コホート内症例対照研究:なぜ一部の人だけを調べるのか

コホート内症例対照研究:なぜ一部の人だけを調べるのか

米国の軍では、兵士から2年ごとに血液を採り、凍らせてしまっておきます。20年のあいだに、1,000万人を超える兵士の血液がたまりました。その中には、のちに多発性硬化症という神経の病気になった兵士の、発症するずっと前の血液もありました。研究者たちは、その凍った血液をさかのぼって調べました。最初の血液では、EBウイルスというありふれたウイルスにかかっていなかった兵士が35人いました。その35人のうち34人が、発症する前に、このウイルスにかかっていたのです⁠[1, 2]。

凍った血液がなければ、ウイルスと病気のどちらが先かは分かりませんでした。けれども、1,000万人分の血液をすべて測ることはできません。では、なぜ一部の兵士の血液だけを調べれば足りるのでしょうか。

この記事の要約(押すと開閉します)
  • 定義:コホートの中で、追跡中に病気になった人を全員症例とし、まだ病気になっていない人の一部を対照に選んで、要因を比べる研究。コホートは、時間を追って観察している集団
  • 生まれた経緯:1977年、Liddell、McDonald、Thomasが、カナダの石綿の鉱山と工場で働いた人のコホートを解析した。この研究で、死亡した人ごとに同じコホートから対照を選ぶ方法が示された。似た方法は、1973年にMantelも示していた。1978年にPrenticeとBreslowが、この方法を支える初期の理論を示した。1981年にはOakesが、対照があとで症例になっても解析が成り立つことを示した。1986年にPrenticeが症例コホート研究を提案した
  • 進め方:はじめに血液などの試料や情報を集めて保存しておく。症例が出るたびに、その時点でまだ病気になっていない参加者から対照を選び、症例と対照の試料だけを測る
  • 対照の選び方と人数:症例が病気になった時点で、まだ病気になっていない参加者から選ぶ。あとで症例になる人が対照に選ばれてもよい。マッチングをしたら、そろえた条件を考えに入れて解析する。対照を増やすと結果のぶれは小さくなるが、1人増やすごとの違いはしだいに小さくなる
  • 指標:オッズ比。症例が出た時点ごとに対照を選ぶと、オッズ比は発生率の比を推定する
  • 利点:全員を測るより、測る費用と手間を減らせる。試料は病気の前に採ってあるので、要因が先だったかを確かめやすく、思い出しの偏りが入りにくい
  • 使われる場面:保存した血液で病気の原因の候補を調べるとき。処方の記録を集めたデータベースで、薬の思いがけない害を調べるとき
  • 欠点と限界:土台になるコホートと、保存した試料や記録がなければ行えない。集めていないほかの要因の影響は、取り除けない。試料を採ってから診断までが短いと、病気がすでに始まっていた可能性が残る
  • ほかのデザインとの違い:ふつうの症例対照研究より、対照の出どころと時間の前後がはっきりする。症例コホート研究は、はじめに無作為に選んだ一部の参加者と比べる
  • 論文で確かめる点:観察研究の報告の指針STROBEが求める項目(そろえた条件、症例1人あたりの対照の人数、解析での扱い)。加えて、土台のコホート、試料の採り方と保存、測る人が症例か対照かを知っていたか、試料を採ってから診断までの期間

コホート内症例対照研究とは

コホート内症例対照研究とは、コホートの参加者の中で、追跡中に病気になった人と、まだ病気になっていない人の一部を選び、要因を比べる研究です。コホートは、共通の特徴をもつ人の集団を、時間を追って観察するときの呼び名です。病気になった人を症例、比べるために選ぶ病気になっていない人を対照と呼びます。

コホート内症例対照研究は、英語では nested case-control study(ネステッド・ケース・コントロール・スタディ)といいます。nested は、入れ子になった、という意味です。

症例と対照を選んで要因を比べる点は、症例対照研究と同じです。ただし、コホート内症例対照研究では、症例も対照も、はっきり決まった1つのコホートから選びます。症例は追跡中に出た人を全員使い、対照は、症例が出た時点でまだ病気になっていない人の中から選びます⁠[3]。

