下肢の関節可動域測定(評価):参考可動域角度は「正常値」なのか

下肢の関節可動域測定(評価):参考可動域角度は「正常値」なのか

関節可動域の測定法に付いている「(付)関節可動域参考値一覧表」には、5つの出典の値が並んでいます。股関節の伸展を見ると、1920年にメイヨー・クリニックのClarkがまとめた値は20°、1958年から1965年に米国の3つの委員会がまとめた値はいずれも30°、1979年に渡辺英夫らが報告した10歳以上80歳未満の日本人の平均値は15°です。同じ動きの値が、出典によって15°から30°まで違うのです。

70代の患者さんの股関節の伸展を測って5°だったら、表に書かれた参考可動域角度の15°と比べて、この患者さんには10°の制限がある、と記録してよいのでしょうか。

日本の関節可動域の測り方は、「関節可動域表示ならびに測定法」にもとづいています。1995年に日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が改訂したあと、2022年4月に、日本足の外科学会も加わって約30年ぶりに改訂されました。この改訂で、足の「内がえし」と「回外」の意味は入れ替わっています。そして測定法そのものが、表に並ぶ角度について「正常値は定めず」と書いています。

下肢の関節可動域測定の要点

  • 測定の原則:基本肢位を0°とし、原則として他動運動で、通常は5°刻みで測る。自動運動で測った値は( )で囲むか「自動」と書き、痛みが値に影響したときは「痛み」と書く
  • 股関節:屈曲0〜125°、伸展0〜15°、外転0〜45°、内転0〜20°、外旋0〜45°、内旋0〜45°
  • 膝関節:屈曲0〜130°、伸展0°
  • 足関節・足部:外転0〜10°、内転0〜20°、背屈0〜20°、底屈0〜45°、内がえし0〜30°、外がえし0〜20°。2022年の改訂で「屈曲・伸展」の呼び方をやめ、内がえし・外がえしは前額面の動き、回外・回内は複合運動になった。数値は変わっていない
  • 趾:第1趾はMTP屈曲0〜35°・伸展0〜60°、IP屈曲0〜60°。第2〜5趾はMTP屈曲0〜35°・伸展0〜40°、PIP屈曲0〜35°、DIP屈曲0〜50°
  • 参考可動域角度:年齢や性別などによる違いが大きいため、正常値ではなく参考の値として示されている

測定のルール:0°をどこに置き、どう測るか

2022年改訂版の総論は、測定の基本を次のように定めています。測定値は、基本肢位、つまり測定の出発点として決められた姿勢を0°として表します。関節は、本人が自分の力で動かす自動運動でも、検査者が動かす他動運動でも測れますが、原則として他動運動で測った値を記録し、自動運動で測った値は( )で囲むか「自動」「active」と書き添えます。角度計は、基本軸と移動軸の交点を中心に合わせ、通常は5°刻みで読みます。痛みなどが値に影響したときは、「痛み」「pain」と書き添えます。

基本軸は動かない側の目印になる線、移動軸は動く側の線です。同じ人を同じ方法で測れば、別の人が測っても、別の日に測っても比べられる。こうしたルールは、そのためにあります。

股関節

運動方向参考可動域角度基本軸移動軸
屈曲0〜125°体幹と平行な線大腿骨(大転子と大腿骨外顆の中心を結ぶ線)
伸展0〜15°
外転0〜45°両側の上前腸骨棘を結ぶ線への垂直線大腿中央線(上前腸骨棘より膝蓋骨中心を結ぶ線)
内転0〜20°
外旋0〜45°膝蓋骨より下ろした垂直線下腿中央線(膝蓋骨中心より足関節内外果中央を結ぶ線)
内旋0〜45°

表1 股関節の測定(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

測定肢位と注意点は、次のように定められています。

  • 屈曲・伸展:骨盤と脊柱を十分に固定する。屈曲は背臥位、膝屈曲位で行い、伸展は腹臥位、膝伸展位で行う
  • 外転・内転:背臥位で骨盤を固定し、下肢が外旋しないようにする。内転は、反対側の下肢を屈曲挙上して、その下を通して内転させる
  • 外旋・内旋:背臥位で、股関節と膝関節を90°屈曲位にして行い、骨盤の代償を少なくする
股関節の測定の模式図。背臥位での屈曲と腹臥位での伸展、背臥位での外転と内転、股関節と膝関節を90°に曲げた肢位での内旋と外旋

