p値は0.001未満。偶然とは考えにくい差でした。それでも論文の著者らは、その改善を「小さい」と書いています。
この試験は2026年に報告されました。対象は764人で、筋肉や骨、関節に慢性の痛みがあります。この人たちを、くじのような方法で2つのグループに分けました。どちらのグループも、痛みとのつきあい方を身につける認知行動療法を受けますが、やり方が違います。効果は、痛みで生活がどれだけ妨げられるかを0〜10点で表す点数で比べました。4か月後、一方のグループのほうが、点数が平均0.98点低くなりました。論文は、患者さんにとって意味のある最小の差を、この点数では1点としています(Heapyら 2026)。0.98点は、1点にわずかに届きません。この差は、患者さんにとって意味があるのでしょうか。
臨床的に意味のある最小差(MCID)の要点
- 必要とされた理由:肺の働きなどの数値は、生活の質との関係が弱いとされた。そこで患者の声から質問票がつくられた。ただ、こうした質問票の点数が何点変われば意味があるのかは、わからなかった
- 有意差との違い:有意差は、差が偶然では説明しにくいことを示す。患者にとって意味のある大きさかどうかは示さない
- 定義:患者が有益と感じ、副作用や費用の問題がなければ治療の方針を変えることになる、点数の最小の差。1989年にカナダの研究グループが示した。日本語では「臨床的に意義のある最小差」などとも訳される
- 求め方:患者などに変化を尋ねて決めるアンカー法と、点数のばらつきから計算する分布法がある。患者にとっての意味を表すのはアンカー法である
- MDCとの違い:最小可検変化量(MDC)は、測定の誤差を超えたといえる最小の変化。MDCがMCIDより大きい検査では、意味のある変化を誤差と見分けられないことがある
- 使い方:値は対象や求め方によって変わりうる。多くは一人の変化の目安で、グループの平均の差が重要かは、それだけでは判断できない
生活の困りごとを、患者の声から点数にした
MCIDを示したのは、カナダのマクマスター大学のグループです(Jaeschkeら 1989)。その2年前、同じグループのGuyatt(ガイアット)らは、臨床試験で治療が生活の質に与える効果を調べるために、質問票を開発しています(Guyattら 1987)。肺の働きや運動できる量は、数値で測れます。しかし、肺の働きや運動できる量と、日常の動作や生活の質との関係は、一般に弱いとされていました(Guyattら 1987)。治療で肺の数値がよくなっても、生活がよくなったとは限りません。
そこでGuyattらは、慢性の肺の病気の患者さん100人に話を聞きました。病気で生活がどう困っているか、症状や生活の制限がどれだけ大事かを尋ねたのです。よく挙がり、大事とされた項目を集めて、生活の質を測る質問票を、患者さんの答えからつくりました。息苦しさ、疲れ、気分、病気を自分で管理できているという感覚の4つを、点数で表すものです。呼吸リハビリテーションに参加した28人では、参加の前後で点数が大きく、統計的にも有意に改善しました(Guyattら 1987)。
意味のある点数の差は、患者に尋ねて決めた
ただ、問題が一つ残りました。点数がよくなったことはわかっても、その差が、患者さんの感じる変化としてどれくらいなのかは、点数だけではわかりません。1989年、同じグループのJaeschke(イェシュケ)らは、次のように書いています。生活の質の質問票は、多くの臨床試験で、治療の効果を判断する主な結果として使われるようになった。課題の一つは、試験で見られた点数の差がどれだけ大事かを判断し、臨床家に伝えることだ(Jaeschkeら 1989)。
統計的に有意かどうかでは、この問いに答えられません。p値は、本当は差がないとしたときに、これと同じか、もっと大きな差が偶然に出る確率です。統計的な検定の結果は、対象の人数にも左右されます。人数が多いと、患者にとっては小さな差でも、統計的には有意になりえます。統計的に有意かどうかと、患者にとって意味があるかどうかは、別の問題です(de Vetら 2006)。
そこでJaeschkeらは、こうした質問票の点数の変化を、患者さん自身の答えと照らし合わせました。前と比べてどれくらい変わったかを尋ねる質問への答えです。3つの研究で調べると、意味のある最小の差は、7段階で答える項目1つあたり約0.5点でした。中くらいの変化や大きな変化にあたる点数の範囲も示しました。著者らは、これらの値が、一人ひとりの点数の解釈にも、臨床試験に参加したグループの点数の解釈にも、新しい試験の計画にも役立つとしています(Jaeschkeら 1989)。
Jaeschkeらは、これを臨床的に意味のある最小差(minimal clinically important difference、MCID)と呼びました。日本語では、「臨床的に意義のある最小差」や「臨床的意義のある最小変化量」とも訳されています。定義は、患者が有益と感じ、副作用や費用の問題がなければ治療の方針を変えることになる、点数の最小の差です(Mouelhiら 2020による引用)。喘息の39人を調べた研究でも、項目1つあたり約0.5点という、よく似た値が出ています(Juniperら 1994)。
計算だけでは、患者の実感はわからない
