ゲートコントロール説:さすると痛みが和らぐのはなぜか

ゲートコントロール説:さすると痛みが和らぐのはなぜか

1967年、WallとSweetは、皮膚の強い慢性の痛みがある8人で、痛む場所を支配する感覚神経や神経根を電気で刺激しました。刺激している間は、それまで押すと痛んだ場所を押しても、痛みが起きませんでした(WallとSweet 1967)。触覚を伝える太い神経線維の入力が、脊髄で痛みの信号の量を変える門を閉じるなら、太い線維を人工的に刺激すれば痛みを抑えられるはずだ、という予想どおりの結果です。ただし、その門を描いた1965年のモデルは、細部では正しくなかったとまとめられています(Mendell 2014)。

人工膝関節置換術を受けて3日目の患者さんが、歩く練習のあとで、傷の周りの皮膚を手でさすっています。さすると少し楽になるそうです。そばにいた先輩は、「触った感覚の信号が、痛みのゲートを閉じるからだよ。皮膚に電極を貼って電気で刺激するTENSも同じしくみ」と説明しました。ゲートとは、どこにある、どんなしくみなのでしょうか。そして、この説明は正しいのでしょうか。

ゲートコントロール説の要点

  • 何を説明したか:1965年に心理学者Melzackと神経科学者Wallが提唱した。脊髄の後角で、触覚などを伝える太い線維の入力と、痛みにかかわる細い線維の入力のつり合いによって、脳へ送られる信号が強められたり弱められたりするという考え。脳からの制御も組みこまれていた
  • 確かめられなかった部分:細い線維がシナプスの手前で門を開くしくみ、門をつくる膠様質の細胞がそろって抑制性だという前提、強い刺激にだけ応じる線維を特別な種類と見なかった点は、その後の実験で支持されなかった
  • 残った考え:脊髄の後角は痛みの信号を素通りさせる中継点ではなく、信号を調節する場所だという考え。2014〜2015年には、触覚の入力が痛みの回路に入るのを抑える抑制性の神経細胞が、マウスで特定された
  • 後から加わったこと:1965年の「中枢の制御」を具体化した、脳幹から脊髄に下る抑制の経路、ある部位の痛みが別の部位の痛みの信号を抑えるしくみ、脳の広い領域にまたがる処理
  • 臨床での使い方:触れると痛みが和らぐ現象は、人の実験でも確かめられている。TENSは、強いが痛くない強さで使うと、偽のTENSと比べて、使っている間と直後の痛みを減らすことが中程度の確かさで示されているが、運動や痛みの教育を補う治療と位置づけられている

ゲートコントロール説とは:痛みの信号は脊髄で調節される

皮膚からの感覚は、太さの違う神経線維で脊髄に運ばれます。触覚を伝えるのは、太く髄鞘をもつAβ線維です。組織を傷つけるような刺激を受けとる侵害受容器からは、細い有髄のAδ線維と、さらに細い無髄のC線維が信号を運びます(くわしくは「侵害受容器」)。これらの線維は脊髄の後角に入り、そこで次の神経細胞に信号を渡します(くわしくは「体性感覚の上行性伝導路」)。

ゲートコントロール説は、この後角に門があり、太い線維と細い線維からの入力のつり合いによって門が開いたり閉じたりし、脳へ送られる信号の量が変わると考えた説です。門の場所として想定されたのは、後角の表層にある膠様質、つまり細い線維が多く終わる、半透明に見える層でした。痛みは、傷の大きさに比例して脳へ一直線に伝わるのではなく、脊髄の入口で調節されている、というのがこの説の中心にある主張です。

1965年以前:痛みの理論の行き詰まり

1960年代の痛みの理論は、大きく2つに分かれていました。1つは特異説で、感覚の種類ごとに専用の受容器と専用の伝導路があり、痛みにも痛み専用の道があるという考えです。もう1つはパターン説で、感覚の種類は、線維を流れる信号の時間的、空間的なパターンで決まるという考えです(Mendell 2014)。

