6か月後に手の器用さがある程度戻る確率は、発症2日目に指を少しでも自分で伸ばせ、麻痺した側の肩を少しでも横に上げられた人では0.98、こうした動きが見られなかった人では0.25でした。発症から72時間以内の脳卒中患者188人を追った、オランダのEPOS研究の結果です。
脳卒中のあと、杖を使って歩けるまでに回復した人が、シャツのボタンをとめられずにいるとしましょう。コップを握ることはできても、指を1本ずつ伸ばしたり、小さな物をつまんだりするのが難しい。歩く力と指先の力は、なぜこれほど違う戻り方をするのでしょうか。
手がかりは、半世紀あまり前にサルで行われた実験にあります。脳から脊髄へ降りる最大の運動の道を断たれたサルは、やがてケージを登れるまでに回復したのに、指を1本ずつ動かすことは最後までできませんでした。運動の命令は1本の道ではなく、役割の違う何本もの道に分かれて脊髄へ降りているのです。
運動の下行性伝導路の要点
- 何か:大脳や脳幹から、脊髄の運動ニューロンへ運動の命令を運ぶ神経の通り道。顔や舌の筋を動かす脳幹の運動核へ向かう皮質延髄路も、同じ仲間として扱う
- 主な5つ:皮質脊髄路(錐体路)、赤核脊髄路、前庭脊髄路、網様体脊髄路、視蓋脊髄路。皮質脊髄路だけが大脳皮質から始まり、残りの4つは脳幹から始まる
- 外側系と内側系:脊髄の側索を下る外側皮質脊髄路と赤核脊髄路は手足の先の筋を、前索を中心に下る前庭脊髄路、網様体脊髄路、視蓋脊髄路、前皮質脊髄路は体幹と手足の付け根の筋を受け持つ
- そう分かれる理由:脊髄の前角では、体幹の筋を動かす運動ニューロンが内側に、手足の先の筋を動かす運動ニューロンが外側に並ぶ。外側を下る道は外側の運動ニューロンに、内側を下る道は内側の運動ニューロンにつながる
- 脳卒中とのつながり:指を1本ずつ動かす動きは、皮質脊髄路にほぼ頼っている。皮質脊髄路が傷つくと網様体脊髄路が代わりを務めると考えられているが、この道は多くの筋をまとめて動かすため、指を1本ずつ動かす動きまでは担えない
錐体路を断たれたサルは、ケージを登った
1960年代、米国クリーブランドのウェスタン・リザーブ大学で、オランダのロッテルダム生まれの解剖学者カイパースは、同僚のローレンスとともにサルの実験に取り組みました。脳から脊髄へ降りる道の解剖を調べてきたカイパースは、その知見が働きの上で何を意味するのかを確かめたかったのです。二人はマカクザルで運動の道を一つずつ断ち、どの動きが失われ、どの動きが残るかを観察しました。結果は1968年、神経学の雑誌『Brain』に2本の論文として続けて発表されました。
最初に断ったのは、延髄の錐体を通る錐体路(皮質脊髄路)です。大脳から脊髄へ降りる最大の運動の道で、ここを左右とも断てば、サルはほとんど動けなくなると考えても不思議ではありません。実際、手術の直後のサルは、手足の力が抜けた弛緩性の麻痺を示しました。ところが数日から数週のうちに、サルはケージの中をほぼ普通に登ったり走り回ったりできるまでに回復しました。枝や餌をつかむこともできました。それでも、小さなくぼみに入った餌を人差し指でかき出すことはできず、指を1本ずつ別々に動かす動きは、生涯戻りませんでした。
二人はさらに、錐体路を断たれて回復したサルで、脳幹から脊髄へ降りる道を断ちました。脳幹の外側を通る道(主に赤核脊髄路)を断つと、手を伸ばして餌をつかむ動作が失われ、二度と戻りませんでした。それでも、歩くなどの大きな動きはあまり損なわれませんでした。反対に、脳幹の内側を通る道(主に網様体脊髄路と前庭脊髄路)を断つと、体を大きく使う動きがひどく損なわれました。ところが、餌を手の近くに置いてやれば、それをつかむことはできたのです(図1)。

図1 ローレンスとカイパースの実験(1968年):切った道と残った動き。ベイカー(2011年)とレモンら(2012年)の記述をもとに作成
この結果は、脳幹から降りる道が2つの群に分かれて働くことを示しました。内側を通る群は頭や体幹、肩や腰の動きを受け持ち、外側を通る群は手を伸ばしてつかむといった手足の先の動きを受け持ちます。その上に、指を独立に動かす器用さを加えているのが皮質脊髄路です。サルの様子は当時フィルムに撮影されていました。長く見られなくなっていたその映像の多くは、2012年に『Brain』のウェブサイトで再び公開されています。
