痛みの評価方法(包括的評価)


 患者の持つ痛みを包括的に評価することで,患者にどのようなアプローチを行えばいいのかを判断できます。包括的な評価として,①痛みの原因を探ること,②痛みの特徴を把握することが重要になります。ここでは痛みの包括的評価について説明します。

痛みの原因を探る

 身体所見や画像検査から「痛みの原因を探る」ことで,疼痛治療に加えて原因に対する治療が必要かどうかの判断に役立てることができます。患者の痛みのすべてが同じ原因とは限りません。身体所見,画像所見,血液検査所見などを組み合わせ,痛みの原因について総合的に判断することが重要です。

痛みの発生機転と経過

 痛みの原因を探るために患者の持つ痛みが,いつどこで生じたのかを確認する必要があります。例えば,事故や転倒など明らかな受傷機転がある場合,痛みの原因は何らかの組織の炎症に由来する可能性が高まります。また,痛みの発生からどのような経過をたどっているかで,その痛みが慢性痛なのか急性痛なのかなど,痛みの原因を推察する上で重要な情報を得ることができます。

身体所見

 まず患者の全身状態をおおまかに評価します。皮膚色,体重減少の有無,全身衰弱,筋痙縮や筋萎縮などについて観察して,不安や恐れ,抑うつがみられないかも確認します。全身状態を評価した後、疼痛部位の詳細な評価を行います。

(1) 視診

 皮膚損傷,帯状疱疹,褥瘡,腫脹,発赤など皮膚に痛みの原因がないかを視診によって調べます。内臓からの関連痛の場合,異常のある臓器が侵害刺激を入力する脊髄レベルの皮膚に色調の変化や立毛筋の収縮,発汗異常などの交感神経反応を認めることがあります。皮膚が侵害刺激を入力する脊髄レベル(デルマトーム,図1)を理解しておくことが判断に役立ちます。姿勢の観察も大切です。患者が疼痛を回避するような姿勢をとっている場合,そこから痛みの要因を推察することもできます。

図1 デルマトーム

(2) 触診

 痛みのある部位の触診を行い,腫脹や熱感など痛みの原因となる病変がないか評価します。また,痛みのある皮膚の感覚異常を痛みのない部位と比較します。痛覚過敏は鈍針による刺激で,アロディニア(allodynia)は刷毛やティッシュなどで皮膚の表面を触れることで評価します。内臓の関連痛においては,関連領域の筋収縮や,腹壁への炎症の波及に伴う圧痛を認めます。がんの骨転移では転移部位に圧痛や叩打痛を認めます。転移部位が神経を刺激している場合には,障害神経支配領域の異常感覚(paresthesiaやdysethesia)を触診によって確認することができます。


(3) 筋力低下の有無を確認

 脊髄や神経根の障害で痛みが生じている場合に筋力低下を評価することで脊髄レベルを同定することができます。筋力の評価は徒手筋力テスト(MMT)が一般的な方法です。

画像所見

 画像検査も痛みの原因を探るために有用です。しかし,画像検査の結果は疾患や病変により感度や特異度に優劣があるので注意が必要です。問診や視診から想定される病変の部位によって適切な検査方法を選択する必要があります。特に,画像上で構造的に異常があるからといって,その部位が痛みの原因になっているとは断言できません。その他の検査から得られた情報と統合して判断するための材料として用いることが大切です。

痛みの特徴を把握する

 「痛みの特徴を把握する」とは,患者の自覚症状としての痛みの強さや生活への影響,治療効果を評価することです。痛みの特徴を正しく把握することで,患者の持つ問題を明確にできて,患者個人に合わせた疼痛治療を計画できるようになります。

日常生活への影響

 痛みにの特徴を把握する上で,まずその痛みが患者の日常生活にどの程度支障をきたしているのかを確認することが大切です。特に睡眠への影響については必ず聞くよう心がけてください。次に患者自身がどの程度の対応を希望しているかを確認します。つまり,痛みで日常生活に支障があっても耐えられる程度なのか,それとも早急な対応を求めているのかを把握する必要があります。痛みが日常生活に与える影響を評価する指標には以下のようなものがあります。

(1) Support Team Assessment Schedule 日本語版 (STAS-J)

 STAS-Jはホスピス緩和ケアで用いられる評価指標です。主な項目は「痛みのコントロール」,「症状が患者に及ぼす影響」,「患者の不安」,「家族の不安」,「患者の病状認識」,「家族の病状認識」,「患者と家族のコミュニケーション」,「医療専門職間のコミュニケーション」,「患者・家族に対する医療専門職とのコミュニケーション」の9項目からなります。STAS-Jでは患者自身が痛みを評価するのではなく,医療専門職が患者の痛みを評価します。そのため,患者さんに負担を与えないという利点があります。

(2) Roland Morris Disability Questionnaire (RDQ)