特異説では説明しにくい臨床の事実がありました。神経を損傷したあとの焼けるような痛みや、失った手足に感じる幻肢痛は、痛みの伝導路を手術で切っても、多くは永久には消えませんでした。軽く触れただけで激しい痛みが起きたり、痛みが関係のない場所に広がったりすることもありました。MelzackとWallは、こうした症状を、痛みの信号が受容器から脳へ一直線に伝わるという考えへの劇的な反証として挙げています(MelzackとWall 1965)。KatzとRosenbloom(2015)は、ゲートコントロール説が、それまで心の問題によると考えられていた幻肢痛のような不可解な症状に、生理学的な基盤を与えたと評価しています。

実験の手がかりもありました。帯状疱疹のあとの神経痛では、神経の中の太い線維の割合が減っていることから、Noordenbosは1959年に、太い線維がふだんは細い線維の働きを抑えているのではないかと考えました(Mendell 2014)。太い線維を刺激すると、脊髄の後根に陰性の電位が生じることは、すでに知られていました。これは、入ってきた線維の末端が脱分極し、シナプスの手前で信号が抑えられる、シナプス前抑制のしるしと読まれていました。末端があらかじめ脱分極していると、届いた活動電位が小さくなり、放出される伝達物質が減るからです。1964年にMendellとWallは、動物の実験で、太い線維の伝導を止めたうえで細い線維だけを刺激すると、電位が反対の陽性になることを示し、これを、細い線維がシナプス前で信号の伝達を促していることのしるしと読みました(MendellとWall 1964;Mendell 2014)。

1965年:MelzackとWallの「門」

ゲートコントロール説を提唱したのは、神経科学者Patrick D. Wallと心理学者Ronald Melzackです(MelzackとWall 1965)。

2人のモデルは、太い線維、細い線維、膠様質の細胞、脳へ信号を送る伝達細胞の4つの要素でできていました(図1)。太い線維からの入力は膠様質の細胞を興奮させ、膠様質の細胞は線維の末端にシナプス前抑制をかけて門を閉じます。細い線維からの入力は膠様質の細胞を抑え、シナプス前抑制を外して門を開きます。どちらの線維も伝達細胞を直接興奮させます。伝達細胞の出力がある水準を超えると、痛みの体験と、それに対する反応を生む脳のしくみが動き出す、という筋書きです。

1965年のゲートコントロール説のモデル図。左から太い線維と細い線維が入り、どちらも伝達細胞を興奮させる。太い線維は膠様質の細胞を興奮させ、細い線維は膠様質の細胞を抑える。膠様質の細胞は線維の末端を抑えて門を閉じる。上には、太い線維から脳へ上り、門に下りてくる中枢の制御がある。伝達細胞の出力は、痛みの体験と反応を生む脳のしくみへ送られる

図1 1965年のゲートコントロール説のモデル(MelzackとWall 1965、Mendell 2014、Brazら 2014をもとに作成)。+は興奮、−は抑制を表す。膠様質の細胞による抑制は、線維の末端へのシナプス前抑制として描かれた

モデルには、もう1つの要素がありました。太い線維の速い伝導路は、脳に信号を届け、脳の働きが下ってきて門の状態を変える、という中枢の制御です。脳の働きを組みこんだこの説によって、不安や抑うつなどの心理的な要因も、痛みへの反応ではなく、痛みの処理の一部として見られるようになりました(KatzとRosenbloom 2015)。この考えは、のちに確かめられる脳から脊髄への下行性の制御を予告するものでした(Mendell 2014)。MelzackとWallは、抑制がシナプス前ではなくシナプス後で起きている可能性も認めていました(Mendell 2014)。