下行性伝導路とは:最終共通路へ命令を届ける道
筋を縮めることができるのは、脊髄の前角(顔や舌の筋では脳幹の運動核)にある運動ニューロンだけです。どんな運動の命令も、最後はこの運動ニューロンを通って筋に届きます。英国の生理学者シェリントンは、この運動ニューロンを「最終共通路」と呼びました。運動ニューロンそのもののしくみは「運動神経細胞とα-γ連関」で説明しています。
下行性伝導路は、大脳や脳幹から、この運動ニューロンへ命令を運ぶ神経の通り道です。道をつくる神経細胞を上位運動ニューロン、筋へ軸索を送る運動ニューロンを下位運動ニューロンと呼び分けることもあります。体の感覚を脳へ運ぶ「上行性伝導路」とは、情報の向きが逆になります。
道の多くは、運動ニューロンに直接つながるのではなく、灰白質の中間帯にある介在ニューロンに終わります。サルの一次運動野の手と腕の領域から出た皮質脊髄路を標識した研究では、反対側の脊髄で見つかった終末のうち、59%が中間帯の層(第VII層)にあり、運動ニューロンが集まる層(第IX層)にあったのは18%でした。介在ニューロンでは、複数の道からの命令や感覚の信号が合わさります。
教科書では、錐体路と錐体外路という分け方もよく使われます。錐体路は、本来は延髄の錐体を通る皮質脊髄路を指し、脳神経の運動核へ向かう皮質延髄路を含めて呼ぶこともあります。錐体外路は、それ以外の運動の道を指す言葉として使われてきましたが、大脳基底核の働きまで含めて使われることが多く、指す範囲が一定しません。パーキンソン病などで見られる「錐体外路症状」は、大脳基底核の障害による症状を指します(「パーキンソン病の主な症状」)。以下では、脳幹から脊髄へ降りる4つの道を、そのまま「脳幹からの道」と呼びます。
外側を下る道は手足の先へ、内側を下る道は体幹へ
なぜ、道によって受け持つ筋が違うのでしょうか。答えは脊髄の断面にあります(図2)。
脊髄の前角には、運動ニューロンが筋ごとにまとまって並んでいます。体幹や首の筋を動かす運動ニューロンは前角の内側にあり、手足の筋を動かす運動ニューロンは外側にあります。手足の中でも、先のほうの筋を動かすものほど外側に寄ります。また、屈筋を動かす運動ニューロンは背中側に、伸筋を動かす運動ニューロンはおなか側に並ぶ傾向があります。

図2 頸髄の断面で見る外側系と内側系。道は右半分にだけ示した。道の位置と、つながる運動ニューロンの位置が対応する(位置は模式的で、網様体脊髄路ははっきりした束をつくらず、前索と側索に散らばって下る)
下行性伝導路は、白質のどこを下るかで、つながる相手がおおよそ決まります。側索を下る外側皮質脊髄路と赤核脊髄路は、中間帯の外側の介在ニューロンと前角の外側の運動ニューロンにつながり、手足の先の筋を受け持ちます。これを外側系と呼びます。前索を中心に下る前庭脊髄路、網様体脊髄路、視蓋脊髄路、前皮質脊髄路は、中間帯の内側の介在ニューロンと前角の内側の運動ニューロンにつながり、体幹と手足の付け根の筋を受け持ちます。こちらが内側系です。ただし、終わる範囲には重なりもあり、きれいに二分されるわけではありません。
この分担は、それぞれの仕事に合っています。体をまっすぐに保つには、首から腰まで、左右の多くの筋を同時に働かせる必要があります。内側系の線維は左右両側の多くの髄節に枝を広げていて、この仕事に向いています。網様体脊髄路では、1本の線維が頸髄と腰髄の両方に枝を出していることもあります。反対に、指を1本ずつ動かすには、ごく限られた筋だけを選んで働かせなければなりません。皮質脊髄路の1本の線維が枝を出す運動ニューロンの集まりは少数で、その組み合わせを変えることで、指を別々に動かせるのです(図3)。

図3 皮質脊髄路と網様体脊髄路の枝の広がり。枝の広がりの違いが、指を1本ずつ動かせるかどうかを分ける
5つの道を順にたどる
運動の主な下行性伝導路を表1にまとめました。ここからは一つずつ、その道ならではの話とともに見ていきます。
| 伝導路 | 通り道と働き |
|---|---|
| 外側皮質脊髄路 | 大脳皮質から。延髄の錐体交叉で反対側へ渡り(線維のおよそ85%)、側索を下る 働き:手足、とくに手指の細かい動き |
| 前皮質脊髄路 | 大脳皮質から。錐体では交叉せずに前索を下り、多くは終わる髄節の高さで反対側へ渡る 働き:体幹と手足の付け根の筋 |