コホートの全員について要因を測ると費用と手間がかかりすぎるとき、コホート内症例対照研究が必要になります。たとえば血液の中の物質を測る検査は、1人分ずつ費用がかかります。コホート内症例対照研究は、病気の前ぶれとして体の中で起きていた変化を、保存した血液などで調べる研究に、とくに向いているとされます⁠[3]。

兵士の研究でも、全員の血液を測ったわけではありません。多発性硬化症は、脳や脊髄の神経を包む膜が、免疫のはたらきで傷つく病気です。多発性硬化症になった955人のうち、発症の前の血液が十分に残っていた人は801人でした。対照は症例1人につき2人ずつ選ばれ、血液を調べられた対照は1,566人でした⁠[4]。1,000万人を超える兵士の中から、合わせて2,400人足らずの血液を測ったことになります。

コホート内症例対照研究が生まれるまで

いまのコホート内症例対照研究は、1970年代に考えられた対照の選び方に、その解析が成り立つことを示す理論が加わってできた方法です⁠[5]。症例対照研究の記事では、症例と対照を選んで比べる研究そのものの歴史を説明しています。図1に、主な出来事を年の順に示します。

コホート内症例対照研究が生まれるまでの年表。各行に、そのとき問題になったことと、それに答えた方法を示す。1977年、Liddell、McDonald、Thomas、一般の集団の死亡率を基準にする方法の問題と計算の手間に対して、死亡した人ごとに同じコホートから対照を選ぶ方法を示した。1978年、PrenticeとBreslow、症例と対照の組を比べる解析で扱える要因に制約があったため、Coxの比例ハザードモデルを当てはめ、組ごとに比べる解析を示した。1981年、Oakes、対照があとで症例になって組が重なることに対して、それでも解析が成り立つことを示した。1986年、Prentice、病気ごとに対照を選び直す点に対して、症例コホート研究を提案した。この行だけ灰色

図1 コホート内症例対照研究が生まれるまでの主な出来事。矢印の左はそのとき問題になったこと、右はそれに答えた方法。緑は、いまのコホート内症例対照研究の対照の選び方と解析のもとになった段階。灰色の症例コホート研究は、別の研究デザイン

コホートが大きいと、時間を追ったデータの解析に、多くの計算の費用と時間がかかります⁠[5]。カナダのケベック州では、石綿(アスベスト)の鉱山と工場で働いた人のコホートが追跡されていました。このコホートの死亡数を、一般の集団の死亡率から計算した期待値と比べる方法では、基準にする集団が適切かがいつも問われます⁠[6]。

Liddell(リデル)、McDonald(マクドナルド)、Thomas(トーマス)は、1977年の論文で、石綿のコホートの解析方法を比べました⁠[6]。死亡した人1人ごとに、同じコホートから少数の対照を選んで比べる方法は、基準の集団の死亡率を必要としません。要因どうしの交互作用を調べるのにも、効率のよい方法でした⁠[6]。

McDonaldらは1980年の報告で、死亡した人ごとに対照を選ぶ方法を「Miettinen(ミエッティネン)の方法」と呼んでいます。挙げている文献は、症例1人に複数の対照を組ませる解析を論じた、1969年の論文です⁠[6]。

Thomasは、1977年の論文の補遺で、コホートの中で症例ごとに対照を選んで比べることを、時間を追ったデータの効率のよい解析として提案しました⁠[5]。1973年には、Mantel(マンテル)も、層に分けた解析のために「合成した後ろ向き研究」という似た方法を示していました⁠[5]。

症例と対照の組を比べる当時の解析には、扱える要因に制約がありました⁠[7]。英国の統計学者Cox(コックス)は1972年に、病気や死亡が起きるまでの時間を解析する、比例ハザードモデルを示していました⁠[8]。1978年、米国の研究者Prentice(プレンティス)とBreslow(ブレスロー)は、このモデルを、症例と対照を選ぶ研究に当てはめました。

PrenticeとBreslowの方法では、いくつもの要因と病気の発生率の関係を、同時に調べられます⁠[8]。のちにBreslowとDay(デイ)は、この論文を、症例が出るたびに対照を選ぶ方法を支える、初期の理論の議論としています⁠[5]。