理論が生んだ治療:電気で痛みを抑える

太い線維の入力で門が閉じるなら、太い線維を人工的に刺激すれば痛みを抑えられるはずです。1967年にWallとSweetは、皮膚の強い慢性の痛みがある8人で、痛む場所を支配する感覚神経や神経根を、幅0.1ミリ秒、1秒間に100回の電気パルスで刺激しました。電圧は、患者さんが痛む場所にピリピリした感じを覚えるまで上げました。刺激している間は、それまで押すと痛んだ場所を押しても痛みが起きず、末梢神経の病気がある4人では、2分間の刺激のあと30分以上痛みが和らぎました(WallとSweet 1967)。同じ年には、脊髄の後索、つまり太い線維の枝が上っていく白質を電気で刺激して痛みを抑えた例も報告されています(Shealyら 1967)。

ゲートコントロール説は、皮膚に電極を貼って神経を刺激するTENS、脊髄刺激などの治療を生み、痛みの伝導路を切る、元に戻せない手術を減らすことにもつながりました(KatzとRosenbloom 2015)。Garfieldの集計では、論文の年間の引用数は、発表から12年後の1977年に112回となり、1983年までの期間で最も多くなりました。引用はその後も増え続け、2013年には年525回に達しています。発表の直後には抵抗もありましたが、脊髄の門を支持する知見が増えるにつれて、受け入れられていきました(KatzとRosenbloom 2015)。

門の配線は何が誤っていたのか

試された結果、モデルの配線の多くは支持されませんでした。1つ目は、細い線維が門を開くしくみです。1968年にZimmermannは、ネコで有髄のA線維を遮断したうえでC線維だけを刺激し、後根の電位を記録しました。生じた電位は、太い線維を刺激したときと同じ向き、つまり陰性で、C線維もシナプス前抑制をもたらしている可能性が示されました(Zimmermann 1968)。細い線維の入力でシナプス前の伝達が促されて門が開く、という予測は確かめられなかったのです(Mendell 2014)。

2つ目は、痛みに特化した受容器です。1965年のモデルは、強い刺激にだけ応じる線維を特別な種類とは見ず、刺激の強さへの感度が連続的に分布する線維の端にあるものと見ていました(Mendell 2014)。しかし1967年にBurgessとPerlは、ネコの後肢の皮膚から、伝導速度が秒速51m未満の有髄線維513本を1本ずつ記録し、そのうち74本が、皮膚を傷つけるような機械的な刺激にだけ応じることを示しました(BurgessとPerl 1967)。痛みにかかわる刺激を選んで受けとる侵害受容器は、実在したのです。

3つ目は、膠様質の細胞の性質です。モデルでは、膠様質の細胞はそろって抑制性の介在ニューロンとして描かれていました。しかしラットの調べでは、抑制性の伝達物質GABAをもつ神経細胞は、後角の第I層で約25%、膠様質にあたる第II層で約30%、第III層で約40%で、残りは興奮性と考えられています(Todd 2010)。また、末梢から入る感覚の線維はすべて興奮性なので、図1のように細い線維が膠様質の細胞を直接抑える配線はありえず、描かれた抑制は、間にある未知の神経細胞の働きをまとめたものとしか読めません(Brazら 2014)。

4つ目は、出発点にあった前提です。細い線維だけが残れば痛む、という考えに反して、太い線維が選んで失われる病気が、必ずしも痛みを伴わないことが指摘されました。Wallは1978年に理論を再検討し、こうした批判の一部を受け入れています(Nathan 1976;Wall 1978;Mendell 2014)。Mendell(2014)は、モデルは細部では正しくなかったとまとめています。