| 赤核脊髄路 | 中脳の赤核から。すぐに反対側へ渡り、側索を下る 働き:手足の先の筋、とくに屈筋を促す。ヒトではごく小さい |
| 外側前庭脊髄路 | 外側前庭神経核から。交叉せず、前索を脊髄の全長にわたって下る 働き:重力に逆らって体を支える伸筋を促す |
| 内側前庭脊髄路 | 内側前庭神経核から。左右両側の前索を、頸髄から上部胸髄まで下る 働き:頭の傾きに応じて首の筋を働かせる |
| 網様体脊髄路 | 橋と延髄の網様体から。左右両側(同じ側が多い)の前索と側索に散らばって下る 働き:姿勢の保持、歩行、腕を伸ばす動き |
| 視蓋脊髄路 | 中脳の上丘から。すぐに反対側へ渡り、前索を頸髄まで下る 働き:物音や動くものの方へ頭を向ける |
表1 運動の主な下行性伝導路
皮質脊髄路:器用な霊長類だけがもつ近道
皮質脊髄路は、大脳皮質から放線冠、内包の後脚、中脳の大脳脚、橋を通り、延髄の錐体に集まります。出発点は、中心前回の一次運動野だけではありません。運動前野や補足運動野、帯状回の運動野、さらに中心後回の体性感覚野や頭頂葉からも線維が出ています。
延髄の下端で、線維のおよそ85%は錐体交叉で反対側へ渡り、側索を外側皮質脊髄路として下ります。交叉しなかった線維は前索を前皮質脊髄路として下り、多くは終わる髄節の高さで反対側へ渡ります。交叉の仕方には個人差があり、ヒトの脊髄を調べた研究では、4人に3人で脊髄の左右の太さが違っていました。反対側へ渡る線維の数が、左右で違うためです。
皮質脊髄路の一部は、介在ニューロンを介さず、運動ニューロンに直接つながっています。この直接の結合は手先の器用な霊長類にしか見られず、ヒトで最もよく発達しています。大人のラットやマウスにはありません。ところが2017年、マウスでも生まれた直後にはこの結合が一時的にあり、成長の途中で取り除かれていることが報告されました。取り除くしくみを遺伝子操作で働かなくしたマウスは、大人になっても直接の結合が残り、前足で餌をつかむ課題の成績が普通のマウスより高くなりました。
教科書の図では、外側皮質脊髄路の中で、腕へ向かう線維が内側に、脚へ向かう線維が外側に並ぶように描かれてきました。頸髄の中心部が傷つくと、腕の麻痺が脚より重くなる中心性頸髄損傷も、この並び方で説明されてきました。ところがLemonとMorecraftは2023年の総説で、内包や大脳脚では体の部位ごとの並びがはっきりしている一方、延髄の錐体と脊髄の中では腕と脚の線維が入り混じっていて、こうした並びは見られないと述べ、この説明はやめるべきだと主張しています。腕の麻痺が重くなる理由として二人が挙げるのは、皮質脊髄路が脚よりも腕、とりわけ手指の動きに大きく関わっていることです。
皮質延髄路:脊髄まで降りない運動の道
顔や舌、のどの筋を動かす命令は、皮質延髄路(皮質核路)を通ります。大脳皮質から内包の膝を通って脳幹へ降り、三叉神経運動核、顔面神経核、疑核、舌下神経核などの運動核に終わります。延髄の錐体で交叉するのではなく、それぞれの運動核の高さで終わり、多くの運動核は左右両方の大脳から命令を受けています。
例外は、顔の下半分を動かす顔面神経核の部分で、主に反対側の大脳から命令を受けます。額の筋を動かす部分は、左右両方の大脳から命令を受けています。片側の大脳の脳卒中で、反対側の口元は下がるのに、額にしわを寄せることはできるのはこのためです。
赤核脊髄路:ヒトではほとんど残っていない道
赤核脊髄路は中脳の赤核から始まり、すぐに反対側へ渡って、側索を外側皮質脊髄路のすぐ前に沿って下ります。手足の先の筋、とくに屈筋の運動ニューロンを促します。ローレンスとカイパースの実験で、錐体路を失ったサルの「つかむ」動作を支えていたのは、主にこの道でした。
ところが、ヒトではこの道がごく小さいことがわかっています。1982年にネイサンとスミスがヒトの脳と脊髄を調べたところ、赤核の大型の神経細胞から出て脊髄へ向かう線維はわずかで、たいていは頸髄の上部より下までたどれませんでした。赤核からは、脊髄ではなく延髄のオリーブ核へ向かう線維が非常に多く出ていたのです。教科書では5つの道の一つに数えられていますが、サルで確かめられた働きを、そのままヒトに当てはめることはできません。
前庭脊髄路:重力に逆らって体を支える