PrenticeとBreslowの初期の理論は、対照の候補が限りなく多く、あとで病気になる人が対照に選ばれることはない、と仮定していました。しかし実際には、ある年齢で対照に選ばれた人が、のちに症例になったり、再び対照に選ばれたりします。そのため、重なりのある組の情報を、互いに独立したものとして合わせてよいのか、という懸念が生じました⁠[5]。

Oakes(オークス)は1981年の論文で、組が重なっていても、症例ごとに対照を選ぶ解析が成り立つことを示しました。人数が十分に多ければ、この解析で求めた推定値と標準誤差も、全員のデータを使う解析と同じように妥当です。1984年のCoxとOakesの本も、同じ結論を示しています⁠[5]。

1986年、Prenticeは、はじめに無作為に選んだ一部の参加者と、すべての症例についてだけ要因の情報を集める、症例コホート研究を提案しました⁠[9, 10]。はじめの時点で対照を選んでおく考え方は、1975年にKupper(カッパー)らも示していました⁠[11]。

Sharp(シャープ)らは、コホート内症例対照研究と比べた症例コホート研究の利点を2つ挙げています。症例が見つかる前から測定を始められることと、病気ごとに対照を選び直さなくてよいことです⁠[10]。

次の節から説明する知識のうち、症例が出た時点で対照を選ぶ方法は、1970年代に、大きなコホートを効率よく解析する工夫として示されました⁠[5]。BreslowとDayは、この方法を1977年のThomasの提案として紹介し、1973年のMantelの似た方法も挙げています⁠[5]。

症例が出た時点で対照を選ぶと、オッズ比は、発生率の比を推定します。このことは、1978年にPrenticeとBreslowが示し、1982年にGreenland(グリーンランド)とThomasが広げました⁠[11]。対照があとで症例になってもよい点は、Oakesらが確かめています⁠[5]。症例コホート研究は、1986年にPrenticeが、名前と解析の方法とともに提案した研究デザインです⁠[9]。

コホート内症例対照研究の進め方

コホート内症例対照研究は、試料を保存したコホートを追い、症例が出るたびに対照を選び、症例と対照の試料だけを測るという順で進めます。その流れを図2に、手順を表1に示します。

コホート内症例対照研究の流れの模式図。10人の参加者全員から、はじめに試料を採って保存する。時間の流れの中で、3番、7番、9番の人が病気になり、症例になる。症例が出るたびに、その時点でまだ病気になっていない参加者から対照を2人ずつ選ぶ。7番の人は、3番の人が症例になったときに対照に選ばれ、その後に症例になっている

図2 コホート内症例対照研究の流れ。塗りの丸が症例、白抜きの丸が対照。症例が出るたびに、その時点でまだ病気になっていない参加者から対照を選ぶ。7番の人は、対照に選ばれたあとで症例になっている。保存した試料を測るのは、症例と対照だけ(文献3、11をもとに作成した模式図)

手順行うこと
1 コホートをつくる参加者を集め、はじめに血液などの試料と、生活習慣などの情報を集める。試料は凍らせて保存する
2 症例を見つける決めた期間に病気になった人を、決めた基準ですべて見つける
3 対照を選ぶ症例が病気になった時点で、まだ病気になっていない参加者から選ぶ。年齢や性別、試料を採った時期などをそろえることが多い
4 試料を測る症例と対照の保存した試料だけを測る。測る人には、症例か対照かを知らせない
5 比べる症例と対照で要因を比べ、オッズ比を求める。そろえた条件を考えに入れた解析をする

表1 コホート内症例対照研究の進め方(文献3、11、12をもとに作成)

兵士の研究では、症例1人につき、発症の前に採った血液を3つまで使いました。対照は、性別、年齢、人種、軍の種類、血液を採った日がそろうように選ばれました⁠[4]。症例と対照の血液を同じ時期のものにそろえると、保存していた年数の違いが結果に混ざりにくくなると考えられます。

対照の選び方と人数

コホート内症例対照研究の対照は、症例が病気になった時点で、まだ病気になっていない参加者から選びます。症例が出るたびに対照を選ぶこの方法は、論文では発生密度抽出やリスク集合からの抽出と呼ばれます⁠[11]。

症例が出るたびに対照を選ぶ方法では、ある時点で対照に選ばれた人が、あとで症例になることがあります。図2の7番の人が、その例です。対照は、選ばれた時点で病気でなければよく、その後もずっと病気にならない人である必要はありません⁠[11]。

