あるバランス検査で、パーキンソン病の3人は、崩された体勢を立て直す「姿勢の反応」の課題で最も点数が低くなりました。一方、内耳の平衡感覚を担う機能が片側で障害された人は、目を閉じて柔らかい台の上に立つ課題などを含む「感覚の定位」で最も点数が低くなりました。検査を開発したFay Horak(フェイ・ホーラック)らは、この違いが、病気によって弱くなるしくみが異なるという考えに合うとしました[1]。しかし、別の研究でパーキンソン病の80人を調べると、「姿勢の反応」の点数は、ほかの課題のまとまりに比べて目立って低いわけではありませんでした[2]。
BESTest(ベステスト)は、Horakらが開発したバランス検査で、短縮版にMini-BESTest(ミニベステスト)があります。BESTestは、バランスを1つの能力ではなく、いくつものしくみが関わり合って成り立つものとして捉え、どのしくみが弱いかを見つけるために作られました。課題のまとまりごとの点数は、どのしくみが弱いかを本当に示しているでしょうか。
この記事の要約(押すと開閉します)
- BESTestとは:バランスを支える6つのしくみを、6つのセクション、36項目で調べる検査。短縮版には、14項目のMini-BESTestと、6つの課題からなるBrief-BESTestがある
- 開発の経緯:Horakらは、それまでのバランス評価は、バランスに問題のある人を見つけたり、転倒の危険を予測したりするためのもので、治療方法を決める助けにはならないと指摘した。2009年、姿勢の制御は多くのしくみが関わり合うことで成り立つという考えにもとづき、BESTestを開発した
- 採点方法:BESTestは各項目を0〜3点で採点し、総点とセクションごとの点数を、満点に対する割合で示す。Mini-BESTestは各項目を0〜2点で採点し、満点は28点。ただし、初期の研究には32点満点で報告したものもある
- セクションの点数:BESTestの6つのセクションが、それぞれ別のしくみを測っているかは、まだ確かめられていない。パーキンソン病の709人を調べた研究は、Mini-BESTestの4つのセクションの小計を別々に報告しないよう勧めている
- 転倒のカットオフ値:Mini-BESTestで転倒の危険を判定する点数の区切りは、研究によって異なる。28点満点で1つのカットオフ値を示した研究では、15〜23点だった。カットオフ値は、調べた対象によって変わる可能性がある
- 点数の変化の目安:パーキンソン病や脳卒中などを対象とした研究では、Mini-BESTestの臨床的に意味のある最小差は3.4〜4点だった
- 検査の使い分け:治療後に満点になる人は、Berg Balance ScaleよりMini-BESTestで少なかったという研究がある。一方、バランス能力が低い人では、Mini-BESTestの点数が最低点の近くに集中することがある
BESTestとは
BESTest(Balance Evaluation Systems Test)は、バランスを支える6つのしくみを、セクションごとに調べる検査です[1]。全部で27の課題があり、左右で行う課題などを別々に数えると36項目になります。開発者は、バランスが悪くなる原因として、どのしくみに問題があるかを見分け、そのしくみに合わせて治療を選べるようにすることを目指しました。
BESTestは、「生体力学的な制約」「安定性の限界と垂直性」「予測的な姿勢の調整」「姿勢の反応」「感覚の定位」「歩行中の安定性」という6つのセクションに分かれています(表1)。
たとえば「感覚の定位」では、立つ面の硬さや傾き、目を開けるか閉じるかといった条件を変え、立った姿勢を保てるかを調べます。
| セクション | 調べること |
|---|---|
| 生体力学的な | 足の |
| 安定性の | 足の |
| 予測的な | 座った |
| 姿勢の | 検者が |
| 感覚の | 目からの |
| 歩行中の | 普通に |
表1 BESTestの6つのセクションと、それぞれが調べること(文献1、2をもとに作成)
BESTestの短縮版には、14項目のMini-BESTestと、6つの課題からなるBrief-BESTest(ブリーフベステスト)があります[3, 4]。