前庭脊髄路は、内耳の前庭からの信号を受ける前庭神経核から始まります。外側前庭神経核から始まる外側前庭脊髄路は、交叉せずに同じ側の前索を脊髄の全長にわたって下り、重力に逆らって体を支える伸筋の運動ニューロンを促します。内側前庭神経核から始まる内側前庭脊髄路は、内側縦束を通って左右両側の頸髄から上部胸髄へ降り、頭が傾いたときに首の筋を働かせて、頭の位置を保ちます。
網様体脊髄路:はっきりした束をつくらない道
網様体脊髄路は、脳幹の中心部に網の目のように広がる網様体から始まります。橋の網様体からの道は主に同じ側の前索を、延髄の網様体からの道は左右両側の側索の前部を下ります。ヒトの脊髄を調べた研究では、網様体脊髄路の線維ははっきりした束をつくらず、前索と側索に散らばっていました。同じ側を下るものが多いものの、左右両側を下っていました。
働きは、姿勢の保持、歩行、腕を伸ばす動き(リーチ)などです。網様体には大脳皮質からの線維(皮質網様体路)も入っていて、その一部は皮質脊髄路の線維の枝です。大脳の命令は、網様体を経由しても脊髄に届きます。
視蓋脊髄路:物音や動くものの方へ頭を向ける
視蓋脊髄路は中脳の上丘から始まり、すぐに反対側へ渡って前索を下り、頸髄で終わります。上丘は、目や耳でとらえたものの位置を地図のように表している場所で、視蓋脊髄路は、物音や動くものの方へ頭を向ける動きに関わります。
脳卒中のあと、何が手を動かしているのか
脳卒中で大脳の運動野や内包が傷つくと、そこを通る皮質脊髄路も傷つき、指を1本ずつ動かす動きが失われやすくなります。杖を使って歩けるまでに回復した人がシャツのボタンをとめられずにいるのも、この動きが失われているからだと考えられます。では、コップを握ることや歩くことのように、残った動きを支えているのはどの道でしょうか。
サルでは、錐体路を失ったあとの「つかむ」動作を赤核脊髄路が支えていました。しかしヒトでは、赤核脊髄路はほとんど残っていません。英国ニューカッスル大学の神経生理学者ベイカーは2011年の総説で、ヒトで代わりを務める道の第一の候補は網様体脊髄路だと論じています。手がかりは、ローレンスとカイパースの論文の中にもありました。錐体路と赤核脊髄路の両方を断たれたサルは、餌をつかむことがまったくできなくなったのに、ケージの格子を握って体重を支え、よじ登ることはできたのです。このとき残っていた主な道は、網様体脊髄路でした。
ベイカーらのグループは、サルの片側の錐体路を切断し、回復したあとの脊髄を調べました(Zaaimiら、2012年)。サルは切断の直後、反対側の手足が弛緩性の麻痺になりましたが、すぐに回復し、麻痺した側の手でケージの格子を握って体重を支え、よじ登れるようになりました。詳しく調べた1頭では、予想どおり、指を1本ずつ動かす動きは戻りませんでした。約6か月後に手と前腕の筋の運動ニューロンの反応を記録すると、網様体脊髄路からの入力は、切断していないサルより大きくなっていました。大きくなっていたのは前腕の屈筋と手内筋の運動ニューロンへの入力で、前腕の伸筋への入力は大きくなっていませんでした。切断していない側の錐体路から同じ側へ降りる入力は、まれで弱いままでした。
著者らは、この屈筋に偏った強まり方が、脳卒中のあとによく見られる伸筋の弱さや屈筋の痙縮と重なると指摘しています。図3の違いを思い出すと、この回復の姿は説明がつきます。網様体脊髄路の線維は多くの筋の運動ニューロンにまとめて枝を出すので、握るための屈筋をまとめて働かせることはできても、指を1本ずつ選んで動かすことはできません。ベイカーも総説で、脳卒中から回復した手の動きでは、1つの筋を動かそうとするとほかの筋まで一緒に働きやすく、屈筋が働きすぎる一方で伸筋は弱いことが多いと述べています。痙縮のしくみは「伸張反射」と「Modified Ashworth Scale(MAS)」、共同運動から抜け出した動きの評価は「Fugl-Meyer Assessment(FMA)」の記事で扱っています。
