上肢の関節可動域測定(評価):肩の180°はどこが動いた角度か

上肢の関節可動域測定(評価):肩の180°はどこが動いた角度か

健康な人の骨にピンを刺してセンサーを固定すれば、皮膚の下で滑るように動く肩甲骨の動きも、骨そのものの動きとして測れます。Ludewigらは2009年、12人の鎖骨、肩甲骨、上腕骨に局所麻酔をしてピンを刺し、腕を上げてもらいました。上腕が体幹に対して120°上がるまでに、肩甲上腕関節は平均約85°動き、肩甲骨は上方回旋が約39°増えていました。

実習で同級生の肩の屈曲を測ると、角度計はちょうど180°を指しました。横で見ていた指導者は、「最後に腰が反っていたし、肩甲骨の下の端も外側へ大きく動いていた」と言いました。この180°は、どこが動いた角度なのでしょうか。

上肢の関節可動域は、日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会などが定めた「関節可動域表示ならびに測定法」にしたがって測ります。その表の肩の欄には、「肩(肩甲帯の動きを含む)」と書かれています。参考可動域角度の180°は、はじめから肩甲骨の動きを含んだ角度なのです。では、そのうち肩甲骨はどれだけを担い、腰の反りはどのように角度に入り込むのか。

上肢の関節可動域測定の要点

  • 測定の原則:基本肢位を0°とし、原則として他動運動で、通常は5°刻みで測る。基本軸と移動軸は、外から見て分かりやすい部位で決められている
  • 肩甲帯:屈曲0〜20°、伸展0〜20°、挙上0〜20°、引き下げ(下制)0〜10°
  • 肩(肩甲帯の動きを含む):屈曲0〜180°、伸展0〜50°、外転0〜180°、内転0°、外旋0〜60°、内旋0〜80°、水平屈曲0〜135°、水平伸展0〜30°
  • 肘・前腕:肘の屈曲0〜145°、伸展0〜5°。前腕の回内0〜90°、回外0〜90°
  • 手:屈曲(掌屈)0〜90°、伸展(背屈)0〜70°、橈屈0〜25°、尺屈0〜55°。母指と指は表5・表6にまとめた
  • 肩の180°の中身:基本軸が床への垂直線なので、肩甲骨と鎖骨の動きも角度に入る。骨に刺したピンで測った研究では、上腕を体幹に対して120°上げるまでに、肩甲上腕関節が約85°動き、肩甲骨の上方回旋が約39°増えた。体幹が反ると、その分も角度に加わる
  • 2022年の改訂:上肢の参考可動域角度、基本軸、移動軸は1995年版から変わっていない。2022年6月に、肩の外旋・内旋(その他の検査法)の図が修正された

測定のルール:0°をどこに置き、どう測るか

2022年改訂版の総論は、測定の基本を次のように定めています。測定値は、基本肢位、つまり測定の出発点として決められた姿勢を0°として表します。関節は、本人が自分の力で動かす自動運動でも、検査者が動かす他動運動でも測れますが、原則として他動運動で測った値を記録し、自動運動で測った値は( )で囲むか「自動」「active」と書き添えます。角度計は、基本軸と移動軸の交点を中心に合わせ、通常は5°刻みで読みます。痛みなどが値に影響したときは、「痛み」「pain」と書き添えます。

上肢の表を読むときに押さえておきたいのは、軸の決め方です。総論は、基本軸と移動軸を四肢や体幹の外から見て分かりやすい部位で決めたもので、運動学上の軸とは必ずしも一致しない、と断っています。測定法の目的も、関節可動域を共通の基盤で理解することにあり、実用的で分かりやすいことを重んじています。外から見える目印で測るため、表の角度には、名前のついた関節以外の動きが含まれることがあります。その代表が肩です。

肩甲帯

運動方向参考可動域角度基本軸移動軸
屈曲0〜20°両側の肩峰を結ぶ線頭頂と肩峰を結ぶ線
伸展0〜20°
挙上0〜20°両側の肩峰を結ぶ線肩峰と胸骨上縁を結ぶ線
引き下げ
(下制)
0〜10°

表1 肩甲帯の測定(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

肩甲帯の屈曲は肩を前へ出す動き、伸展は後ろへ引く動きで、上から見て、頭頂と肩峰を結ぶ線が前後へどれだけ振れたかを測ります。挙上と引き下げ(下制)は、背面から測定すると定められています(図1)。