図1 股関節の屈曲・伸展、外転・内転、外旋・内旋(模式図)。AとBは横から、Cは上から、Dは右脚を足の側から見た図。屈曲は背臥位・膝屈曲位、伸展は腹臥位・膝伸展位で、骨盤と脊柱を十分に固定して測る。外転・内転は背臥位で骨盤を固定し、内転は反対側の下肢を屈曲挙上して、その下を通して測る。外旋・内旋は背臥位で股関節と膝関節を90°屈曲位にして測り、外旋では足が内側へ、内旋では外側へ動く

股関節の屈曲を膝を曲げて測るのは、膝を伸ばしたままだと大腿の裏の筋であるハムストリングスが引き伸ばされ、股関節の動きより先にその筋の長さで止まってしまうからです(「ハムストリングスの機能と役割:なぜ全力疾走で肉離れが起きるのか」)。伸展を膝を伸ばして測るのも、膝を曲げると大腿の前の大腿直筋が引き伸ばされるためです。骨盤を固定するのは、骨盤が傾くと、股関節が動いていなくても大腿が動いたように見えるからです。

膝関節

運動方向参考可動域角度基本軸移動軸
屈曲0〜130°大腿骨腓骨(腓骨頭と外果を結ぶ線)
伸展0°

表2 膝関節の測定(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

膝関節の屈曲と伸展の測定の模式図。大腿骨を基本軸、腓骨を移動軸とし、伸展位を0°とする

図2 膝関節の屈曲・伸展(模式図)。横から見た図。基本軸は大腿骨、移動軸は腓骨頭と外果を結ぶ腓骨の線で、伸展位を0°とする。股関節を屈曲位にして測る

測定法は、膝の屈曲を、股関節を曲げた肢位で測るよう定めています。股関節を伸ばしていると大腿直筋が張って、膝の曲がりが先に止まるためです。2関節にまたがる筋の影響を除き、関節そのものの動きを測るための決まりです。

足関節・足部:2022年の改訂で名前と軸が変わった

運動方向参考可動域角度基本軸移動軸
外転0〜10°第2中足骨長軸第2中足骨長軸
内転0〜20°
背屈0〜20°矢状面における腓骨長軸への垂直線足底面
底屈0〜45°
内がえし0〜30°前額面における下腿軸への垂直線足底面
外がえし0〜20°

表3 足関節・足部の測定(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

測定肢位は、外転・内転と内がえし・外がえしでは膝関節を屈曲位、足関節を0度にし、背屈・底屈では膝関節を屈曲位にして行います。背屈を膝を曲げて測るのは、膝と足首の両方をまたぐ腓腹筋をゆるめ、筋の長さで止まる前の足関節の動きを測るためです。

足関節・足部は、2022年の改訂で最も大きく変わった部分です。1995年版の表では、足首を上げる・下げる動きを「伸展(背屈)」「屈曲(底屈)」と書いていましたが、改訂版では「背屈」「底屈」だけを使い、屈曲・伸展とは呼びません。背屈・底屈の移動軸は第5中足骨から足底面に、外転・内転の基本軸は第1・第2中足骨の間の中央線から第2中足骨長軸に変わりました。一方、参考可動域角度の数値は1995年版と同じです。

大きく変わったのは、内がえし・外がえしと、回外・回内の定義です。1995年版では、内がえし・外がえしは3つの面の動きが組み合わさった複合運動、回外・回内は前額面、つまり体を前と後ろに分ける面の中での動きと定義されていました。2022年改訂版では逆に、内がえし・外がえしが前額面の動き、回外は底屈・内転・内がえしの組み合わせ、回内は背屈・外転・外がえしの組み合わせになりました(図3)。測るときは、膝を曲げ、足関節を0度にして、前額面の動きだけを取り出します。

1995年版と2022年改訂版での足関節・足部の運動の定義を比べた表と、世界の論文での呼び方を示した棒グラフ。前額面の動きは1995年版の回外・回内から2022年版の内がえし・外がえしに、3つの面の複合運動は内がえし・外がえしから回外・回内に入れ替わった。論文では前額面の動きをinversion・eversionと呼んだものが99編、supination・pronationが4編、矢状面の動きをdorsiflexion・plantarflexionと呼んだものが109編、extension・flexionが20編だった

