研究をはじめるには,まず研究テーマ(あるいは研究課題)を決めなくてはなりません。しかし,研究初心者にとって魅力のある研究課題を探し出すことは簡単ではありません。そこで,この記事では臨床研究における研究テーマの決め方について説明します。
研究テーマは臨床的疑問から生まれる
臨床的疑問とはわれわれが患者さんを診療するにあたって感じた疑問です。臨床疑問については「PICOによる臨床疑問の定式化」を参照して下さい。臨床研究をはじめるのであれば,研究テーマは臨床疑問に基いて決める必要があります。
臨床的疑問の例
臨床で働いていれば臨床的疑問を感じる場面は頻回に訪れます。例えば,最近だと慢性関節リウマチ患者に対して筋力増強練習を行おうとした時に,どのくらいの負荷をかければ良いのか疑問に思いました。また,どのような筋収縮様式(等尺性,等張性など)でのトレーニングが適しているのか知りたいと思いました。
実際に答えがないか調べる
いくら疑問に思っていても,既に答えがある疑問は研究テーマにはなりえません。そこで,文献を検索してこの疑問に対する研究が行われていないかを調べます。答えがあった場合はその答えにそくした筋力増強練習を選択すれば良いですし(これはEBMの実践そのものです),もし答えが見つからない場合は研究するべき課題となりうるでしょう。
忘れないようにメモをとる
日々現場で働いていれば,臨床的疑問は湯水のごとく溢れ出てきます。それを頭に閉まっておければ良いのですが,実際は押し寄せる波に流されて忘れてしまいます。そこで,気になったこと,疑問に思ったことは必ずメモに記録して残しておく習慣をつけて下さい。患者さんのことを必死に考えて得たひらめきは,われわれにとっても,患者さんにとっても財産になります。
得た着想は懐に入れて温める
離床的疑問に基いて研究テーマの着想を得たのなら,次に本当にそのテーマで研究を進めて良いのか考える必要があります。一度,得た着想を懐に入れて温める作業です。
そのテーマの背景を知る
着想を得てから最初にやることは,そのテーマに近い文献を出来るかぎり読んで研究テーマの背景を知ります。例えば,慢性関節リウマチの筋力増強練習の適切な手法や負荷量について知りたい場合,慢性関節リウマチの運動療法について広く調べます。
研究を進める上で大切なことは,これから行う研究が一連の知見の中でどこに位置するのかを明確にすることです。つまり,上の例でいえば慢性関節リウマチの運動療法について筋力増強が有効だということまでは知られているが,その手法や負荷量までは明らかでない,ということをはっきりとさせなければなりません。
研究テーマの立ち位置がみえてくると,研究計画を立てるときや,学会発表あるいは論文執筆の際に簡単に研究背景をかけるようになります。労力がかかり面倒くさいところですが,しっかりと調べてから研究をはじめましょう。
実現可能かを考える
次に,どんな方法で研究するかを考えます。背景を知る段階で様々な先行研究を読んでいるはずですから,研究の方法についても概ね想像できていると思います。その研究方法が自分のいる施設(病院)で実現可能かを考えることが大切です。
臨床研究にはある程度の対象者人数や,研究デザインによっては研究協力者も必要になります。研究の規模によってはもしかすると研究資金が必要になるかもしれません。ご自分の環境でその研究方法が実現可能なのかを吟味して下さい。
研究デザインについてよくわからない方は,当サイトに臨床研究のデザインの種類や方法,利点や問題点などについてまとめてあるのでぜひ参考にして下さい。
研究計画をたてる
その研究テーマの背景を知って研究が実現可能であると判断できたのであれば,次に研究計画書を作成します。研究計画書のことはここで詳しく述べませんので,「研究計画書の書き方」を参考にして下さい。しっかりと研究のテーマ,背景や方法を文章に書き起こしておくことが大切です。文章にすることで客観的に自分の考えを見つめなおすことができます。
まとめ
研究テーマは臨床的な疑問に基いて決めます。臨床疑問がそのまま研究テーマになって研究を進めるのではなく,一度その背景や方法について考える必要があります。着想を得たテーマに答えがなく世界ではじめての研究になりそうで,それでいてご自分の環境で実現できそうな内容であればきっと良い研究になるでしょう。功を焦って,すでに知られていることの二番煎じにならないように,しっかりと研究テーマを煮詰めてから研究を進めて下さい。
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