対照は、年齢や性別などをそろえて選ぶことが多くあります。このようにそろえることを、マッチングと呼びます。マッチングをしたら、そろえた条件を考えに入れた解析をする必要があります。その理由は、症例対照研究の記事で説明しています。

対照の人数も決める必要があります。症例1人あたりの対照を増やすと、結果のぶれは小さくなりますが、1人増やすごとの違いはしだいに小さくなります。Ury(ユーリー)は、症例1人につける対照の人数と、効率の関係を式で示しました⁠[13]。

Uryの式の効率は、結果のぶれの小ささを比べた値です⁠[13]。症例と対照の値のばらつきが同じで、要因の影響が小さいという条件のもとで、この式から計算しました。対照を限りなく増やしたときを100%とすると、対照1人で50%、4人で80%になります(図3)。

症例1人あたりの対照の人数と効率の棒グラフ。対照を限りなく増やしたときの効率を100%とすると、対照1人で50%、2人で67%、3人で75%、4人で80%、5人で83%、10人で91%

図3 症例1人あたりの対照の人数と効率。対照を限りなく増やしたときの効率を100%として示した。人数が増えるほど、増え方は小さくなる。症例と対照の値のばらつきが同じで、要因の影響が小さいという条件のもとでの値(文献13の式から計算)

コホート内症例対照研究のオッズ比

コホート内症例対照研究では、症例と対照の要因を比べて、オッズ比を求めます。オッズ比は、要因のある人の数をない人の数で割ったオッズを、症例と対照で比べた値です。1より大きければ、症例のほうが要因のある人の割合が高いことを表します。計算のしかたと読み方は、オッズ比の記事で説明しています。

対照の選び方によって、オッズ比の意味が変わります。症例が出るたびに、その時点でまだ病気になっていない参加者から対照を選ぶと、オッズ比は、コホート全体での発生率の比の推定値になります⁠[11]。発生率は、病気が起きた数を、観察した期間の合計で割った値です。たとえば、100人を2年ずつ観察すれば、期間の合計は200人年になります。

相対危険度は、決まった期間に病気になった人の割合を比べるので、人年で割る発生率の比とは少し違います。オッズ比と相対危険度の関係は、コホート研究(前向き・後ろ向き)と症例対照研究の違いの記事で説明しています。

コホート内症例対照研究の利点

コホート内症例対照研究の利点は、全員を測るのに比べて、測る費用と手間を減らせることです。Ernster(アーンスター)は、多くの問いでは、費用と手間を大きく減らせる可能性があると述べています。それでいて、全員を測った場合と比べても、結果のぶれは少し大きくなるだけですむ、としています⁠[3]。

もう1つの利点は、時間の前後です。試料が病気の前に採られているので、要因が病気より先だったかを確かめやすくなります。兵士の研究では、症例801人が発症の前に最後に採った血液は、中央値で発症のおよそ1年前のものでした。その血液で、EBウイルスにかかった跡がない人は1人だけでした⁠[2]。

EBウイルスは、兵士の最初の血液の95%に、すでにかかった跡があるほどありふれたウイルスです⁠[2]。そのため研究者たちは、最初の血液ではかかっていなかった35人に注目しました。発症は、EBウイルスにかかったと推定される時期から、中央値でおよそ7.5年後でした⁠[2]。

神経が傷つくと血液中に増える物質も、EBウイルスにかかったあとにだけ増えていました⁠[1]。神経が傷つき始めたのも、感染のあとだったと考えられます。同じようにうつるサイトメガロウイルスでは、追跡中に新たにかかった割合は、症例と対照で同じくらいでした⁠[4]。

最初の血液で感染していなかった兵士では、その後EBウイルスにかかった人の多発性硬化症の危険が、かからなかった人の32倍でした⁠[1]。ただし、この数字は、35人の症例と107人の対照から求めたもので、もとになる症例は多くありません⁠[4]。

要因は病気になる前の試料で測るので、病気になった人が過去を思い出すときの偏りは入りにくくなります。

コホートに参加したときに、生活習慣などの情報を調査票で集めておけば、それらの影響を、解析である程度調整できます。調整とは、年齢や喫煙のように、要因と病気の両方に関係するほかの要因の影響を、計算で取り除こうとすることです。