図3 足関節・足部の運動の定義の変化と、論文での呼び方。参考可動域角度の数値は変わっていない。2022年改訂版の内がえし・外がえしは、膝関節を屈曲位、足関節を0°にして測る。下の棒は、Doyaら(2010)が、米国足の外科学会や国際バイオメカニクス学会などの定義に関する論文をPubMedで集め、呼び方を数えた値

なぜ入れ替えたのでしょうか。改訂のもとになったのは、日本足の外科学会の用語委員会の提案です。委員会は2010年、米国足の外科学会や国際バイオメカニクス学会などの定義にかかわる論文をPubMedで集め、足の動きがどう呼ばれているかを数えました。前額面の動きをinversion・eversion(内がえし・外がえし)と呼んだ論文は99編で、supination・pronation(回外・回内)と呼んだ論文は4編でした。矢状面の動きも、dorsiflexion・plantarflexion(背屈・底屈)が109編、extension・flexion(伸展・屈曲)が20編でした。国内の定義が、世界の多くの論文と逆になっていたのです。

この改訂によって、同じ「内がえし」という言葉でも、2022年3月以前の記録と以後の記録では意味が違う可能性があります。ただし、1995年版の表でも、内がえし・外がえしは下腿軸への垂直線と足底面のなす角度、つまり前額面の角度として測られていました。過去の記録を読むときや、古い教科書で学ぶときは、どちらの定義にもとづいているかを確かめる必要があります。

第1趾(母趾)と第2〜5趾

運動方向参考可動域角度基本軸移動軸
屈曲
(MTP)
0〜35°第1中足骨第1基節骨
伸展
(MTP)
0〜60°
屈曲
(IP)
0〜60°第1基節骨第1末節骨
伸展
(IP)
0°

表4 第1趾(母趾)の測定(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

母趾のMTP関節とIP関節の屈曲・伸展の測定の模式図

図4 第1趾(母趾)のMTP・IPの屈曲・伸展(模式図)。足を内側から見た図。基本軸と移動軸は、MTPでは第1中足骨と第1基節骨、IPでは第1基節骨と第1末節骨

運動方向参考可動域角度基本軸移動軸
屈曲
(MTP)
0〜35°第2〜5中足骨第2〜5基節骨
伸展
(MTP)
0〜40°
屈曲
(PIP)
0〜35°第2〜5基節骨第2〜5中節骨
伸展
(PIP)
0°
屈曲
(DIP)
0〜50°第2〜5中節骨第2〜5末節骨
伸展
(DIP)
0°

表5 第2〜5趾の測定(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

第2〜5趾のMTP関節、PIP関節、DIP関節の屈曲・伸展の測定の模式図

図5 第2〜5趾のMTP・PIP・DIPの屈曲・伸展(模式図)。横から見た図。趾では足底へ向かう動きを屈曲、足背へ向かう動きを伸展と呼び、原則として趾の背側に角度計をあてて測る

趾では、足底へ向かう動きを屈曲、足背へ向かう動きを伸展と呼び、原則として趾の背側に角度計をあてて測ります。足関節とは違い、趾には屈曲・伸展の呼び方が残っています。2022年の改訂では、趾の前額面の動きとして、趾の腹が内側を向く動きを回外、外側を向く動きを回内とする定義も示されました。

参考可動域角度は「正常値」ではない

股関節の伸展が5°の人に10°の制限があると書く前に、参考可動域角度がどういう値なのかを確かめておきます。2022年改訂版の総論は、関節の動く範囲は年齢や性別などによって大きく違うので、正常値は定めず参考可動域として記載した、と述べています。表の角度は、それを下回ったら異常という線ではありません。

測定法には「(付)関節可動域参考値一覧表」という付録も付いています。可動域は人種、性別、年齢などによる個人差が大きく、検査の肢位によっても変わるため、5つの出典の値を並べたものです。この一覧表では、股関節の伸展が15°から30°まで、膝関節の屈曲が120°から154°まで、出典によって違います。同じ5°の伸展が、どの値と比べるかで、10°の制限にも25°の制限にもなるのです。