Mini-BESTestは、BESTestの6つのセクションのうち、「予測的な姿勢の調整」「姿勢の反応」「感覚の定位」「歩行中の安定性」という4つのセクションから項目を選んでいます[3]。一方、Brief-BESTestは、6つのセクションから1つずつ課題を選んでいます[4]。
検査にかかる時間は、原典ではBESTestが20〜30分、Mini-BESTestが10〜15分と報告されています[1, 3]。
BESTestの信頼性については、神経疾患のある人を対象とした36件の研究、計1,749人の結果をまとめたシステマティックレビューがあります。このレビューでは、総点の信頼性を表す級内相関係数(ICC)は0.96〜0.98で、高い値でした[5]。
同じレビューは、次の3点についても、質の高い根拠があると評価しています[5]。検査の課題が測ろうとする内容を含んでいること、ほかの検査の点数と予想どおりの関係があること、そして介入による変化を捉えられることです。
BESTestと短縮版が生まれるまで
1987年、Horakは、姿勢の制御を臨床で効果的に測る方法が、まだ開発されていないと指摘しました[6]。そして、検査を作る際に考えるべきことを整理し、姿勢の制御を評価するために、3つの要素に分けました。生体力学的な要素、運動の協調、感覚の組織化です[6]。
1989年、Horakらは、高齢者のバランスの問題が人によって異なる理由を理解しようとしました。加齢によってバランス能力が全体的に低下すると考えるのではなく、バランスを支える複数の要素に分けて考える方法を示しました[7]。
2006年の総説でHorakは、姿勢の制御は、もはや静的な反射を単純に組み合わせたものとは考えられていないと述べました[8]。感覚と運動の働きが動的に関わり合う、複雑な技能だというのです。姿勢の制御には多くの生理的なしくみが関わっており、どのしくみに障害が起こるかによって、異なる状況で異なる形の不安定さが現れると説明しています[8]。
2009年、Horakらは、それまでのバランス評価では治療方法を選ぶための情報が得られないことを問題とし、BESTestを発表しました[1]。
Horakらによると、当時の標準的なバランス評価は、バランスに問題のある人を見つけ、特に高齢者の転倒の危険を予測するためのものでした。どのような治療を行うべきかを判断するために作られたものではなかったのです[1]。
Horakらは、BESTestより前の運動制御のモデルでは、姿勢の制御を、階層的に組み立てられた立ち直り反射と平衡反射によるものと捉えていたと説明しています。これに対して、運動の協調を研究したBernstein(ベルンシュタイン)は、姿勢の制御は、複数のしくみが関わり合うことで生まれると考えました。Horakらは、このBernsteinの考え方にもとづいてBESTestを開発しました[1]。
BESTestは、それまで臨床で使われていた課題に、新しい課題を加えて作られました[1]。
Berg Balance Scale(バーグバランススケール)は、立ち上がりや片脚立ちなど、14の課題でバランスを調べる検査です。BESTestには、この検査の課題を一部修正して取り入れたものがあります[3]。歩行中のバランスを調べるDynamic Gait Index(ダイナミックゲイトインデックス)から取り入れた課題もあります[3]。
BESTestの短所は、検査に時間がかかることでした。原典では20〜30分と報告されていましたが[1]、Franchignoni(フランキニョーニ)らは約35分かかると報告し、そのために日常的に使いにくくなると指摘しました[3]。
一方、Berg Balance Scaleなどの短い検査にも、調べられないことがありました。体勢を崩されたときの反応や、柔らかい面や傾いた面に立ったときのバランスを調べる課題が含まれていませんでした。また、考えごとをしながら歩く課題もありませんでした[3]。
2010年、Franchignoniらは、バランス障害のある115人のBESTestのデータを分析しました[3]。
