の検査針が必要です。

評価にかかる時間

 簡便な検査方法として作成されたもので,10分程度で検査を終えることができます。

評価の特性

床・天井効果

 多数の報告により急性期脳卒中患者で天井効果が確認されています。

 信頼性

(1) 再試験信頼性(いつ評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 急性期脳卒中患者で確認されています (Goldstein & Samsa, Stroke, 1997)。

(2) 検者間信頼性(誰が評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 急性期脳卒中患者で確認されています (Goldstein & Samsa, Stroke, 1997)。

(3) 検者内信頼性(同じ人が数回評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 確認されていません。

(4) 内的整合性(評価したいことが評価できているかどうか)

 確認されていません。

妥当性

(1) 基準関連妥当性(他の似たような評価指標と関連するかどうか)

 急性期脳卒中患者でNIHSS得点と拡散強調MRIのボリュームとの相関が認められています (Bohannon et al, Am J Phys Med Rehabil, 2002)。また,急性期脳卒中患者の予後について予測妥当性が確認されています (Adams et al, Neurology, 1999; Baird et al, Lancet, 2001)。

(2) 構成概念妥当性(評価内因子を合わせて評価したいものを評価できているか)

 因子分析などでは確認されていません。

(3) 内容的妥当性(項目に評価したい内容を含んでいるか)

 確認されています (Kasner, Lancet Neurol, 2006)。

(4) 表面的妥当性(その道の専門家からみて妥当かどうか)

 渉猟した限り確認されていません。

まとめ

 NIHSSは,脳卒中の発症初期に投薬や手術の適用を判断したり,予後を予測したりするために用いられるため,簡便で分かりやすい作りになっていいます。一方で予後予測研究や脳画像との関係を調べた研究が多いため,それ以外の目的(例えば基本動作能力やADL能力と関係があるかなど)についてはあまり分かっていません。NIHSSは改変版もつくられていますが,あまり普及はしていない印象です。最近ではNIHSSを用いてリハビリテーションの予後を予測しようという試みも多くなってきました。

外部リンク:MELT Japan PDF資料

評価の特徴や方法(評価指標一覧)