肩甲帯の測定の模式図。上から見た屈曲・伸展では両側の肩峰を結ぶ線を基本軸、頭頂と肩峰を結ぶ線を移動軸とする。後ろから見た挙上・引き下げでは両側の肩峰を結ぶ線を基本軸、肩峰と胸骨上縁を結ぶ線を移動軸とする

図1 肩甲帯の屈曲・伸展と挙上・引き下げ(模式図)。屈曲・伸展は上から、挙上・引き下げは後ろから見た図で、挙上・引き下げは背面から測定する。破線の緑の線は反対向きの動き。引き下げは下制ともいう

肩:表の見出しにある「肩甲帯の動きを含む」

運動方向参考可動域角度基本軸移動軸
屈曲0〜180°肩峰を通る床への垂直線(立位または座位)上腕骨
伸展0〜50°
外転0〜180°肩峰を通る床への垂直線(立位または座位)上腕骨
内転0°
外旋0〜60°肘を通る前額面への垂直線尺骨
内旋0〜80°
水平屈曲0〜135°肩峰を通る矢状面への垂直線上腕骨
水平伸展0〜30°

表2 肩(肩甲帯の動きを含む)の測定(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

測定肢位と注意点は、次のように定められています。

  • 屈曲(前方挙上)・伸展(後方挙上):前腕は中間位とする。体幹が動かないように固定し、脊柱が前後屈しないように注意する
  • 外転(側方挙上)・内転:体幹の側屈が起こらないように、90°以上になったら前腕を回外することを原則とする。内転は、その他の検査法の方法でも測る(表7)
  • 外旋・内旋:上腕を体幹に接して、肘関節を前方に90°屈曲した肢位で行う。前腕は中間位とする。肩関節を90°外転した肢位での測り方もある(表7)
  • 水平屈曲・水平伸展:肩関節を90°外転位とする
肩の測定の模式図。屈曲・伸展と外転・内転は肩峰を通る床への垂直線を基本軸、上腕骨を移動軸とする。外旋・内旋は肘を通る前額面への垂直線と尺骨、水平屈曲・水平伸展は肩峰を通る矢状面への垂直線と上腕骨で測る

図2 肩の屈曲・伸展、外転・内転、外旋・内旋、水平屈曲・水平伸展(模式図)。Aは横から、Bは前から、CとDは上から見た図。外旋・内旋は肘関節を前方に90°屈曲して行い、水平屈曲・水平伸展は肩関節を90°外転位とする。内転はその他の検査法も参照。腕の角度は一例

屈曲と外転の基本軸は、肩甲骨ではなく、肩峰を通る床への垂直線です。角度計が示すのは、床への垂直線という体の外の基準から、上腕骨がどれだけ離れたかです。そのため、肩甲骨と鎖骨が動いて上腕骨を持ち上げた分も、そのまま角度に入ります。表の見出しの「肩甲帯の動きを含む」は、そのことを示しています。

180°のうち、肩関節はどれだけ動いているのか

腕を上げるとき、上腕骨と肩甲骨はどんな割合で動くのでしょうか。この問いに数字で答えたのが、Inman、Saunders、Abbottが1944年に発表した論文です。彼らは、腕を上げはじめの外転30°、屈曲60°までは肩甲骨の動き方が人によってまちまちだとして、この区間を「setting phase」と呼びました。それを過ぎると、上腕骨が肩甲骨に対して2°動くごとに肩甲骨が1°回る、つまり2対1の比で動くと報告しました。腕を上げるときの上腕骨と肩甲骨のこの連動は「肩甲上腕リズム」と呼ばれ、2対1という比は広く受け入れられてきました。2対1を180°にあてはめると、肩甲上腕関節が120°、肩甲骨が60°という計算になります。

ところが、2009年にこの比を測り直したBramanらは、Inmanらの研究について、対象が複数いたのか、データをどう集めたのかがはっきりしないと指摘しています。同じようなデータがいま発表されても、これほど受け入れられるとは考えにくい、とも述べています。その後の研究では比はまちまちで、全体の比は1.25対1から2.5対1まで報告されていました。たとえばPoppenとWalkerは1976年、健康な12人のX線写真から、肩甲骨面で外転30°を過ぎてからの比を5対4(1.25対1)と報告しています。