ヒトでも、網様体脊髄路に頼っていることをうかがわせる観察があります。準備した動きを始める合図を大きな音に変えると、反応がふだんより速くなります。この現象(StartReact)は、驚いたときの反射と同じ網様体の回路を使うと考えられています。慢性期の脳卒中患者95人を調べた2019年の研究では、音による反応の短縮が健康な人より大きく(平均78.4ミリ秒と45.0ミリ秒)、上肢の機能が低い人や、手首を自分で動かせる範囲が小さい人ほど、また痙縮が強い人ほど大きくなっていました。著者らは、皮質脊髄路の損傷が重い人では、回復の過程で網様体脊髄路とのつながりが強まったのではないかと推測しています。
指を伸ばす動きは、予後を見通す手がかりにもなります。発症2日目に指を伸ばし、肩を横に上げられたかどうかで、6か月後に手の器用さが戻る確率が0.98と0.25に分かれたEPOS研究の結果も、網様体脊髄路の働きが屈筋の側に偏っていることとあわせて読むことができます。早い時期に指を伸ばせることは、皮質脊髄路がある程度残っているしるしと読めます。これは研究の結論ではなく、ここまでの話から考えられる解釈です。
まとめ
運動の命令は、役割の違う何本もの道に分かれて脊髄へ降ります。脊髄の外側を下る道は手足の先の筋を、内側を下る道は体幹と手足の付け根の筋を受け持ち、指を1本ずつ動かす器用さは皮質脊髄路が支えています。脳卒中で皮質脊髄路が傷つくと、網様体脊髄路などが代わりを務めると考えられていますが、多くの筋をまとめて動かす道なので、姿勢を保つ、手全体で握るといった動きに比べて、指先の細かい動きは戻りにくくなります。ヒトでは赤核脊髄路がほとんど残っていないことも、サルの結果をそのままヒトに当てはめられない理由の一つです。
さらに学びたい人へ:おすすめの本
- 寺島俊雄『カラー図解 神経解剖学講義ノート』(金芳堂):神戸大学の講義資料をもとに、神経解剖学を単純化した模式図と箇条書きのテキストで解説した本です。オールカラーで、各章末に解答・解説つきの練習問題があります(2011年刊行)。
- 日本神経理学療法学会『神経理学療法学講義:脳卒中編』(医学書院):日本神経理学療法学会が編集した、脳卒中の神経理学療法の教科書です。運動障害と痙縮、歩行障害、姿勢バランス障害、高次脳機能障害を、神経のしくみ、脳画像、評価、理学療法のエビデンスの面から解説しています(2026年刊行)。
参考文献
- Nijland RH, van Wegen EE, Harmeling-van der Wel BC, Kwakkel G; EPOS Investigators. Presence of finger extension and shoulder abduction within 72 hours after stroke predicts functional recovery: early prediction of functional outcome after stroke: the EPOS cohort study. Stroke. 2010;41(4):745-750. doi:10.1161/STROKEAHA.109.572065
- Lawrence DG, Kuypers HG. The functional organization of the motor system in the monkey. I. The effects of bilateral pyramidal lesions. Brain. 1968;91(1):1-14. doi:10.1093/brain/91.1.1
- Lawrence DG, Kuypers HG. The functional organization of the motor system in the monkey. II. The effects of lesions of the descending brain-stem pathways. Brain. 1968;91(1):15-36. doi:10.1093/brain/91.1.15
- Lemon RN, Landau W, Tutssel D, Lawrence DG. Lawrence and Kuypers (1968a, b) revisited: copies of the original filmed material from their classic papers in Brain. Brain. 2012;135(Pt 7):2290-2295. doi:10.1093/brain/aws037