分析には、項目どうしの点数の関係から、どの項目がまとまりを作るかを調べる因子分析と、項目が1つの尺度としてまとまっているかを調べるRasch(ラッシュ)分析を使いました。この結果をもとに、BESTestの36項目から14項目を選び、Mini-BESTestを開発しました[3]。
選ばれた14項目は、「動的バランス」という1つの能力を測る尺度としてまとめられました[3]。動的バランスとは、動作中や体勢が崩れたときに姿勢を保つ能力です。
2012年、Padgett(パジェット)らは、BESTestだけでなくMini-BESTestも、検査に時間がかかると指摘しました[4]。
さらに、Mini-BESTestには、BESTestの6つのセクションのうち、「生体力学的な制約」と「安定性の限界と垂直性」の項目が含まれていません[2]。このため、Padgettらは、Mini-BESTestはBESTestの理論と一致していないと考えました。そこで、BESTestの6つのセクションから1つずつ課題を選び、Brief-BESTestを開発しました[4]。
姿勢の制御を複数のしくみに分けて考える方法は、バランス評価を比較する際にも使われています。
ある研究では、成人のバランスを測る66の標準化された評価について、姿勢の制御を構成するしくみの枠組みに照らして、何を調べているかを比較しました。その結果、枠組みで挙げられたすべての要素を調べていた評価は、BESTestだけでした[9]。

図1 BESTestと短縮版が生まれるまで。各研究で何が問題とされ、それに対してどのような方法が示されたのかを、「問題 → 方法」の形でまとめた(文献1、3、4、6–8をもとに作成)
BESTestとMini-BESTestの測り方
BESTestは、各項目を0〜3点の4段階で採点します[1]。0点が最も悪く、3点が最もよい成績です。36項目の満点は108点で、総点と各セクションの点数は、満点に対する割合で示します[1, 2]。
検査の手順、採点基準、検者と患者への指示は、原典の論文の付録に載っています[1]。
Mini-BESTestは、14項目を0〜2点の3段階で採点し、満点は28点です[3, 10]。左右それぞれで行う2つの課題については、原典では成績の悪い側だけを採点に使っています[3]。
ただし、初期の研究には、14項目のうち2つの項目に点を2つずつつけ、32点満点として報告したものがあります[2, 11]。そのため、研究で報告された点数を比較するときは、28点満点か32点満点かを確認する必要があります。
32点満点で報告した2つの研究は、どちらも同じパーキンソン病の80人を対象としています。筆者は、点を2つずつつけた2つの項目は、原典では成績の悪い側だけを採点に使っていた左右の課題だと考えます。
パーキンソン病の709人を対象とした研究では、Mini-BESTestの6つの採点モデルを比較しました[10]。その結果、原典どおりの28点満点の総点を使うモデルが、妥当性と信頼性で最も高い評価を得ました。また、このモデルは、転倒した人を最もよく見分けました。
Mini-BESTestの14項目は、4つのセクションに3〜5項目ずつ分かれています(表2)。
| セクション | 課題 |
|---|---|
| 予測的な | 椅子から |
| 姿勢の | 検者が |
| 感覚の | 目を |
| 歩行中の | 歩く |
表2 Mini-BESTestの4つのセクションと課題(文献3をもとに作成)
Brief-BESTestは、6つの課題で構成されています。片脚立ちなど、左右それぞれで行う課題は別々に採点するため、採点する項目は全部で8つになります[12]。各項目は0〜3点で、満点は24点です[12]。
BESTestの6つのセクションの点数
BESTestの6つのセクションの点数が、それぞれ別のしくみの弱さを表しているかは、まだ確かめられていません[5]。
BESTestを発表した論文では、パーキンソン病の3人と、片側に前庭障害のある2人の点数を比較しました[1]。前庭障害とは、内耳にある平衡感覚を担う器官の障害です。この比較では、統計的な検定は行われていません。