測り方にも課題がありました。肩甲骨は皮膚の下で滑るように動くため、皮膚に貼ったセンサーでは、腕を高く上げたときほど誤差が大きくなることが報告されています(Bramanら 2009)。そこで研究者たちは、健康な人の骨にピンを刺してセンサーを固定し、骨そのものの動きを測りました。McClureらは2001年、8人の肩甲骨にピンを刺し、肩甲骨面で腕を上げたときの比を1.7対1と報告しました。Ludewigらは2009年、12人の鎖骨、肩甲骨、上腕骨に局所麻酔をしてピンを刺し、屈曲、肩甲骨面での外転、外転の3方向で腕を上げてもらいました。ピンが邪魔をして最後まで上げられない人がいたため、解析はすべての人が届いた120°までにしています。

その結果、上腕が体幹に対して120°上がるまでに、肩甲上腕関節は平均約85°動き、肩甲骨は上方回旋が約39°(11°から50°へ)、後傾が約21°増えました(図3)。比は外転で2.1対1、屈曲で2.4対1、肩甲骨面での外転で2.2対1です。鎖骨も、胸鎖関節で約16°後ろへ引かれ、約6°上がり、長軸のまわりに約31°後ろへ回っていました。腕を上げる動きは、肩甲上腕関節、肩甲骨、鎖骨の動きが組み合わさってできていることになります。

肩甲上腕リズムの研究をまとめた図。骨にピンを刺して測った12人では、上腕を体幹に対して120°上げるまでに、肩甲上腕関節が約85°動き、肩甲骨の上方回旋が約39°増えた。肩甲上腕関節と肩甲骨の比は、Inmanら1944年が2、PoppenとWalker1976年が1.25、McClureら2001年が1.7、Ludewigら2009年が2.1〜2.4、Bramanら2009年が上げるとき2.3、下ろすとき2.7

図3 肩甲上腕リズム:肩甲上腕関節と肩甲骨の動きを分けて測った研究。Aは骨に刺したピンで測った健康な12人の平均で、屈曲、肩甲骨面での外転、外転の3方向の平均(Ludewigら 2009)。3次元の角度なので、2つの値の和は120°とちょうどは一致しない。Bは、肩甲骨が1°上方回旋するあいだに肩甲上腕関節が何度動くかを研究ごとに示した。Poppen・Walkerは外転30°以降、McClureらは肩甲骨面での挙上、Ludewigらは120°まで、Bramanらは頭上へ手を伸ばす動作で測った。Ludewigらの中央の点は肩甲骨面での外転。骨ピンの研究では、肩甲骨など(研究によっては鎖骨と上腕骨にも)にピンを刺してセンサーを固定し、骨の動きを直接測った。Bramanら(2009)は、Inmanら(1944)の研究について、対象が複数いたのか、データをどう集めたのかがはっきりしないと指摘している

Bramanらは同じ方法で、棚の上の物を取るときのように、方向を決めずに頭上へ手を伸ばしてもらいました。12人が選んだ方向は平均で前額面より63°前で、上腕の挙上は最大で平均約133°でした。比は上げるときに2.3対1、下ろすときに2.7対1で、上げはじめの30°までの区間で最も大きく、この区間では肩甲上腕関節が主に動いていました。

骨ピンの研究をまとめると、腕を上げた角度のおよそ3分の2は肩甲上腕関節、3分の1は肩甲骨の動きでした。Inmanらの2対1は、平均としては骨ピンの研究とおおむね重なります。ただし比は、腕を上げる方向や区間、上げるか下ろすかで変わり、一定の比で動き続けるわけではありません。また、骨ピンの研究で確かめられているのは120〜130°あたりまでで、180°近くまでの内訳は、これらの研究からはわかりません。

腕を上げる動きには、上腕骨の外旋も伴います。30人を3次元で測った研究では、どの方向に上げても約55°の外旋が伴っていました(Stokdijkら 2003)。屍体の肩50関節を調べた研究は、上腕骨頭の関節軟骨の広がりには限りがあり、腕を上げるときの外旋によって、関節窩と向き合う軟骨の面が確保されると述べています(Jobe・Iannotti 1995)。測定法が外転で90°を超えたら前腕を回外することを原則としているのも、この回旋と関係があると考えられます。ただし、測定法が目的として書いているのは、体幹の側屈を防ぐことだけです。