集団で実際に測った値も、教科書の値からずれます。米国の全国健康栄養調査(NHANES I)で、1,683人の股関節と膝関節の自動運動の可動域を年齢別に調べた研究では、測定値は教科書の値と最大18°違っていました。年齢が高い群ほどほとんどの動きで値は小さかったものの、最も若い群と最も高い群の差は多くが3〜5°にとどまりました。可動域の20%を超えて小さくなっていたのは、股関節の伸展だけでした。著者らは、少なくとも74歳までは、股関節の伸展を除いて、大きな可動域の低下を年齢のせいにせず、異常として扱うべきだと述べています。

2〜69歳の健康な674人を理学療法士9人が測った別の研究でも、ほぼすべての関節で女性のほうが動く範囲が大きく、年齢が上がると小さくなり、多くの値はよく使われる基準値とはっきり違っていました。5°だった70代の患者さんの股関節の伸展は、年齢による差が最も大きい動きです。参考可動域角度との差だけで制限と決めるのではなく、反対側の値や、以前の値、痛みの有無とあわせて判断する必要があります。

測定そのものの誤差も考えに入れます。膝関節の他動運動の可動域を43人で測った研究では、同じ検者がくり返し測ったときの級内相関係数(ICC)、つまり測り直した値がどれだけ一致するかを0から1で表す指標は屈曲0.99、伸展0.98でしたが、別の検者どうしでは屈曲0.90、伸展0.86に下がりました。角度計を使わない目測では、検者どうしの一致はさらに低くなりました。経過を追うときは、できるだけ同じ検者が、角度計を使って同じ方法で測るのが基本です。

まとめ

下肢の関節可動域は、「関節可動域表示ならびに測定法」にしたがい、基本肢位を0°として、原則として他動運動で、決められた基本軸と移動軸で測ります。股関節や膝関節の測定肢位には、2関節にまたがる筋の影響を除く意味があります。2022年4月の改訂では、足関節・足部の呼び方と軸が見直され、内がえし・外がえしと回外・回内の定義が、世界の論文に合わせて入れ替わりました。参考可動域角度の数値は変わっていませんが、測定法自体が正常値ではないとしています。年齢や性別による違いと測定の誤差を踏まえ、反対側や以前の値とあわせて読むことが大切です。

日本足の外科学会の用語委員会は2010年、PubMedで集めた論文で足の動きがどう呼ばれているかを数えました。前額面の動きをinversion・eversionと呼んだ論文が99編、supination・pronationと呼んだ論文が4編という数が、国内の内がえしと回外の定義が世界の多くの論文と逆になっていたことを示し、2022年の改訂で2つの定義は入れ替えられました。参考可動域角度のような基準の値については、人を実際に測った研究が、教科書の値とのずれを示してきました。NHANES Iの1,683人では教科書の値との違いが最大18°あり、2〜69歳の674人を測った研究でも、多くの値がよく使われる基準値とはっきり違っていました。

2022年改訂版の表の全体(上肢・体幹を含む)は、日本リハビリテーション医学会のウェブサイトで公開されています。

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参考文献

  1. 日本リハビリテーション医学会,日本整形外科学会,日本足の外科学会. (付)関節可動域参考値一覧表. 関節可動域表示ならびに測定法(2022年4月改訂). https://www.jarm.or.jp/member/kadou04.html(2026年10月17日閲覧)
  2. 日本リハビリテーション医学会,日本整形外科学会,日本足の外科学会. 関節可動域表示ならびに測定法(2022年4月改訂). https://www.jarm.or.jp/member/kadou.html(2026年10月17日閲覧)
  3. 日本リハビリテーション医学会,日本整形外科学会,日本足の外科学会. 関節可動域表示ならびに測定法改訂について(2022年4月改訂). 2021. https://www.jarm.or.jp/member/document/kadou/01.pdf(2026年10月17日閲覧)
  4. Doya H, Haraguchi N, Niki H, Takao M, Yamamoto H. Proposed novel unified nomenclature for range of joint motion: method for measuring and recording for the ankles, feet, and toes. J Orthop Sci. 2010;15(4):531-539. doi:10.1007/s00776-010-1492-y
  5. Roach KE, Miles TP. Normal hip and knee active range of motion: the relationship to age. Phys Ther. 1991;71(9):656-665. doi:10.1093/ptj/71.9.656
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