前庭障害のある人では「感覚の定位」が60%、パーキンソン病の人では「姿勢の反応」が50%で、それぞれ6つのセクションの中で最も低い点数でした[1]。
Horakらは、この結果をもとに、セクションの点数に応じた練習の選び方を例示しました[1]。その例では、パーキンソン病の人には、体勢を崩されたときに足を踏み出して姿勢を立て直す練習を選びます。一方、片側に前庭障害のある人には、残っている前庭機能からの情報を利用する条件で練習を行います。
ただし、Horakらは同じ論文で、各セクションがそれぞれ異なるバランス障害を正しく捉えているかどうかは、今後の研究で確かめる必要があると述べています[1]。
2011年、Leddy(レディ)らは、パーキンソン病の80人を対象にBESTestを調べました[2]。この研究では、「生体力学的な制約」が59%で最も低い点数でした。「姿勢の反応」は68%で、ほかのセクションに比べて目立って低いわけではありませんでした。「予測的な姿勢の調整」から「歩行中の安定性」までの4つのセクションは、68〜75%の範囲でした。
なお、この研究では、「姿勢の反応」と「感覚の定位」の検査方法を一部変更しています[2]。
Leddyらの研究では、転倒した人と転倒しなかった人の点数にも違いがありました。ただし、その違いは特定のセクションだけに見られたのではなく、6つのセクションすべてに見られました[2]。
Leddyらは、この結果から、パーキンソン病の主なバランス障害を、1つのセクションだけで表すことは勧められないとしました。また、セクションの点数を一人ひとりの治療方針を決めるために使えるかどうかも、まだわからないと述べています[2]。
BESTestの項目が、実際にどのようなまとまりを作るのかを調べた研究もあります。因子分析では、項目は開発者が想定した6つのセクションのとおりには分かれませんでした(図2)。
Mini-BESTestを開発した研究では、BESTestの項目から3つの因子が見つかりました[3]。1つ目の因子には24項目、2つ目には4項目、3つ目には3項目がまとまりました。残りの5項目は、どの因子にも入りませんでした。
自分で歩ける脳卒中の140人の記録を後から分析した研究でも、項目のまとまりは6つのセクションと一致しませんでした。この研究では、ほかの項目との相関が低い11項目を除くと、残りの25項目は4つの因子に分かれました[13]。
4つの因子は、「歩行中の動的な姿勢の制御」「静的な姿勢の制御」「足を踏み出す反応」「座位での安定性の限界」でした[13]。
神経疾患の人を対象とした36件の研究をまとめたシステマティックレビューも、BESTestの構造について検討しています[5]。このレビューは、項目が想定どおりのまとまりに分かれるかを表す「構造的妥当性」について、十分な根拠がないと結論しました。そして、BESTestがいくつの異なるバランスの構成概念を測っているのかを、まだ確かに言うことはできないとしています[5]。
一方、このレビューは、限られた研究結果から、BESTestは開発者の想定した6つではなく、4つのしくみを測っている可能性を示しました[5]。その4つとは、「姿勢の反応」「感覚の定位」「歩行中の安定性」「安定性の限界」です。
ただし、4つのしくみという結果も、確定したものではありません。レビューは、BESTestがいくつのしくみを測っているのかを、今後の研究で確かめる必要があるとしています。具体的な方法として、300人以上を対象とした確認的因子分析を挙げています[5]。

図2 BESTestの6つのセクションと、項目のまとまりを調べた研究の結果。筆者が整理した。Franchignoniらはバランス障害のある115人、Miyataらは自分で歩ける脳卒中の140人を対象に因子分析を行った。Arcolinらは、神経疾患に関する36件の研究をまとめたレビューで、それまでの限られた研究からBESTestが測っている可能性のあるしくみを挙げた。緑の枠は、1つの因子、または測っている可能性のある1つのしくみを示す。青の枠は主に1つのセクションに対応する因子、橙の枠は複数のセクションの項目が混ざった因子を示す。灰色の枠は、どの因子にも入らなかった項目と、レビューで挙げられなかったセクションを示す。因子の番号と名称は、それぞれの研究に従った[3, 5, 13]