180°に入り込むもう一つの動きが、体幹です。基本軸は床への垂直線なので、体幹が後ろへ反れば、肩の動きが同じでも、角度計の値はその分だけ大きくなります(図4)。健康な男性21人で、両腕を上げきったときの胸椎の動きを調べた研究では、胸椎はX線写真で平均12.8°、写真で平均10.5°伸展しており、その大きさは人によって違いました(Edmondstonら 2012)。屈曲・伸展の「体幹が動かないように固定する」「脊柱が前後屈しないように注意する」という注意によって、この体幹の動きを角度から除きます。

肩の屈曲を横から見た模式図。体幹をまっすぐに保つと角度計は160°を示すが、体幹が15°反ると、肩の動きが同じでも角度計は175°を示す

図4 床への垂直線から測るので、体の反りも角度に入る(模式図)。肩の屈曲を横から見た図。体幹に対する肩の屈曲が同じ160°でも、腰を15°反らせると角度計の値は175°になる。角度は説明のための仮定。測定法は肩の屈曲・伸展で「体幹が動かないように固定する」「脊柱が前後屈しないように注意する」と定めている。健康な男性21人では、両腕を上げきると胸椎が平均12.8°(X線写真)、10.5°(写真)伸展した(Edmondstonら 2012)

姿勢は、肩甲骨の動き方も変えます。健康な34人を、背すじを伸ばした座位と背中を丸めた座位で比べた研究では、背中を丸めると、肩甲骨面で腕を上げたときに肩甲骨が上へ持ち上がりやすく、腕を水平より上へ上げる区間では後傾が小さくなり、自動運動での外転は平均23.6°小さくなりました(Kebaetseら 1999)。同じ人でも、座らせ方によって測定値は変わります。

こうしてみると、角度計が示す肩の屈曲や外転の値だけでは、肩甲上腕関節と肩甲骨のどちらの動きが足りないのかはわかりません。肩の動きが小さいときは、腕を上げるあいだの肩甲骨の動きを後ろから見て確かめ、体幹で補っていないかも見ます。関連する話題は「肩甲上腕リズム:正しく理解する」と「僧帽筋の機能と役割」で扱っています。

肘と前腕:回内・回外は手のひらで測る

運動方向参考可動域角度基本軸移動軸
肘の
屈曲
0〜145°上腕骨橈骨
肘の
伸展
0〜5°
前腕の
回内
0〜90°上腕骨手指を伸展した手掌面
前腕の
回外
0〜90°

表3 肘と前腕の測定(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

  • 肘の屈曲・伸展:前腕は回外位とする
  • 前腕の回内・回外:肩の回旋が入らないように肘を90°に屈曲する。0°は、手掌面が矢状面にある肢位(母指が上を向く)
肘の屈曲・伸展と前腕の回内・回外の測定の模式図。肘は上腕骨を基本軸、橈骨を移動軸とする。前腕は肘を90°に曲げ、上腕骨を基本軸、手指を伸展した手掌面を移動軸として、母指が上を向く肢位を0°とする

図5 肘の屈曲・伸展と前腕の回内・回外(模式図)。Aは横から、Bは右腕を正面から見た図で、前腕は見る人のほうへ向いている。肘の屈曲・伸展は前腕を回外位とし、回内・回外は肩の回旋が入らないように肘を90°に屈曲して測る。0°は手掌面が矢状面にある肢位

前腕を測るときに肘を90°に曲げるのは、肘を伸ばしたままだと、肩の内旋・外旋と前腕の回内・回外がほぼ同じ軸のまわりの回転になり、見分けられないからです。肘を曲げておけば、肩が回ったときには前腕が左右へ振れるので、すぐに気づきます。肘の角度そのものも、回内・回外の範囲を変えます。50人を固定具で測った研究では、肘を曲げるほど回外は大きく回内は小さくなり、伸ばすほど逆になりました(Shaabanら 2008)。肘の角度をそろえなければ、前回の値と比べられません。

