相反抑制:拮抗筋はなぜ同時に縮まないのか

相反抑制:拮抗筋はなぜ同時に縮まないのか

膝の下をたたくと、大腿四頭筋が縮んで膝が伸びます。このとき裏側のハムストリングスは、縮むどころかゆるんでいます。筋紡錘から来る神経線維は、自分の筋の運動ニューロンを興奮させる線維です。その線維が、なぜ拮抗する筋の運動ニューロンを抑えることができるのでしょうか。

この問いに答えが出るまでに、およそ80年かかりました。答えを決めたのは、脊髄の中にある小さな神経細胞1つを狙って発火させた実験と、ヒトの脚で測った約1ミリ秒の遅れです。そして測れるようになったことで、この抑制が痙縮のある人で変わることも見えてきました。

相反抑制の要点

  • 相反抑制:ある筋の筋紡錘からの信号が、その拮抗筋の運動ニューロンを抑えるしくみです。主動筋と拮抗筋が同時に強く縮まないようにしています。
  • 経路:筋紡錘からのIa線維が、脊髄の中で神経どうしをつなぐ抑制性の細胞であるIa抑制性介在ニューロンを1つ介して、拮抗筋の運動ニューロンを抑えます。シナプスを2つ通る2シナプス性の経路です。
  • 発見の流れ:1890年代のシェリントンの観察から、1950年代のエクルズらによる、細胞の中に電極を入れて電位を測る記録、1970年代初めの介在ニューロンの同定へと進みました。
  • ヒトでの測定:神経を電気で刺激して起こす反射であるH反射を使い、拮抗筋の神経を先に刺激すると反射が小さくなることで測ります。安静時のヒラメ筋では平均で約15%小さくなりました。
  • 調節される抑制:抑制の強さは固定ではなく、筋が縮み始める50ミリ秒前から強まるなど、脳からの指令で変わります。
  • 臨床:筋が強く縮み返す痙縮のある人では、抑制が弱まったり、逆に反射が大きくなる促通に変わったりする報告がありますが、回復のよい人ではむしろ強まる報告もあります。

シェリントンが見た「一方が縮むと他方がゆるむ」

英国の生理学者チャールズ・シェリントンは、1893年から、拮抗する筋どうしの働きの関係を調べる論文を発表し始めました。膝蓋腱反射で大腿四頭筋が縮むとき、拮抗するハムストリングスはゆるむ。こうした観察から、彼は、ある筋への興奮と、その拮抗筋への抑制が対になって送られるという考えを示し、これを相反神経支配と呼びました。シェリントンは神経細胞の働きについての発見により、1932年にエイドリアンとともにノーベル生理学・医学賞を受けています(Nobel Prize Outreach 1932)。

ただ、シェリントンの時代には、脊髄の中で何が起きているかを直接見る方法がありませんでした。わかっていたのは、筋紡錘から来る太い感覚神経線維、つまりIa線維が、同じ筋の運動ニューロンを興奮させることです。興奮を運ぶ1本の線維が、どうやって別の運動ニューロンを抑えるのか。この問いが半世紀以上残りました。

直接の抑制か、間に1つの細胞か

1940年代には、筋からの太い感覚線維が拮抗筋の運動ニューロンを、間に細胞をはさまず直接抑えるという考えが出され、「直接抑制」と呼ばれました(Lloyd 1946)。

状況を変えたのは、ニュージーランド、のちにオーストラリアで研究したエクルズらが、ネコの脊髄の運動ニューロンの中に細いガラス電極を刺し入れ、細胞の電位を内側から記録する方法を使い始めたことでした(Brock ら 1952)。1956年には、Ia線維から拮抗筋の運動ニューロンへの抑制が、脊髄の中の介在ニューロン、つまり感覚線維と運動ニューロンの間をつなぐ神経細胞を通るという経路を提唱しています。ただし、この論文の題名にはまだ「直接の抑制作用」という言葉が残っていました(Eccles ら 1956)。エクルズは、神経細胞の膜で興奮と抑制が起こるしくみの研究により、1963年にホジキン、ハクスリーとともにノーベル賞を受けています(Nobel Prize Outreach 1963)。

では、その介在ニューロンはどれなのか。スウェーデンのハルトボーン、ヤンコフスカらは、運動ニューロンの軸索の枝から抑制を受ける介在ニューロンを探しました。そうした介在ニューロン69個のうち67個が、Ia線維からシナプス1つで直接つながる単シナプス性の興奮を受けていました。運動ニューロンに記録されるIa線維からの抑制も同じ刺激で弱まることとあわせて、彼らはこれらの細胞が相反抑制を仲立ちしていると結論しました(Hultborn ら 1971a; 1971b)。