脳から下る抑制と、脊髄の門の正体

一方で、モデルの大きな枠組みは、別の実験で裏づけられていきました。1969年にReynoldsは、ラットの中脳水道周囲灰白質、つまり中脳の中心を通る管の周りの灰白質に電極を入れて刺激し、8匹のうち3匹で、麻酔薬を使わずに開腹手術ができるほどの無痛の状態をつくりました(Reynolds 1969)。ラットの中脳や間脳のいくつかの場所を刺激すると、強い痛みへの反応が消え、ほかの感覚への反応は比較的保たれることも示されました(Mayerら 1971)。BasbaumとFields(1978)は、こうした知見をまとめ、痛みを抑える系が中脳、延髄、脊髄の3つの階層で組み立てられているというモデルを提案しました。中脳水道周囲灰白質が延髄の吻側の神経細胞を興奮させ、その神経細胞が脊髄後角の痛みを伝える細胞を抑えるという流れです。翌年には、延髄の大縫線核などから脊髄の背外側索を下る経路が、ネコとラットで解剖学的に描き出されました(BasbaumとFields 1979)。

痛みが痛みを抑えるしくみも見つかりました。Le Barsら(1979)は、ラットの後角で、触覚と痛みの両方の入力を受ける神経細胞68個の活動を記録し、体の離れた場所に痛みを起こす刺激を加えると、そのうち67個の活動が強く抑えられることを示しました。痛くない刺激では、この抑制は起きませんでした。細い線維の入力は門を開く、という1965年のモデルの単純な規則からは、予想されなかった現象です。

脊髄の門そのものも、2014年以降に姿を現しました。Duanら(2014)は、マウスの遺伝子操作で、脊髄の6種類の神経細胞の集団を1つずつ取り除きました。ソマトスタチンという物質を作る興奮性の神経細胞を取り除くと、機械的な刺激による痛みの反応が消えました。ダイノルフィンという物質を作る抑制性の神経細胞は、触覚を伝えるAβ線維が、このソマトスタチンを作る神経細胞を動かして痛みを起こすのを防ぐために必要でした。Fosterら(2015)は、グリシンを伝達物質とする後角の抑制性の神経細胞が、主に有髄の線維から入力を受けていることを示しました。この細胞を取り除いたり働かなくしたりすると、痛みに過敏な状態が生じ、働かせると神経の損傷による過敏が和らぎました(図2)。

現在の考え方を簡略化した図。脊髄の後角で、触覚を伝えるAβ線維は抑制性の介在ニューロンを興奮させ、抑制性の介在ニューロンは、痛みを伝える興奮性の介在ニューロンを抑える。侵害受容線維は興奮性の介在ニューロンと投射ニューロンを興奮させ、投射ニューロンは脳へ信号を送る。上からは、中脳水道周囲灰白質から延髄を経て後角に下る抑制がかかる。脳では広い領域が痛みの体験をつくる

図2 痛みの信号の調節についての現在の考え方を簡略化した図(Duanら 2014、Fosterら 2015、BasbaumとFields 1978、Brazら 2014をもとに作成)。後角の抑制性の介在ニューロンは、触覚の入力が痛みの回路に入るのを防ぐ門として働く。抑制性の介在ニューロンには、ダイノルフィンを作る細胞やグリシンを使う細胞など、重なりのある複数の集団があり、グリシンを使う細胞は熱や冷たさによる痛みの調節にもかかわる。脳の部分はMelzack 1999による。実際の回路には、さらに多くの種類の神経細胞がかかわる

Brazら(2014)は、後角に情報の流れを開け閉めする鍵があるという一般的な考えは妥当だとしたうえで、回路はおそらく複数あり、門も複数あるかもしれないと述べています。門は、1965年に描かれたような1種類の細胞によるシナプス前抑制だけで説明できるものではなく、性質の異なる複数の興奮性と抑制性の神経細胞の組み合わせでできていると考えられるようになりました。

触れると痛みが和らぐのは、どこで起きているのか

触れると痛みが和らぐ現象は、人の実験でも確かめられています。Manciniら(2014)は、レーザーで痛みを起こすのと同時に、同じ皮膚の分節に触れると、痛みが弱く感じられ、レーザーの強さを見分ける感度も下がることを示しました。触れる場所とレーザーを当てる場所が離れるほど、痛みを弱く判断する傾向は小さくなりました。