前腕の移動軸が「手指を伸展した手掌面」であることにも、注意が要ります。手のひらは手関節を介して前腕につながっているので、手のひらで測った角度には、手関節の中での回旋も入ります。手を固定して前腕を回そうとしたときの動きを20人のCTで調べた研究では、橈骨と中手骨のあいだで、回外の向きに平均17.15°、回内の向きに平均17.0°の回旋が起こり、その多くは手根中央関節で生じていました(Gupta・Moosawi 2005)。表の回内・回外の90°は、前腕の骨だけの回旋ではありません。

あて方を変えると、値も変わります。31人の前腕を3つの方法で測った研究では、手に持った鉛筆に角度計を合わせる方法が、最も大きな回外と最も小さな回内を示しました。この方法は再現性が最も高かったものの、第4・第5中手骨が動くため回外の測定には妥当でない、と著者は述べています。前腕の遠位部の表面にあてる方法と、尺骨と橈骨の遠位端を結ぶ線に合わせる方法は、臨床で使えるが互いに置き換えられない、としています(Gajdosik 2001)。測定法と違う方法で測ったときは、その方法を記録しておかないと値を比べられません。

手関節

運動方向参考可動域角度基本軸移動軸
屈曲
(掌屈)
0〜90°橈骨第2中手骨
伸展
(背屈)
0〜70°
橈屈0〜25°前腕の中央線第3中手骨
尺屈0〜55°

表4 手関節の測定(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

  • 屈曲(掌屈)・伸展(背屈):前腕は中間位とする
  • 橈屈・尺屈:前腕を回内位で行う
手関節の測定の模式図。屈曲・伸展は橈骨を基本軸、第2中手骨を移動軸とし、橈屈・尺屈は前腕の中央線を基本軸、第3中手骨を移動軸とする

図6 手関節の屈曲・伸展と橈屈・尺屈(模式図)。Aは橈側から、Bは右手を手の甲の側から見た図。屈曲・伸展は前腕を中間位、橈屈・尺屈は前腕を回内位で測る

屈曲・伸展は、橈骨と第2中手骨、つまり手の橈側、母指の側で測ります。米国の8施設で32人のセラピストが140人(141手)の手関節を他動運動で測った研究では、角度計を橈側、尺側、背側または掌側のどこにあてるかで、値に違いがありました。同じセラピストがくり返したときの級内相関係数(ICC)、つまり測り直した値がどれだけ一致するかを0から1で表す指標は、屈曲で橈側0.86、尺側0.87、背側0.92、伸展で0.80、0.80、0.84で、著者らは背側・掌側にあてる方法を勧めています(LaStayo・Wheeler 1994)。別の方法で測った値と比べるときは、あて方の違いも考えに入れます。

母指と指

運動方向参考可動域角度基本軸移動軸
橈側外転0〜60°示指
(橈骨の
延長上)
母指
尺側内転0°
掌側外転0〜90°
掌側内転0°
屈曲
(MCP)
0〜60°第1中手骨第1基節骨
伸展
(MCP)
0〜10°
屈曲
(IP)
0〜80°第1基節骨第1末節骨
伸展
(IP)
0〜10°

表5 母指の測定(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

  • 橈側外転・尺側内転:運動は手掌面とする
  • 掌側外転・掌側内転:運動は手掌面に直角な面とする
  • 指の運動は、原則として指の背側に角度計をあてる。母指の対立は、角度ではなく距離で表す(表7)
母指の測定の模式図。橈側外転・尺側内転は手掌面の運動、掌側外転・掌側内転は手掌面に直角な面の運動で、いずれも示指を基本軸、母指を移動軸とする。MCPとIPの屈曲・伸展も示す

図7 母指の橈側外転・尺側内転、掌側外転・掌側内転、MCP・IPの屈曲・伸展(模式図)。MCPは中手指節関節、IPは指節間関節。橈側外転・尺側内転は手掌面での運動で、右手を手の甲の側から見た図。掌側外転・掌側内転は手掌面に直角な面での運動で、橈側から見た図。指の運動は、原則として指の背側に角度計をあてて測る

母指の外転には2つの面があります。手のひらと同じ面で示指から離れる動きが橈側外転、手のひらに直角な面で手のひらから離れる動きが掌側外転です。どちらも、基本軸は示指(橈骨の延長上)、移動軸は母指です。