決め手になったのは1972年の実験です。ヤンコフスカとロバーツは、こうした介在ニューロン1個だけを、細い電極から微量のグルタミン酸を与えて発火させ、運動ニューロンの電位を記録しました。すると、Ia線維を刺激したときに2シナプス性の抑制が出る運動ニューロンに、その介在ニューロン1個からの小さな単シナプス性の抑制性電位、つまり細胞を興奮しにくくする方向の電位の変化が現れました(Jankowska と Roberts 1972)。Ia線維と拮抗筋の運動ニューロンの間には、抑制性の介在ニューロンが1つはさまっていたのです(図1)。この細胞はIa抑制性介在ニューロンと呼ばれ、脊髄の灰白質を層に分けたRexedの区分の第VII層、運動ニューロンの集まりのすぐ背側または背内側にあることも確かめられました(Jankowska と Lindström 1972)。

筋紡錘からのIa線維が、主動筋の運動ニューロンを興奮させると同時に、Ia抑制性介在ニューロンを介して拮抗筋の運動ニューロンを抑える回路の図

図1 相反抑制の回路。緑の矢印は興奮、黒い線の先の横棒は抑制を表す。Ia線維から拮抗筋の運動ニューロンまではシナプスを2つ通る。

ヒトの脚で測った1ミリ秒の遅れ

ネコで見つかった回路は、ヒトにもあるのでしょうか。ヒトの脊髄に電極を刺すことはできません。そこで使われたのがH反射です。H反射は、膝の裏で脛骨神経を弱く電気刺激し、Ia線維を通ってヒラメ筋に返ってくる反射を筋電図で記録するものです。拮抗筋である前脛骨筋の神経、つまり腓骨神経を少し前に刺激しておき、ヒラメ筋のH反射が小さくなれば、相反抑制が働いたと考えます。1970年代の初めには、日本の水野、田中、柳澤が、ヒトの下腿三頭筋の運動ニューロンへの相反抑制を報告しています(Mizuno ら 1971)。

1984年、英国のデイらは10人の前腕で、伸筋側の神経の刺激が屈筋のH反射を抑えることを調べ、抑制が最も強くなる時間から、脊髄の中での遅れがH反射そのものより0.95ミリ秒長いと推定しました。彼らは、これは抑制性の介在ニューロンを1つ通るためだと結論しています(Day ら 1984)。1987年には、デンマークのクローネらが健康な60人の足関節で、余分な遅れを約1ミリ秒と計算し、ヒトの相反抑制は、ネコで調べられた2シナプス性のIa抑制と同じものと考えられるとしました(Crone ら 1987)。シナプスを1つ余分に通るぶんの時間が、ヒトの脚でも測れたのです。

ヒラメ筋のH反射の大きさを100とすると、直前に腓骨神経も刺激したときは平均で約85に小さくなることを示す棒グラフ

図2 安静時の相反抑制の大きさ(Crone ら 1987 をもとに作成)。健康な60人で、試験のH反射の大きさと腓骨神経の刺激の強さをそろえて測ると、抑制は平均14.9%、人によって0〜40%だった。

同じ研究は、この抑制が固定されたものではないことも示しました。足首を背屈させ始めるとき、ヒラメ筋への抑制は一時的に強まり、その強まりは筋が縮み始める50ミリ秒前から見られました。縮む前の変化なので、筋からの感覚の情報では説明できず、脳から脊髄への指令によると考えられます(Crone ら 1987)。前腕の研究でも、伸筋を動かす神経を局所麻酔して手首が動かない状態で、手首を伸ばそうとするだけで屈筋のH反射が抑えられました(Day ら 1984)。Ia抑制性介在ニューロンは、Ia線維だけでなく、運動ニューロンの軸索の枝から興奮を受けて働く抑制性の細胞であるレンショウ細胞からも抑制を受けていると考えられています(Hultborn ら 1971a)。