保存した試料は、あとから生まれた問いにも使えます。兵士の血液は、2005年にはEBウイルスの抗体の量と多発性硬化症の関係を調べる研究に使われました⁠[14]。2006年にはビタミンDの研究に⁠[15]、2022年には、EBウイルスにかかった時期と発症の前後を調べる研究に使われています⁠[1]。兵士の保存した血液からは、問いのたびに症例と対照を選んで、研究が重ねられてきました。

病気の前の試料を、同じコホートから選んだ症例と対照で比べることは、ふつうの症例対照研究で見つかった関係を確かめ直すときにも役立つと考えられます。血液中のホモシステインというアミノ酸と、心臓の血管の病気である冠動脈疾患の関係が、その例です。Essebag(エスバグ)らは、この分野の研究をまとめています。初期の症例対照研究が示した強い関係を、コホート内症例対照研究は確かめませんでした⁠[16]。

Essebagらは、初期の研究に偏りが入っていた可能性を挙げています。対象の選び方の偏り、結果が出版されるかどうかの偏り、そして、病気になったことで値が変わる逆の因果などです。この結果をもとに、国内外の組織は、ホモシステインを決まった検査として測ることを勧めませんでした⁠[16]。

コホート内症例対照研究が使われる場面

コホート内症例対照研究は、保存した血液で病気の原因の候補を調べるときや、診療の記録で薬の思いがけない害を調べるときに使われます。Essebagらは、心臓の病気の分野のコホート内症例対照研究を、2000年までの77本について調べました。その数は年々増えていました⁠[16]。

保存した試料ではなく、診療の記録を使った例があります。Yang(ヤン)らは、英国の一般医の診療記録を集めたデータベースを使いました。胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬という薬と、脚の付け根の骨折である大腿骨近位部骨折の関係を調べた研究です⁠[17]。

Yangらのコホートは、50歳を超える人のうち、プロトンポンプ阻害薬を使った人と、胃酸を抑える薬を使っていない人です。そこから骨折した13,556人を症例とし、症例が出るたびに選んだ135,386人を対照としました⁠[17]。

Yangらの研究では、薬を1年を超えて処方されていた人の骨折のオッズ比は、使っていない人と比べ、ほかの要因を調整して1.44でした。結果のぶれの幅を示す95%信頼区間は1.30〜1.59で、下限も1を上回っていました。処方の期間ごとに分けると、1年で1.22、4年で1.59でした。プロトンポンプ阻害薬を処方されていた期間が長いほど、骨折のオッズ比は大きくなっていました⁠[17]。

プロトンポンプ阻害薬と骨折の関係は、研究者が薬を割り当てずに記録を調べる観察研究で見つかったもので、薬が骨折の原因だと確かめたものではありません。大腿骨の骨折は、リハビリテーションで担当することの多いけがです。薬の害の疑いは、このように多くの人の記録から見つかることがあります。

コホート内症例対照研究の欠点と限界

コホート内症例対照研究の限界は、土台になるコホートと、保存した試料や記録がなければ行えないことです。コホートを作るには、多くの人を集めて長く追う必要があり、前向きコホート研究と同じだけの時間と費用がかかります。試料を集めて凍らせ、何年も保管する手間もかかります。

保存した試料では、試料に残っているものしか測れません。ほかの要因のうち、コホートに参加したときに集めていないものの影響は、あとから解析で取り除けません。

時間の前後にも注意が要ります。試料を採ってから診断までが短いと、試料を採ったときに病気がすでに始まっていた可能性が残ります。乳がんと、血液中の有機塩素化合物を調べた2つの研究が、その例です。有機塩素化合物は、DDTという殺虫剤が分解してできるDDEや、電気機器の絶縁などに使われたPCBのような化学物質です。

Wolff(ウォルフ)らは、ニューヨークの女性14,290人のコホートで、保存していた血液から、症例と対照の分だけを測りました。症例は、コホートに入ってから1〜6か月の間に乳がんと診断された58人で、対照は171人です。測る人には、症例か対照かを知らせずに測りました。その結果、DDEの値が高い人ほど、乳がんの危険が高くなっていました。PCBでは、はっきりした関係は見られませんでした⁠[12]。