 RDQ は腰痛患者に対して使用する質問表です。腰痛によって日常生活行動がどの程度障害されるかを24 項目で評価します。STAS-Jとは違い,患者自身が痛みを評価する「自記式評価」です。RDQの信頼性と妥当性については十分な検討がされています。

(3) 疼痛生活障害評価尺度 (Pain Disability Assessment Scale: PDAS)

 PDASでは慢性痛患者の身体運動,移動能力に関する能力障害を評価します。全20項目の質問紙です。慢性痛患者と健常者を比較することで信頼性と妥当性についてはある程度は確認されています。

痛みの部位

 ボディーチャート(図2)などを用いて,痛みの部位を把握することも大切です。患者が複数の痛みを持っている場合,それぞれが独立した要因から生じている可能性もあれば,一つの要因から関連して発生している場合もあります。いずれにせよ,痛みの部位がどこにあって,どのように広がっていて,どう変化(移動)していくかを知ることが痛みの特徴を理解するために重要になります。

図2 ボディチャート


痛みの性状

 患者の痛みが体性痛,内臓痛,神経障害性疼痛であるかを判断するために,「痛みの性状」を知ることが大切です。例えば,患者は内臓痛では「疼くような」,「鈍く苦しい」などの性状を訴えることがあり,神経障害性疼痛では「灼けるような」,「ビーンと走るような」,「槍で突き抜かれたような」と表現することがあります。

痛みの強さ

 痛みの強さ(程度)は治療効果判定の意味からも初診時に評価しておくことが重要です。評価法としてはさまざまなツールが開発されています。その中でも信頼性,妥当性ともにある程度検証されていて,臨床の場で用い易いものは,Numerical Rating Scale (NRS),Visual Analogue Scale (VAS),Verbal Rating Scale (VRS),Face Pain Scale (FPS) になります(図3)。

(1) Numerical Pain Rating Scale (NPRS)

 NPRSは最もよく使用されている評価法で,0 から10までの11 段階で患者自身に痛みの程度を数字で示してもらう方法です。NPRSでは,自分が今までに経験した最高の痛みを10として現在はいくつにあたるかを質問します。National Comprehensive Cancer Network (NCCN) のガイドラインでは,0を痛みなし,1~3を軽度,4~6を中等度,7~10を高度と定義しています。この方法の欠点は,小児患者や意識レベルの低下がみられる患者では痛みの数値にできないことや,患者の個性(数字に好みがあるなど)や環境に影響されやすいことが挙げられます。

(2) Visual Analogue Scale (VAS)

 VASは100 mmの水平な直 線上に痛みの程度を患者に印をつけてもらい,その長さをもって痛みの程度を数値化する評価方法です。その起源は1948年にKeelにより「simple descriptive pain scale」と記載されたことが最初だと言われています。患者が痛みを線上で表現することを理解できなかったり,視力の低下していたりした場合は適用できません。また,患者の痛みが100mm以上になった場合,スケールアウトで定量化しにくい問題点もあります。さらにVASは1人の患者を経時的に評価する場合には問題ありませんが,患者間での比較する場合に信頼度が低くなるという欠点もあります。

(3) Verbal Rating Scale (VRS)

 VRSは数段階の痛みの強さを表す言葉を直線上に記載して,その言葉を患者に選択させる方法です。VASとは異なり,言語を選択させることでスケールアウトの問題は起こりません。一方で,この評価は言語の選択肢が固定されるという限界があります。

(4) Face Pain Scale (FPS)

 FPSは痛みの程度を人間の表情で示して,痛みのない顔から,非常に痛みが強い顔まで数段階で評価する方法です。痛みの程度を6段階で表すWong-Baker Face Scaleが最もよく使用されています。他にも20 段階で表すLorish-Maisiakのface scaleなどがあります。FPSは主に小児を対象とする場合に用いられることが多いです。

図3 Pain Scale

痛みの増悪因子と軽減因子

 痛みの特徴を掴むために,痛みを強くする,または緩和する要因についても質問します。これによって,日常生活において痛みが増悪する原因となるような刺激を避け,痛みを緩和する方法を取り入れる指導を行えます。痛みに影響する要因には以下のようなものがあります。
増悪因子:夜間,特定の姿勢,体動,食事,排尿・排便,不安・抑うつなど
軽快因子:安静,特定の姿勢,保温,冷却,マッサージなど

まとめ

 痛みは個人の主観的な感情・情動です。そのため,患者の痛みに対応するためには一つの評価結果からあれこれと導き出すよりは,様々な評価を包括的に評価して痛みの原因や特徴を把握する必要があります。痛みへのアプローチを考える上で大切なことは,患者自身がその痛みについてどう考えているかを医療者側がしっかり理解することだと思います。我々が感じることのできない患者の痛みを,包括的な評価によって浮き彫りにすることで,患者に本当に必要な対応が導き出されます。

評価の特徴や方法(評価指標一覧)