Jaeschkeらは、患者さんの答えを基準にしました。このように、点数とは別の評価を基準にして、意味のある差を決める方法を、アンカー法といいます。基準にする評価がアンカーです。よく使われるのは、「かなりよくなった」から「かなり悪くなった」までの5段階や7段階で、変化を尋ねる質問です(Terweeら 2021)。値の決め方の1つは、「少しよくなった」と答えた人の変化の平均をとる方法です。もう1つは、「よくなった」人とそうでない人を最もよく分ける点数をとる方法です(de Vetら 2006、図1)。

図1 アンカー法でMCIDを求める架空の例。点は一人ひとりの点数の変化で、アンカーの質問への答えで2つの段に分けている。この例では、「少しよくなった」と答えた人の変化の平均は2.0点、2つの段を最もよく分ける点数は1.5点になる(de Vetら 2006の説明をもとに作成)
一方、点数のばらつきから意味のある差を計算する方法を、分布法といいます。よく使われるのは、標準偏差の半分です。Norman(ノーマン)らは、慢性の病気の生活の質を調べた38の研究を見直しました。すると、意味のある最小の差の多くが、標準偏差の約半分に近い値でした(Normanら 2003)。
ただ、ばらつきの大きさは、測定の誤差にかかわる量です。患者にとって重要かどうかとは関係しません(Terweeら 2021)。標準偏差の半分は、意味のある変化というより、誤差と見分けられる変化の考え方に近いものです(de Vetら 2006)。Revicki(レヴィッキ)らは、意味のある差は主にアンカー法で決めるよう勧めています。分布法は、その補助か、アンカー法の値がないときに使えるとしています(Revickiら 2008)。
アンカー法にも弱点があります。人は前の状態を正確に思い出すのが難しく、いまの状態から振り返って答えがちです(Mouelhiら 2020)。似た用語が多いので、表1にまとめました。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| MCID | 患者が有益と感じ、副作用や費用の問題がなければ治療の方針を変えることになる、点数の最小の差 |
| MID | GuyattらがMCIDに代えて使う語。よい方向にも悪い方向にも使う。Terweeらは、人と人、グループとグループの差の意味で使う |
| MIC | 一人の患者さんの変化のうち、本人が意味のある程度に変わったと感じる最小の変化。Terweeらの定義 |
| MDC | 測定の誤差を超えて変わったといえる最小の変化。変化が重要かどうかとは関係しない |
表1 意味のある変化にかかわる主な用語(Mouelhiら 2020、SchünemannとGuyatt 2005、de Vetら 2006、Terweeら 2021をもとに作成)
誤差の大きい検査は、大事な変化を見逃す
MCIDとよく混同されるのが、最小可検変化量(minimal detectable change、MDC)です。MDCは、測定の誤差を超えて変わったといえる最小の変化です。同じ人を測り直したときのぶれから計算します(de Vetら 2006)。計算のしかたは、級内相関係数(ICC)の記事で紹介しました。MDCは、変化が患者にとって重要かどうかとは関係しません(Terweeら 2021)。
MDCがMCIDより大きい検査もあります。そうした検査では、意味のある大きさの変化でも、MDCに届かなければ誤差と見分けられません(図2)。測定の道具を評価する国際的な基準もあります。そこでは、MDCが、アンカー法で求めたMCIDより小さければ、測定の誤差は十分小さいと判定します(Prinsenら 2018)。

図2 MDCとMCIDの大きさの関係を示す架空の例。検査AではMDCが2点で、MCIDの4点より小さいので、4点以上の変化は意味があり、誤差とも区別できる。検査BではMDCが6点で、MCIDの4点より大きいので、5点の変化は意味のある大きさでも、誤差と区別できない(de Vetら 2006、Prinsenら 2018をもとに作成)
実際に、両方の例があります。de Boer(デ・ブール)らは、目の見え方に関する生活の質の質問票を、視覚に障害のある高齢者329人で調べました。MDCは、いつもMCIDより大きくなりました。著者らは、調べた見え方の質問票は、一人ひとりの経過をみるのには役立たないと結論しました(de Boerら 2005)。一方、Hendriks(ヘンドリクス)らは、尿もれのために理学療法を受けた女性279人で、別の質問票を調べました。こちらでは、MCIDがMDCより大きくなりました(Hendriksら 2008)。
意味のある差は、人や求め方で変わる
MCIDの値は、対象の人たち、使う場面、はじめの点数、よくなる方向か悪くなる方向かによって変わりえます(King 2011)。Mouelhi(ムエリ)らは、47の研究をまとめました。生活の質を測る尺度の中に、一つに決まるMCIDが見つかったものはありませんでした(Mouelhiら 2020)。リハビリテーションでよく使う検査の例を、表2に示します。
| 検査 | 意味のある変化の値と、求めた人たち |
|---|---|