4年後、Hunter(ハンター)らは、240人の症例で同じ関係を調べました。症例は、1989年か1990年に血液を採り、その後、1992年5月までに乳がんと診断された女性です。DDEもPCBも、乳がんの危険を高めるという結果にはなりませんでした⁠[18]。

Wolffらの研究とHunterらの研究は、人数も、集めた女性も違います。そのため、結果が分かれた理由を1つには決められません。それでも、1〜6か月という短い間では、がんがすでにあって、それが血液の値に影響した可能性を否定しにくい、と考えられます。

対照は、症例の病気ごとに選ぶので、別の病気を調べるときは、対照を選び直す必要があります。この点は、次の節の症例コホート研究と違います。

ほかの研究デザインとの違い

コホート内症例対照研究は、症例対照研究の選び方を、決まった1つのコホートの中で使う研究です。前向きコホート研究の全員を解析する方法とも、症例コホート研究とも、選び方が違います。違いを表2にまとめました。

研究デザインコホート内症例対照研究との違い
症例対照研究症例と対照を、病院や地域などから集める。対照がどの集団を表すかを決めにくいことがあり、要因は、思い出しや過去の記録でさかのぼって調べることが多い
前向きコホート研究の全員の解析コホートの全員の要因を測って比べる。全員を測るので、結果のぶれは最も小さいが、測る費用と手間がかかる。コホート内症例対照研究は、その一部だけを測る
症例コホート研究コホートが始まったときに無作為に選んだ一部の参加者と、すべての症例を比べる。同じ一部の参加者を、別の病気の研究にも使いやすい

表2 コホート内症例対照研究とほかの研究デザインの違い(文献3、11、19をもとに作成)

症例コホート研究は、コホートが始まったときに参加者の一部を無作為に選んでおき、追跡中に出たすべての症例と比べます。はじめに選んだ同じ参加者を、あとで別の病気の研究にも使いやすいことから、症例コホート研究が選ばれることがあります⁠[19]。

論文で確かめる点

コホート内症例対照研究の論文では、観察研究の報告の指針STROBE(ストローブ)が求める項目が書かれているかを確かめます⁠[20]。STROBEは、マッチングをした症例対照研究では、そろえた条件、症例1人あたりの対照の人数、解析での扱いを書くよう求めています⁠[21]。これらに加えて、表3の点を確かめます。

確かめること見る場所と理由
土台のコホート誰を、いつ、どう集めたか。参加者が限られた人たちなら、結果を当てはめられる範囲も限られる
試料や記録の集め方いつ採り、どう保存したか。保存の条件によって、測る値が変わることがある
症例の決め方病気をどう確かめたか。決めた期間の症例を、すべて含めたか
対照の選び方と人数症例が出た時点で、まだ病気でない人から選んだか。そろえた条件と、症例1人あたりの対照の人数
測り方測る人が、症例か対照かを知らずに測ったか。症例と対照の試料を、同じ方法で測ったか
採ってから診断までの期間短いと、試料を採ったときに病気がすでに始まっていて、値に影響した可能性がある
解析そろえた条件を考えに入れた解析か。ほかの要因を、どう測ってどう調整したか

表3 コホート内症例対照研究の論文で確かめる点(文献20と 文献21の症例対照研究の項目、文献3、12をもとに作成)

まとめ

米軍が2年ごとに採っていた兵士の血液は、凍らせて残されていました。そのおかげで、病気になる前の体の様子を、何年もあとから確かめられました。1,000万人を超える兵士の中から、症例と、症例が出た時点でまだ病気でなかった対照を選びました。2,400人足らずの血液を測るだけで、ウイルスにかかったのが発症より先だったことが分かりました。

症例が出るたびに対照を選ぶいまの方法は、解析の手間や基準にする集団の問題に答える工夫として1970年代に考えられ、のちに理論で確かめられました。コホート内症例対照研究は、測る人数を減らしても、コホートの時間の流れを保ったまま比べられる研究です。

乳がんの2つの研究のように、試料を採ってから診断までが短いと、時間の前後ははっきりしません。保存した試料が、診断のどれだけ前に採られたものか。その長さによって、要因が病気より先だったと言える強さが変わります。

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参考文献

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