この抑制がどの階層で起きているかは、まだ議論があります。Inuiら(2006)は、脳磁図を使って、痛くない電気刺激が、痛みの刺激に対する大脳皮質の反応を弱めることを示し、その抑制は主に皮質のレベルで起きており、脊髄の関与は小さいと結論しました。一方、Manciniら(2015)は、皮質に信号が届く前に脳幹の回路で生じる瞬目反射が、触れることで抑えられることを示し、触れることによる鎮痛は、皮質より下での門の働きによる可能性が高く、脳の働きだけでは説明できないと結論しています。触れることによる鎮痛には、脊髄から脳まで、複数の階層がかかわっていると考えられます。

Melzack自身も、のちに考えを脳へ広げました。Melzack(1999)は、ゲートコントロール説の最も重要な貢献は中枢の神経のしくみを強調したことだったと振り返り、脳には体の自己を表す神経のネットワークがあり、感覚の入力だけでなく、認知や感情、ストレスにかかわる系の入力を統合して痛みを生む、というニューロマトリックスの考えをまとめています。

傷の周りをさすって少し楽になるという、人工膝関節置換術を受けて3日目の患者さんの話も、気のせいだけではありません。ただし、そのしくみを「膠様質の細胞が触覚の信号で門を閉じる」と1965年のモデルのまま説明するのは正確ではなく、後角の複数の抑制性の神経細胞のような大脳皮質より下での門の働きと、大脳皮質での処理という、いくつもの階層の働きとして考えることになります。「触った感覚の信号が、痛みのゲートを閉じる」という先輩の説明は、ゲートという言葉が示す方向としては正しく、配線の説明としては古いのです。

TENSと痛みの説明

いまの痛みの理解は、国際疼痛学会が2020年に改訂した痛みの定義によく表れています。日本疼痛学会の訳では、痛みは「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」とされます(日本疼痛学会 2020;Rajaら 2020)。定義に添えられた注には、痛みと侵害受容、つまり傷害を受けとって伝える神経の働きは、別の現象だと書かれています。信号が脊髄や脳で調節されるという考えは、この区別の土台の1つです。

TENSのしくみは、ゲートだけでは説明できません。高い周波数のTENSはゲートコントロール説で、低い周波数のTENSは体内のオピオイド、つまりモルヒネに似た物質の放出で説明されることが多くありました(Slukaら 1999)。しかし関節炎のラットの実験では、1秒間に100回の高い周波数でも4回の低い周波数でも、痛みへの過敏はほぼ完全に抑えられ、低い周波数の効果は脊髄のμオピオイド受容体を、高い周波数の効果は脊髄のδオピオイド受容体を薬で遮断すると消えました(Slukaら 1999)。延髄の吻側腹内側部でオピオイド受容体を遮断しても効果は消え(Kalraら 2001)、脊髄のGABAA受容体を遮断しても消えました(Maedaら 2007)。TENSは、脊髄の抑制と、脳幹から下る抑制の両方を動かしていると考えられています(Vanceら 2014)。「TENSも同じしくみ」という先輩の説明は、この点でも不十分です。

臨床での効果については、381件のランダム化比較試験、2万4532人を集めた系統的レビューとメタ分析があります(Johnsonら 2022)。対象は、痛む場所かその近くに、強いが痛くない強さでTENSを使った試験です。使っている間か直後の痛みの強さは、偽のTENSと比べて標準化平均差で−0.96でした(図3)。標準化平均差は、2つの群の平均の差を、ばらつきの大きさである標準偏差で割った値で、−0.96は、平均がおよそ1標準偏差分低かったことを表します。根拠の確かさは中程度と判定されました。高い周波数と低い周波数を比べた13件、468人の分析では、統計的に有意な差はありませんでした。著者らは、TENSを、診断にかかわらず、すぐに得られる短期間の痛みの軽減のための、中心となる治療を補うものとして考えるよう勧めています。