運動方向参考可動域角度基本軸移動軸
屈曲
(MCP)
0〜90°第2〜5中手骨第2〜5基節骨
伸展
(MCP)
0〜45°
屈曲
(PIP)
0〜100°第2〜5基節骨第2〜5中節骨
伸展
(PIP)
0°
屈曲
(DIP)
0〜80°第2〜5中節骨第2〜5末節骨
伸展
(DIP)
0°
外転記載なし第3中手骨延長線第2、4、5指軸
内転記載なし

表6 指(第2〜5指)の測定(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

  • MCPの屈曲・伸展:その他の検査法も参照(表7)
  • DIPの屈曲・伸展:DIPは10°の過伸展をとりうる
  • 外転・内転:中指の運動は橈側外転、尺側外転とする
指の測定の模式図。MCP、PIP、DIPの屈曲・伸展の基本軸と移動軸と参考可動域角度、第3中手骨延長線を基本軸にした外転・内転を示す

図8 指のMCP・PIP・DIPの屈曲・伸展と外転・内転(模式図)。Aは横から、Bは右手を手の甲の側から見た図。指の外転・内転には参考可動域角度が示されておらず、その他の検査法として、中指先端と第2、4、5指先端との距離(cm)で表す方法がある。指の運動は、原則として指の背側に角度計をあてて測る

指の外転・内転は、中指を基準にした動きです。第3中手骨の延長線を基本軸にして、示指、環指、小指が中指から遠ざかる動きを外転、近づく動きを内転と呼びます。中指は左右どちらへ動いても中指自身の軸から遠ざかるので、橈側外転、尺側外転と呼び分けます。表には外転・内転の参考可動域角度がなく、距離で表す方法が示されています(表7)。

その他の検査法と、2022年の改訂

表の本体とは別に、「その他の検査法」として次の測り方が示されています。

運動参考可動域角度測定肢位と方法
肩の
外旋
0〜90°肩関節を90°外転し、肘関節を90°屈曲した肢位で行う。前腕は中間位とする。基本軸は肘を通る前額面への垂直線、移動軸は尺骨
肩の
内旋
0〜70°
肩の
内転
0〜75°20°または45°肩関節屈曲位で、立位で行う。基本軸は肩峰を通る床への垂直線、移動軸は上腕骨
母指の
対立
記載なし母指先端と小指基部(または先端)との距離(cm)で表す
指の外転
・内転
記載なし中指先端と2、4、5指先端との距離(cm)で表す
指の
屈曲
記載なし指尖と近位手掌皮線または遠位手掌皮線との距離(cm)で表す

表7 その他の検査法(上肢と手指)(関節可動域表示ならびに測定法 2022年4月改訂より)

上肢の部分は、2022年4月の改訂でも、参考可動域角度、基本軸、移動軸とも1995年版から変わっていません。表記の上で、参考可動域角度が「0-180」のように0からの範囲で書かれるようになりました。改訂後の2022年6月には、その他の検査法の肩の外旋・内旋の図が修正されています。測定肢位の欄には「前腕は中間位とする」とあるのに、図では前腕が回外位で描かれていたためで、図が中間位に描き直されました。数値や定義に修正はありません。改訂の直後に配られた資料を使うときは、この図が修正前のものでないかを確かめます。

参考可動域角度は「正常値」ではない

2022年改訂版の総論は、関節の動く範囲は年齢、性、肢位、個体による変動が大きいので、正常値は定めず参考可動域として記載した、と述べています。表の角度は、それを下回ったら異常という線ではありません。

測定法の付録「(付)関節可動域参考値一覧表」には、5つの出典の値が並んでいます(図9)。肩の屈曲を見ると、1920年にメイヨー・クリニックのClarkがまとめた値は130°、1958年の米国医師会の委員会は150°、1960年のカリフォルニア州の委員会は170°、1965年の米国整形外科学会(AAOS)は180°、1979年に渡辺英夫らが報告した日本人(10歳以上80歳未満)の平均は173°です。参考可動域角度の180°は、このうちAAOSの値と同じです。前腕の回内では、参考可動域角度の90°が、5つの出典の値(50〜87°)のどれよりも大きくなっています。

関節可動域参考値一覧表の5つの出典の値を、動きごとに参考可動域角度と並べた図。肩の屈曲は130〜180°、肩の伸展は30〜80°、肩の外転は150〜184°、肘の屈曲は135〜150°、前腕の回内は50〜87°、回外は80〜93°、手の伸展は60〜90°と、出典によって値が違う