Mini-BESTestについても、4つのセクションの小計を別々に扱うことには問題が指摘されています[10]。
パーキンソン病の709人を対象とした研究では、Mini-BESTestの項目を4つの因子に分けたモデルを調べました[10]。その結果、「予測的な姿勢の調整」の因子は、「感覚の定位」および「歩行中の安定性」の因子と、いずれも0.85以上の高い相関を示しました。また、小計の半分は、信頼性が低い値でした。
因子どうしの相関が高いと、それぞれが異なる能力を測っているとは判断しにくくなります。
Godi(ゴーディ)らは、この709人の結果から、Mini-BESTestの4つの小計では、バランスの異なる側面を別々に測ることはできないと判断しました。そして、パーキンソン病の人では、セクションの小計を別々に報告せず、総点だけを使うよう勧めています[10]。
では、セクションの点数に合わせて練習を選ぶと、そうしない場合よりもバランスが改善するのでしょうか。
セクションの点数に合わせた練習と、合わせない練習の効果を直接比較した研究は、まだ報告されていません。
BESTestを使って一人ひとりに練習内容を合わせた試験には、成人の脳性まひ17人を対象とする、小規模な予備的試験があります[14]。
Morgan(モーガン)らによるこの試験では、BESTestに合わせた練習と、座って行う活動を比較しました。その結果、8週後と24週後のBESTestの総点には、2つの群の間でほとんど差がありませんでした[14]。
健康な人の年代ごとの点数
健康な人では、年齢が高いほど、BESTest、Mini-BESTest、Brief-BESTestの点数が低くなる傾向が見られました[15, 16]。年代ごとの点数は、患者の成績を同じ年代の健康な人と比べる際の目安になります。
カナダの健康な50〜89歳の79人を調べた研究では、3つの検査のいずれも、年代によって点数に統計的に有意な差がありました[15]。
イランの健康な18歳以上の300人を調べた研究では、Mini-BESTestの点数の中央値は、18〜29歳で27点、70歳以上で23点でした[16]。
Brief-BESTestの中央値は、同じ2つの年代で、それぞれ23点と15点でした(表3)。
| 年代 | Mini-BESTest | Brief-BESTest |
|---|---|---|
| 18〜29歳 | 27点 | 23点 |
| 30〜39歳 | 27点 | 23点 |
| 40〜49歳 | 27点 | 22点 |
| 50〜59歳 | 26点 | 22点 |
| 60〜69歳 | 25点 | 20点 |
| 70歳以上 | 23点 | 15点 |
表3 健康な成人300人の年代ごとのMini-BESTestとBrief-BESTestの中央値(文献16をもとに作成)。対象はイランの成人で、各年代50人。Mini-BESTestは28点満点、Brief-BESTestは24点満点
Mini-BESTestの転倒のカットオフ値
Mini-BESTestには、転倒した人や転倒の危険が高い人を見分けるために、点数の区切りとなる「カットオフ値」があります。ただし、その値は研究によって異なります。28点満点で1つのカットオフ値を示した研究では、15〜23点でした(図3)。
Duncan(ダンカン)らは、カットオフ値は調べる対象によって変わる可能性が高いため、目安として慎重に使うよう述べています[11]。
カットオフ値を求める方法には、大きく分けて2つあります。1つは、過去に転倒したかどうかで対象者を分け、その違いから値を求める方法です。もう1つは、検査後に対象者を追跡し、実際に転倒したかどうかから値を求める方法です。
健康な高齢者200人を調べた研究では、過去12か月間に転倒したかどうかをもとに、カットオフ値を求めました[17]。その結果、カットオフ値は16点で、感度は85%、特異度は75%でした。
感度とは、転倒した人のうち、検査で転倒の危険が高いと判定された人の割合です。特異度とは、転倒しなかった人のうち、検査で危険が低いと判定された人の割合です。