TENSの効果を示した横向きの図。使っている間か直後の痛みの強さの標準化平均差と95%信頼区間。偽のTENSと比べると−0.96で、信頼区間は−1.14から−0.78、91件4841人、確かさは中程度。何もしない場合と比べると−0.82、信頼区間は−1.18から−0.46、10件602人、確かさは低い。標準的な治療と比べると−0.72、信頼区間は−0.95から−0.50、61件3155人、確かさは低い

図3 TENSを使っている間か直後の痛みの強さ(Johnsonら 2022のメタ分析をもとに作成)。点は標準化平均差、横線は95%信頼区間で、0より左ほどTENSの群で痛みが弱かったことを表す。標準的な治療との比較には、TENSと標準的な治療を直接比べた試験と、標準的な治療にTENSを加えた群と標準的な治療だけの群を比べた試験の両方が含まれる。長い期間の効果は、この図には含まれていない

一方で、長い期間の効果ははっきりしていません。Johnsonら(2022)では、使っている間か直後の効果は急性の痛みと慢性の痛みで変わりませんでしたが、治療を終えたあとの長い期間のデータはわずかでした。慢性の痛みを扱ったコクランの8件のレビュー、51件の試験、2895人をまとめた概観では、根拠の質はどれも非常に低く、TENSが慢性の痛みに有益とも有害とも確信をもって結論できませんでした(Gibsonら 2019)。TENSは、運動、心理的な支援、痛みの教育といった中心となる治療に加えて、痛みを短い時間和らげるための補助と位置づけるのが、現在の根拠に合った使い方です(Johnsonら 2022)。体を動かす場面で使うと役立つ可能性がありますが、活動量や機能が良くなるかは、まだ十分に確かめられていません(Vanceら 2014)。さすると楽になると話した人工膝関節置換術後の患者さんなら、TENSは痛む場所の近くに強いが痛くない強さで当て、痛みが和らいでいる時間に膝を動かす練習や歩く練習を進める、という使い方が考えられます。電極は傷の上を避け、禁忌を確かめてから使います。

ゲートという比喩は、患者さんに痛みとは何かを説明するときにも使われています(KatzとRosenbloom 2015)。痛みの神経科学を伝える教育は、痛みを組織の損傷のしるしとしてではなく、体を守る必要があると脳が判断したしるしとしてとらえ直すことを目指すもので、痛みへの破局的な考え方を減らし、短期間ですが痛みと障害を減らすことが報告されています(MoseleyとButler 2015)。

まとめ

ゲートコントロール説は、1965年にMelzackとWallが、脊髄の後角で太い線維と細い線維の入力のつり合いによって痛みの信号が調節され、脳からの制御も加わると提唱した説です。細い線維がシナプスの手前で門を開くしくみや、膠様質の細胞がそろって抑制性だという配線は、その後の実験で支持されませんでした。一方で、脊髄の後角が信号を調節する場所だという考えは、脳から下る抑制の発見と、2014年以降の抑制性の神経細胞の特定によって裏づけられました。臨床では、触れると痛みが和らぐ現象を複数の階層の働きとして理解し、TENSは短期間の痛みの軽減のための補助として使います。

1965年の門は、後根に生じる電位が陰性か陽性かという手がかりから、脊髄の中の見えない仕掛けを推し量って描いたものでした。その図のどこが誤りで、どこが残るのかを確かめたのは、その後の実験です。ネコの皮膚から1本ずつ記録した線維は侵害受容器の実在を示し、中脳を電気で刺激されたラットは、脳の側から痛みを抑えられることを示しました。マウスの遺伝子操作で神経細胞の集団を1種類ずつ取り除けるようになって、ダイノルフィンを作る細胞やグリシンを使う細胞が、触覚の入力が痛みの回路に入るのを防ぐ門として姿を現しました。ただ、傷の周りをさする手の下で、人の場合にどの階層の働きが大きいのかは、まだ議論が続いています。

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