図9 (付)関節可動域参考値一覧表の値と参考可動域角度。測定法の付録「(付)関節可動域参考値一覧表」に並ぶ5つの出典の値と、2022年改訂の参考可動域角度。5つの値がそろっている動きだけを示し、各行の点は上から出典順に少しずつずらして描いた

集団で実際に測った値も、表の角度とは違います。肩に痛みやこわばりのない地域の住民2,404人(20〜91歳)の肩の自動運動を傾斜計で測った研究では、右肩の屈曲の平均は男性161.5°、女性158.5°で、年齢とともに小さくなり、その低下は男性で43°、女性で40.6°でした(Gillら 2020)。2〜69歳の健康な674人の他動運動を理学療法士9人が角度計で測った研究でも、ほぼすべての関節で女性のほうが動く範囲が大きく、年齢が上がると小さくなり、性差は前腕の回内・回外で特にはっきりしていました(Soucieら 2011)。日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が1974年に定めた方法で、日本人624人(新生児から80歳)を測った渡辺らの研究では、肩の外旋や、水平外転とも呼ばれる水平伸展は年齢によって大きく違う一方、肘の屈曲、前腕の回内・回外、手関節の背屈は年齢による違いが小さく、肩の伸展、外旋、水平伸展、手関節の背屈は、当時の両学会が示していた値を上回っていました。

測定そのものの誤差も考えに入れます。角度計のあて方や患者の姿勢をそろえずに、50人ずつ2つの群の患者で肩の他動運動を測った研究では、同じ検者がくり返したときの級内相関係数(ICC)は、すべての動きで0.87〜0.99でした。ところが別の検者どうしでは、屈曲、外転、外旋が0.84〜0.90だったのに対し、水平屈曲、水平伸展、伸展、内旋は0.26〜0.55にとどまりました(Riddleら 1987)。肘、前腕、手関節の疾患のある38人を5人の検者が測った研究では、同じ検者でも、肘の屈曲で6°、伸展で7°、回内と回外で8°を超える差がなければ、95%の確からしさで変わったとは言えず、検者が変わると10〜11°の差が必要でした(Armstrongら 1998)。

角度計の180°には、肩甲上腕関節、肩甲骨と鎖骨、そして固定が甘ければ体幹の動きが含まれています。実習で同級生の肩を測ったときも、指導者が見ていた肩甲骨の下の端の動きと腰の反りが、その180°に入っていたことになります。参考可動域角度との差だけで制限と決めるのではなく、どこが動き、どこが動いていないのかを見て、反対側の値、以前の値、痛みの有無とあわせて判断します。

まとめ

上肢の関節可動域は、「関節可動域表示ならびに測定法」にしたがい、基本肢位を0°として、原則として他動運動で、決められた基本軸と移動軸で測ります。肩の屈曲と外転は床への垂直線を基本軸にしているので、肩甲骨と鎖骨の動きを含んだ角度になります。骨にピンを刺して測った研究では、上腕を120°上げるまでのおよそ3分の1が肩甲骨の上方回旋でした。体幹の反りも同じ理由で角度に加わるため、体幹を固定して測ります。前腕の回内・回外は手のひらで測るので、手関節の中での回旋も含まれます。2022年の改訂で上肢の値と軸は変わっていませんが、参考可動域角度は正常値ではありません。年齢や性別による違いと測定の誤差を踏まえ、反対側や以前の値とあわせて読みます。

角度計が示すのは、床への垂直線から上腕骨がどれだけ離れたかという一つの数字です。その中身を分けてみせたのが、鎖骨、肩甲骨、上腕骨にピンを刺してそれぞれの動きを測ったLudewigらの研究と、両腕を上げきったときの胸椎をX線写真で測ったEdmondstonらの研究でした。上腕を120°上げるまでのうち約39°は肩甲骨の上方回旋で、腕を上げきると胸椎も平均12.8°伸展していました。角度計の値を読むときに、肩甲骨の動きを後ろから見て、体幹で補っていないかを確かめるのは、こうした動きが同じ一つの数字に入るからです。

2022年改訂版の表の全体(下肢・体幹を含む)は、日本リハビリテーション医学会のウェブサイトで公開されています。

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参考文献

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