痙縮のある人で何が変わるのか

測れるようになると、痙縮、つまり筋が速く引き伸ばされたときに強く縮み返す状態で、この抑制がどうなっているかが調べられました。多発性硬化症で下肢に痙縮のある39人と健康な74人を比べた研究では、健康な人では、先に与える腓骨神経の刺激と、反射を起こす刺激の間隔が1〜3ミリ秒のときに抑制が見られました。痙縮のある人では同じような抑制が見られた人は少なく、何人かでは間隔が3〜4ミリ秒のときに、むしろ反射が大きくなる促通が見られました(Crone ら 1994)。著者らは、これが痙縮や、歩くときに拮抗する筋が同時に縮むことに関わっている可能性を指摘しています。

脳卒中の片麻痺の人6人と脊髄損傷の人11人を調べた研究でも、健康な人では抑制が出る刺激で促通が出ており、片麻痺の人を追うと、促通はアキレス腱反射が強くなるのと並行して現れました(Crone ら 2003)。一方で、脳卒中の片麻痺の人16人と健康な人26人を比べ、一部の人を経過とともに測った研究では、機能の回復がよく痙縮の軽い人で相反抑制はむしろ強まり、回復が乏しく痙縮の強い人では変わらないか弱まっていました(Okuma と Lee 1996)。痙縮のある人で相反抑制が一律に弱まっているわけではないのです。測る条件も結果を左右し、前腕で調べた小規模な研究では、試験に使うH反射が大きいほど、測れる抑制は小さくなりました(Okuma ら 1999)。

研究対象相反抑制の変化
Crone ら(1994)多発性硬化症39人短い間隔の抑制が見られた人は少なく、促通も出現
Crone ら(2003)片麻痺6人、脊髄損傷11人抑制の代わりに促通が出現
Okuma と Lee(1996)片麻痺16人回復がよいと強まり、痙縮が強いと不変か減少

表1 痙縮のある人の相反抑制を調べた研究

相反抑制を強めることはできるか

抑制が変わるなら、外から強めることはできるのか。健康な人の腓骨神経に、100Hzで10発の短い電気刺激を1.5秒ごとに30分繰り返すと、相反抑制は刺激のあと少なくとも5分強まりました。同じ回数を均等な間隔で与える刺激では変化しませんでした(Perez ら 2003)。慢性期の脳卒中の人12人では、同じような刺激に足首を背屈させる随意的な収縮を組み合わせると、刺激の直後と10分後に相反抑制が強まりました(Takahashi ら 2018)。ただし、強まりが見られたのは10分後までで、この研究が測ったのは相反抑制の大きさであり、歩行や痙縮がよくなるかはわかっていません。

臨床でよく聞く説明にも注意が必要です。伸ばしたい筋の拮抗筋を縮めてから伸ばすストレッチ、たとえば固有受容性神経筋促通法(PNF)のストレッチは、相反抑制で伸ばす筋がゆるむから効く、と説明されることがあります。しかし、総説では、この効果を相反抑制で説明する根拠は乏しいとされ、伸ばされる感覚にどこまで耐えられるかという、伸張への耐性の変化が主な説明として挙げられています(Sharman ら 2006)。

まとめ

相反抑制は、筋紡錘からのIa線維が、Ia抑制性介在ニューロンを1つ介して拮抗筋の運動ニューロンを抑えるしくみです。シェリントンの観察から始まり、ネコの細胞内記録と単一の介在ニューロンの刺激で回路が決まり、ヒトではH反射の約1ミリ秒の遅れで同じ経路が確かめられました。抑制の強さは脳からの指令で変わり、痙縮のある人では弱まる場合も強まる場合もあります。

シェリントンが見ていたのは、筋が縮んだりゆるんだりするという結果だけでした。その間に何個の細胞がはさまっているかは、細胞の中に電極を入れ、1個の介在ニューロンを狙って発火させられるようになって初めてわかりました。そして、0.95ミリ秒や約1ミリ秒という遅れを皮膚の上から測れるようになったことで、ネコの脊髄で見つかった回路が、目の前の患者さんの脚でどう働いているかを確かめられるようになりました。

伸ばされた筋が縮むしくみは「伸張反射:伸ばされた筋が縮むしくみ」、腱からの抑制は「ゴルジ腱器官とIb抑制:「筋を守る安全装置」は本当か」、皮膚からの反射は「屈曲反射と交差性伸筋反射の特徴と役割:引っ込める反射は何をしているか」、筋紡錘への運動神経は「運動神経細胞とα-γ連関:筋紡錘はなぜ運動神経をもつのか」、痙縮の評価は「Modified Ashworth Scale(MAS):点数は痙縮を測っているのか」で解説しています。

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参考文献

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