| 痛みの数値評価スケール(0〜10点) | 約2点、または約30%の減少。慢性の痛みがある2,724人で、患者が「かなりよくなった」と答えたことを基準にした(Farrarら 2001) |
| 6分間歩行距離 | 30m(25〜33m)。慢性の呼吸器の病気がある成人の11の研究の中央値。多くは分布法による(Hollandら 2014) |
| 6分間歩行距離 | 26m前後。重い慢性閉塞性肺疾患の1,218人で、アンカーによって約19〜26mに分かれた(Puhanら 2011) |
| 歩く速さ | 小さな変化は秒速約0.05m、大きな変化は約0.10m。歩行に障害のある高齢者、発症まもない脳卒中の人、地域の高齢者のデータから(Pereraら 2006) |
| 歩く速さ | 秒速0.16m。歩く速さの障害が重い、発症まもない脳卒中の283人(Tilsonら 2010) |
| Fugl-Meyer評価の上肢運動項目 | 4.25〜7.25点。慢性期の脳卒中で、腕のまひが軽度〜中等度の146人。療法士の評価を基準にした(Pageら 2012) |
| Timed Up and Go | 大きな改善は0.8〜1.4秒の短縮。股関節の変形性関節症で理学療法を受けた65人(Wrightら 2011) |
| Timed Up and Go | 0.9〜6.0秒、平均3.4秒。腰の手術を受けた100人で、求め方によって大きく違った(Gautschiら 2017) |
表2 リハビリテーションでよく使う検査の、意味のある変化の値の例。MCID、MID、意味のある変化など、研究によって呼び名が異なる(各文献をもとに作成)
対象やアンカーが違う研究では、値も違います。Tilson(ティルソン)らは、発症からまもない脳卒中の283人を調べました。歩く速さの障害が重い人たちです。アンカーには、生活の障害の程度を表す尺度が1段階以上よくなったことを使いました。すると、歩く速さのMCIDは秒速0.16mでした。この値は、表2にあるPerera(ペレラ)らの歩く速さの値より大きくなっています。ただし、Pereraらの値は高齢者などのデータから見積もったもので、2つは対象も求め方も違います。また、この尺度は歩行だけを見るものではないため、この値で改善した人を見分ける力は高くありませんでした(Tilsonら 2010)。
はじめの点数によって変わるという報告もあります。Farrar(ファラー)らは、慢性の痛みがある2,724人を調べました。慢性の痛みでは、0〜10点の点数で、意味のある差は約2点、または約30%の減少でした。はじめの痛みが強い人ほど、必要な点数の変化は大きくなりました(Farrarら 2001)。
一人の目安は、グループの平均の差とは別
では、痛みの試験で出た0.98点の差は、どう判断すればよいのでしょうか。慢性の痛みの臨床試験について、専門家が勧告を出しています。それによると、一人の改善が重要かと、グループの差が重要かは、別の判断です。一人の改善は、患者自身が意味があると思うかで決まります。グループの差は、ほかの治療との比較、安全性、費用などもあわせて判断します(Dworkinら 2009)。
0.98点の差が出た試験では、一方のグループは、コーチから毎週届く録音の助言を受けながら、自分で進めました。もう一方は、専門職が週1回のセッションを行いました。差の95%信頼区間は、−1.31〜−0.65点でした(Heapyら 2026)。本当の差がありそうな範囲のことです。この範囲には、1点を超える差も、1点に届かない差も含まれます。著者らは、自分で進めたほうが優れているものの、改善は小さいと表現しています。また、平均の差が1点に届かなくても、1点以上よくなった人がいなかったとはいえません。平均は、大きくよくなった人と、ほとんど変わらなかった人を合わせた値だからです。
MCIDは、研究に必要な人数を決めるときにも使われます。値が低すぎると、治療の効果を大きく見積もるおそれがあります。高すぎると、本当は役立った人を「効果がなかった」と分けてしまうおそれがあります(Wrightら 2012)。
60mの改善は、誤差でなく意味のある変化
最後に、MDCとMCIDを、一人の患者さんの6分間歩行の距離に当てはめてみます。脳卒中から1年たった人の距離が、リハビリテーションの前後で300mから360mへ、60m延びたとします。これは説明のための架空の例です。
1つめの判断は、測定の誤差を超えたかどうかです。発症から半年〜約4年たった脳卒中の50人を、7日あけて2回測った研究があります。脳卒中の人の6分間歩行では、本当の変化といえるには、13%を超える変化が必要でした(Flansbjerら 2005)。300mの13%は39mです。60mは39mを大きく超えています。60mの改善は、測定の誤差を超えた変化と判断できます。
2つめの判断は、患者さんにとって意味のある大きさかどうかです。6分間歩行の意味のある変化は、小さな変化で約20m、大きな変化で約50mと見積もられています(Pereraら 2006)。60mは、小さな変化も、大きな変化も超えています。