- Moll LCM. H.G.J.M. Kuypers 1925-1989. In: History of Neurology in the Netherlands. p.335-342. https://www.neurologie.nl/wp-content/uploads/2022/01/History-of-Neurology-in-the-Netherlands-hoofdstuk-23-blz-335-342.pdf(2026年10月16日閲覧)
- Baker SN. The primate reticulospinal tract, hand function and functional recovery. J Physiol. 2011;589(Pt 23):5603-5612. doi:10.1113/jphysiol.2011.215160
- Lemon R. Recent advances in our understanding of the primate corticospinal system. F1000Res. 2019;8:F1000 Faculty Rev-274. doi:10.12688/f1000research.17445.1
- Gu Z, Kalambogias J, Yoshioka S, et al. Control of species-dependent cortico-motoneuronal connections underlying manual dexterity. Science. 2017;357(6349):400-404. doi:10.1126/science.aan3721
- Nathan PW, Smith MC, Deacon P. The corticospinal tracts in man. Course and location of fibres at different segmental levels. Brain. 1990;113(Pt 2):303-324. doi:10.1093/brain/113.2.303
- Lemon RN, Morecraft RJ. The evidence against somatotopic organization of function in the primate corticospinal tract. Brain. 2023;146(5):1791-1803. doi:10.1093/brain/awac496
- Nathan PW, Smith MC. The rubrospinal and central tegmental tracts in man. Brain. 1982;105(Pt 2):223-269. doi:10.1093/brain/105.2.223
- Nathan PW, Smith M, Deacon P. Vestibulospinal, reticulospinal and descending propriospinal nerve fibres in man. Brain. 1996;119(Pt 6):1809-1833. doi:10.1093/brain/119.6.1809
- Zaaimi B, Edgley SA, Soteropoulos DS, Baker SN. Changes in descending motor pathway connectivity after corticospinal tract lesion in macaque monkey. Brain. 2012;135(Pt 7):2277-2289. doi:10.1093/brain/aws115
- Choudhury S, Shobhana A, Singh R, et al. The relationship between enhanced reticulospinal outflow and upper limb function in chronic stroke patients. Neurorehabil Neural Repair. 2019;33(5):375-383. doi:10.1177/1545968319836233


コメント