パーキンソン病の人を対象とした研究では、検査後6か月間の転倒を追跡した59人で、カットオフ値は21点でした[18]。一方、過去の転倒歴をもとに分類した370人では、21.5点でした[19]。
亜急性期の脳卒中で回復期病棟に入院した58人を調べた研究では、入院時のMini-BESTestの点数から、入院中の転倒を予測しました[20]。カットオフ値は15点で、感度は68%、特異度は64%でした。
前庭障害のある42人を調べた研究では、過去の転倒歴と歩行検査の結果から、転倒の危険が高い人と低い人を分類しました[21]。その分類を見分けるためのカットオフ値は、23点以下でした。
神経疾患の214人を退院後9か月間追跡した研究では、転倒する確率が25%に相当する25点と、50%に相当する14点の、2つの区切りを示しました[22]。
25点未満を転倒の危険が高いと判定した場合、感度は92%でしたが、特異度は20%でした。一方、14点未満を危険が高いと判定した場合、特異度は86%でしたが、感度は29%でした[22]。
つまり、この研究では、25点未満を基準にすると、転倒する人の多くを危険が高いと判定できる一方、転倒しない人も危険が高いと判定されやすくなりました。反対に、14点未満を基準にすると、転倒しない人を危険が低いと判定しやすくなりますが、転倒する人を見逃しやすくなりました。

図3 28点満点で報告されたMini-BESTestの転倒のカットオフ値を、研究ごとに1本の目盛りに並べた図。塗りつぶした丸は検査後の転倒を追跡した研究、白い丸は過去の転倒歴などをもとに対象者を分類した研究を示す。転倒の定義や追跡期間は研究によって異なる[17–22]
カットオフ値を下回った人が必ず転倒するわけではなく、上回った人が転倒しないとも限りません。
Leddyらは、カットオフ値は、転倒と関連するバランス障害の程度を示すにすぎないと述べています[2]。
また、転倒歴があるか、バランスに問題があると訴える65歳以上の58人を調べた研究では、BESTestもMini-BESTestも、過去12か月間に転倒した人を偶然より高い精度で見分けることができませんでした[23]。そのため、この研究ではカットオフ値は求められていません。
Mini-BESTestの点数の変化の目安
Mini-BESTestの点数がどの程度変われば、臨床的に意味のある改善といえるのでしょうか。その目安に、臨床的に意味のある最小差(MCID)があります。臨床的に意味のある最小差は、患者や療法士が改善と判断できる最小の変化を表します。
3つの研究では、Mini-BESTestの臨床的に意味のある最小差は3.4〜4点でした(表4)。
バランス障害のある93人を調べた研究では、「最小可検変化量」は3.5点、臨床的に意味のある最小差は4点でした[24]。
最小可検変化量とは、点数の変化が測定の誤差を超えていると判断できる最小の値です。測定の誤差を超えた変化と、臨床的に意味のある変化は、必ずしも同じではありません。
同じ93人を対象に、56点満点のBerg Balance Scaleでも調べたところ、最小可検変化量は6.2点、臨床的に意味のある最小差は7点でした[24]。
パーキンソン病の148人を調べた研究では、Mini-BESTestの臨床的に意味のある最小差は、求め方によって3.4〜4.0点でした[25]。この研究は、1人の患者の変化を判断するときには、4.0点を目安にするよう勧めています。
日本の複数の施設で、早期の亜急性期の脳卒中の53人を調べた研究では、4つの方法で求めた臨床的に意味のある最小差をまとめると、3.8点でした[26]。
| 対象 | 点数の変化の目安 |
|---|---|
| バランス障害の | 最小可検変化量は |
| パーキンソン病の | 臨床的に |
| 早期の | 4つの |
| 慢性期の | 最小可検変化量は |
表4 Mini-BESTestの点数の変化の目安(文献24–27をもとに作成)。最小可検変化量は、測定の誤差を超えた変化と判断できる最小の値。臨床的に意味のある最小差は、患者や療法士による改善の判断や、点数のばらつきをもとに求められた値
