運動に関わる下行性神経伝導路


Charcot(@StudyCH)です。

脳で動作を行おうと考えた時、その情報は脊髄運動神経細胞から筋まで到達します。運動神経細胞についての詳細は、「運動神経細胞とα-γ連関」をご覧ください。

この記事では、脳と脊髄運動神経細胞とをつなぐ下行性神経伝導路について説明します。

神経伝導路ってなに?

中枢神経系(脳や脊髄)と末梢神経系(運動神経,感覚神経,脳神経など)はいくつかの神経細胞を介して結ばれていて、互いに情報交換を行なっています。神経細胞から神経細胞への情報の通路を神経伝導路といいます。

主に筋に向かう下行性の経路(運動神経系)と、身体各所の感覚受容器から脳へ向かう上行性の経路(感覚神経系)があります。

主に5つの下行性経路がある

脳から脊髄へ至る主な下行性経路は、皮質脊髄路、赤核脊髄路、視蓋脊髄路、前庭脊髄路、網様体脊髄路の5つあります。以下にそれぞれについて説明していきます。

皮質脊髄路

皮質脊髄路は前頭葉運動野の神経細胞の軸索が、放線冠、内包後脚、大脳脚、橋を通り、延髄の錐体を通る伝導路です。錐体を通るので錐体路とも呼ばれています。延髄までは一つの束になっていますが、それ以降で外側皮質脊髄路と前皮質脊髄路に分かれます。

1. 外側皮質脊髄路:四肢の遠位筋に関与

(1) 中心前回から放線冠、内包を通り、延髄錐体で交叉します
(2) 脊髄の側索を下行し、運動ニューロンに連絡します

2. 前皮質脊髄路:体幹の運動に関与

(1) 延髄錐体で交叉しません
(2) 脊髄の前索を下行し、運動ニューロンに連絡します


赤核脊髄路

中脳の赤核からすぐに交叉して、脳幹腹外側部、脊髄側索を下行する伝導路です。赤核とは上丘の高さにある左右1対の大きな神経核で、大脳の運動野とか小脳核からの線維を受けています。

赤核脊髄路は、四肢の遠位筋に関与します。また、随意運動を行う錐体路の働きを助けて、関節の屈曲を起こす屈筋に促進的に作用しています。

この経路は、ヒトでは退化していると言われていましたが、近年MRIでの拡散テンソルトラクトグラフィーを使用した研究で、赤核脊髄路が十分に分離できる大きさであることが認められたなど、新しい知見が増えています。

視蓋脊髄路

中脳の上丘からすぐに交叉して、脳幹内側部、脊髄前索を下行する伝導路です。視蓋脊髄路は目や首の運動に関与します。眼球運動神経核や顔面神経核とも連絡があるため、頭部の運動と眼球運動を協調的に行うために重要な経路だと考えられています。

前庭脊髄路

橋から延髄に広がる前庭核から同側の脊髄前側索を下行する伝導路です。前庭脊髄路は内側前庭脊髄路と外側前庭脊髄路の2つに分かれます。

1. 内側前庭脊髄路:頸部や上肢の平衡に関与します

(1) 延髄の前庭神経核から同側を下行します
(2) 頸髄、胸髄に分布します

2. 外側前庭脊髄路:体幹や下肢の平衡に関与します 

(1) 延髄の前庭神経核から同側を下行します
(2) 脊髄全長に分布します

網様体脊髄路

脳幹に広がる網様体から同側あるいは両側の脊髄前側索を下行する経路です。橋網様体からはじまるものと、延髄網様体からはじまるものの2つに分けられます。

1. 橋網様体脊髄路:姿勢の制御に関与します

(1) 橋の網様体から同側性に下行します

2. 延髄網様体脊髄路:姿勢の制御に関与します

(1) 延髄の網様体から両側性に下行します

各経路は合理的な道順で脊髄へ投射している

5つの経路が脊髄のどの領域を通るのかを表した図を下に示しました。下行性伝導路の色(右側)と脊髄白質上の色(左側)を見比べると、遠位筋に関与する経路(外側皮質脊髄路,赤核脊髄路)は脊髄白質の外側に、近位筋、姿勢や平衡(体幹)に関与する経路(前皮質脊髄路、網様体脊髄路、前庭脊髄路)は脊髄白質の内側を通っています。



脊髄前角はその領域によってどの筋に神経線維を出しているか決まっています。内側が近位筋に、外側が遠位筋に関与しています。また、背側が屈筋に、腹側が伸筋に関与しています。

つまり、それぞれの下行性伝導路は、近位筋に関与する脊髄前角に向かいたければ脊髄白質の外側を、遠位筋に関与する脊髄前角に向かいたければ脊髄白質の内側を通ることが合理的だということです。

まとめ

運動に関与する下行性神経伝導路は主に5つに分けられ、それぞれが異なった経路を通り、各々の役割を担っています。また、それぞれの下行性伝導路は、身体を動かすために合理的な経路を通って脊髄運動神経へと向かいます。

われわれは患者さんの姿勢や動作にアプローチします。それらを制御しているのは筋ですから、脳からの情報がどのような経路で脊髄運動神経へとつながり、どのように筋を動かしているのか学ぶことが動作を理解する上で大切であると考えています。

それでは皆さまの学習がよりいっそう充実することを願って。

Charcot(@StudyCH)でした。All the best。

参考図書

生理学 (カラーイラストで学ぶ 集中講義)
標準生理学 第9版
カンデル神経科学

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