ただし、Pereraらの値は、高齢者や、発症からまもない脳卒中の人のデータから求めたものです。発症から1年たったこの人と、対象は同じではありません。また、6分間歩行には慣れの影響があり、2回測ると、2回目のほうが距離が延びやすくなります。慢性の呼吸器の病気の人たちを調べた13の研究をまとめると、2回目は平均26m長く歩けていました(Singhら 2014)。前後の測定が同じ手順で行われたか、慣れの影響がないかも、判断の材料になります。誤差を超えたかと、意味のある大きさかを順に確かめると、一人の変化を判断しやすくなります。
MCIDを一人の患者さんに当てはめるときは、もう一つ注意が要ります。何点変われば「よくなった」と感じるかは人によって違い、測定の誤差もあるからです。Terwee(テルウェー)らは、MCIDを確率としてとらえる使い方を示しています。MCIDを超えて変化した人は、意味のある程度によくなった可能性のほうが高い、と考えます(Terweeら 2021)。
MCIDの値は、対象やアンカー、求め方によって変わります。また、MDCと比べる必要もあります。そのため、MCIDの値を使うときには、次の点が判断の材料になります。
- どんな人たちで求めた値か。病気や時期、重さが、目の前の患者さんと近いか
- 何をアンカーにしたか。患者の答えか、療法士などの評価か。「少しよくなった」を基準にしたか
- アンカー法か、分布法か
- その検査のMDCは、MCIDより小さいか
まとめ
肺の働きの数値は、患者さんの生活の質との関係が弱いとされていました。p値が示すのは、差が偶然では説明しにくいかどうかまでです。Guyattらのグループは、患者さんの声から質問票をつくりました。さらに、こうした質問票の点数の変化を、患者さん自身に尋ねた変化の答えと照らし合わせました。こうして、点数の差が患者さんにとって意味のある大きさかを、判断できるようにしました。この値をMDCと比べると、その検査がMCIDほどの小さな変化まで見分けられるかもわかります。
Guyatt自身は、のちに名前から「臨床的な(clinical)」を外し、「意味のある最小差」と呼ぶようになりました。「臨床的な」という語は、患者の毎日の生活ではなく、臨床の場面に目を向けさせるからです。差が重要かを最後に判断できるのは、それを経験する患者だけだと述べています(SchünemannとGuyatt 2005)。0.98点の差に意味があるかも、p値だけでなく、患者さんがその変化をどう感じたかに照らして考えることになります。
さらに学びたい人へ:おすすめの本
- de Vet HCW, Terwee CB, Mokkink LB, Knol DL『Measurement in Medicine: A Practical Guide』(Cambridge University Press):医学で使う測定の道具や尺度の開発と評価を解説した英語の教科書です。信頼性の章と、点数とその変化をどう解釈するかを扱う章(interpretability)があります。著者のde Vet、Terwee、Mokkinkは、この記事で引用したCOSMINの指針の著者でもあります(2011年刊行)。Kindle版もあります。
- Guyatt G, Rennie D, Meade MO, Cook DJ 編『Users' Guides to the Medical Literature: A Manual for Evidence-Based Clinical Practice, 3rd ed.』(McGraw-Hill Education):米国医師会雑誌の連載をもとにした、医学論文の読み方の英語の教科書です。編者のGuyattは、MCIDを考えたマクマスター大学のグループの一人です(2015年刊行)。Kindle版もあります。
参考文献
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- Jaeschke R, Singer J, Guyatt GH. Measurement of health status. Ascertaining the minimal clinically important difference. Control Clin Trials. 1989;10(4):407-415. doi:10.1016/0197-2456(89)90005-6
- Guyatt GH, Berman LB, Townsend M, Pugsley SO, Chambers LW. A measure of quality of life for clinical trials in chronic lung disease. Thorax. 1987;42(10):773-778. doi:10.1136/thx.42.10.773
- de Vet HC, Terwee CB, Ostelo RW, Beckerman H, Knol DL, Bouter LM. Minimal changes in health status questionnaires: distinction between minimally detectable change and minimally important change. Health Qual Life Outcomes. 2006;4:54. doi:10.1186/1477-7525-4-54
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