36項目のBESTestについても、点数の変化の目安を調べた研究があります。
亜急性期の脳卒中の49人を対象とした研究では、BESTestの総点が10%以上変化した場合に、バランスが変化したと判断できるとしました[28]。
BESTestと短縮版の限界
BESTestには、検査に時間と道具が必要なことに加え、セクションの点数が何を表しているのか、まだ十分に確かめられていないという限界があります。
検査には20〜35分かかり[1, 3]、柔らかい台や傾斜台などの道具も必要です[3]。
一方、Mini-BESTestでは、バランス能力が低い人の点数が最低点の近くに集中する「床効果」が見られることがあります。床効果があると、バランス能力の低い人どうしの違いを、点数で捉えにくくなります。
亜急性期の脳卒中の70人を調べた研究では、脳卒中後の運動機能を点数で評価するFugl-Meyer Assessment(フューゲルマイヤーアセスメント)を使い、対象者を運動機能の高い群と低い群に分けました[29]。その結果、運動機能の低い群では、Mini-BESTestに床効果が見られました。これに対して、36項目のBESTestには、床効果も、点数が満点の近くに集中する天井効果も見られませんでした。
また、神経疾患の人の研究をまとめたレビューによると、病気ごとに検査の妥当性などを判断するには、研究の数や対象者数が足りませんでした。病気ごとの根拠は、パーキンソン病と脳卒中に限られていました[5]。
BESTestとほかのバランス評価の使い分け
治療後に満点になる人は、Berg Balance ScaleよりMini-BESTestで少なかったという研究があります[24]。満点に達した人では、それ以上バランスが改善した分は点数に表れません。
バランス障害のある93人を調べた研究では、治療後に満点だった人は、Berg Balance Scaleで12人、Mini-BESTestで2人でした[24]。Godiらは、Mini-BESTestのほうが天井効果が小さいようだと述べています。
亜急性期の脳卒中の58人を調べた研究でも、退院時に満点だった人は、Berg Balance Scaleで25人、Mini-BESTestで3人でした[20]。
米国理学療法学会の神経理学療法アカデミーは、神経疾患の成人を対象とした臨床ガイドラインを出しています[30]。このガイドラインも、Berg Balance Scaleの天井効果を指摘しています。補助具を使わずに速く歩けるなど、バランス能力の高い人では、天井効果が見られることがあるとしています。
一方、バランス能力が低い人では、Mini-BESTestに床効果が見られることがあります[29]。亜急性期の脳卒中の49人を調べた研究では、点数の変化を捉える能力の指標である「標準化反応平均」は、Mini-BESTestよりBESTestのほうが高い値でした[28]。
床効果と標準化反応平均の結果から、バランス能力が低い人の変化を細かく調べたいときや、どの課題ができないのかを1つずつ確認したいときには、36項目のBESTestを選ぶ方法があると筆者は考えます。ただし、BESTestはMini-BESTestより検査に時間がかかります。
ほかのバランス検査と組み合わせて使う場合には、それぞれの検査にどのような課題が含まれているかも、選ぶ際の手がかりになります。
Mini-BESTestには、Dynamic Gait Indexから取り入れた歩行の課題があります。また、計算などをしながら行うTimed Up and Go(タイムドアップアンドゴー)も含まれています[3]。
Functional Reach Test(ファンクショナルリーチテスト)は、立った姿勢で手を前に伸ばせる距離を測る検査です。この課題は、BESTestの「安定性の限界と垂直性」のセクションに含まれていますが[2]、Mini-BESTestの14項目には含まれていません[3]。
同じガイドラインは、神経疾患の成人のリハビリテーションで共通して使う評価の組み合わせを、「コアセット」として示しています[30]。このコアセットでは、バランスの変化を調べる検査として、Berg Balance Scaleが強く推奨されました。
Mini-BESTestも候補に挙がりましたが、2018年の時点では、急性期の患者における信頼性や点数の変化の目安についてデータがなく、採用の基準を満たしませんでした[30]。
BESTestで確かめられていないこと
BESTestには、まだ十分に確かめられていないことが、少なくとも次の4つあると筆者は考えます。
- BESTestは、いくつのしくみを別々に測っているのか:開発者が想定した6つのしくみなのか、因子分析で示された3〜4つなのかは、まだ確かめられていません。これを調べる方法として、十分な人数を対象とした確認的因子分析が挙げられています[5]
- セクションの点数に合わせて練習を選ぶと、改善は大きくなるのか:BESTestを開発した目的の中心にある問いです。しかし、セクションの点数に合わせた練習と、そうしない練習の効果を直接比較した試験は、まだ報告されていません
- Mini-BESTestのカットオフ値で、今後の転倒をどこまで予測できるのか:図3の研究には、過去の転倒歴などをもとに対象者を分類したものと、検査後の転倒を追跡したものがあります。追跡期間は最長でも9か月でした。カットオフ値を使って今後の転倒をどの程度予測できるかは、さらに確かめる必要があると筆者は考えます
- 言語の異なる版は、同じものを測っているのか:BESTestは、複数の言語に翻訳されています[5]。しかし、2023年12月までに発表された研究には、異なる言語の版が同じものを測っているかどうかを、神経疾患の人で比較したものはありませんでした[5]
まとめ
BESTestは、バランスを1つの能力としてではなく、複数のしくみが関わり合って成り立つものとして捉える検査です。36項目を6つのセクションに分け、総点とセクションごとの点数を、満点に対する割合で示します。短縮版には、14項目のMini-BESTestと、6つの課題からなるBrief-BESTestがあります。
BESTestの総点は、神経疾患の人で信頼性が高く、治療による変化も捉えられることが示されています[5]。
Mini-BESTestについては、28点満点で1つの転倒のカットオフ値を示した研究では、その値は15〜23点でした。また、臨床的に意味のある最小差は、3つの研究で3.4〜4点でした。治療後に満点になる人は、Berg Balance ScaleよりMini-BESTestで少なかったという研究もあります。
一方、BESTestのセクションの点数から、バランスが悪くなる原因となるしくみを見分けられるかどうかは、まだ確かめられていません。パーキンソン病の人で「姿勢の反応」の点数が最も低いという最初の論文の結果は、80人の研究では再現されませんでした。因子分析でも、項目は6つのセクションのとおりには分かれませんでした。
パーキンソン病の人のMini-BESTestについては、709人を調べた研究が、小計を別々に報告せず、総点を使うよう勧めています。
バランスが悪いこと自体は、以前から観察によってわかりました。BESTestは、そのバランスの悪さを、体勢を崩されたときの反応、感覚情報の使い方、動作を始める前の姿勢の調整など、異なるしくみの問題として見分けることを目指しました。
セクションの点数に合わせて練習を選ぶと改善が大きくなるかは、まだ確かめられていません。BESTestの考え方を治療の選択にどこまで役立てられるかは、その効果を確かめる研究を待つ必要があります。
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- Anne Shumway-Cook・Marjorie H. Woollacott 著、田中繁・蜂須賀研二 監訳『モーターコントロール 原著第5版 研究室から臨床実践へ』(医歯薬出版):運動制御の研究と臨床をつなぐ教科書の翻訳です。第7章で姿勢の制御をしくみの枠組みから説明し、第11章で、バランス戦略の評価や、原因となっている機能障害の検査、検査結果の解釈を扱っています(2020年刊行、752ページ)。
参考文献
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