米国の男性医師2万人あまりが参加したアスピリンの試験は、予定より早く打ち切られました。データと安全性を監視する委員会が、全会一致で打ち切りを勧告しました[1]。主な理由は、アスピリン群で初回の心筋梗塞の発生リスクが統計的に明確に低下したことでした[2]。しかし、アスピリンを飲んだかどうかと、心筋梗塞を起こしたかどうかの相関係数φ(ファイ)を計算すると約0.035で、「小さい」効果の目安とされる0.1にも届きません(筆者が計算)。
試験は早期に打ち切られるほど明確な差を示しましたが、効果量φで表すと「小さい」という目安にさえ届きません。では、アスピリン群と偽薬群の心筋梗塞の発生には、実際にどの程度の差があったのでしょうか。
この記事の要約(押すと開閉します)
- 効果量とは:群の差や変数どうしの関係がどれくらい大きいかを、数値で表したもの。平均の差のように元の単位で表すものと、Cohenのdのように標準偏差で割って単位をなくしたものがある
- 生まれた経緯:1976年、Glassは、測定方法の異なる研究の結果を標準化平均差にそろえて統合するメタアナリシスを示した。1999年には米国心理学会の作業部会が、主な結果には必ず効果量を示し、その区間推定もつけるよう勧めた
- 有意差との違い:p値は効果の大きさと人数の両方で決まるため、人数が多ければ、ごく小さな差も統計的に有意になる。有意差の有無だけでは、差の大きさは分からない
- 種類:平均の差を標準偏差で割るd族と、関係の強さを表すr族がある。結果が2値の場合には、リスク比、オッズ比、リスク差、治療必要数(NNT)などを使う
- 検定ごとの求め方:t検定ではCohenのdやHedgesのg、分散分析ではη²や偏η²、カイ二乗検定ではφやCramérのVを使う。順位に基づく検定では、Zを人数の平方根で割ったrや、一方の群の値が他方の群の値を上回る確率などが使われる
- 大きさの目安:Cohenがdの小・中・大の目安として示した0.2・0.5・0.8は、比較できる先行研究がないときに使う値。リハビリテーションの介入効果から介入の種類ごとに求めたところ、「中くらい」の目安は0.19〜0.36だった
- 限界:事前登録のない研究や早期に打ち切られた試験では、効果量が大きく出やすい。研究デザインや対象のばらつきによっても値が変わるため、点推定値だけでなく信頼区間とあわせて解釈する必要がある
- 臨床的に意味のある最小差との違い:効果量は統計的な差の大きさを表すもので、その差が患者にとって意味のあるものかどうかは示さない
- 読み方と書き方:CONSORTの2025年版は、評価項目ごとに効果量とその信頼区間を示し、p値だけで報告しないよう求めている。論文を読むときは、どの種類の効果量が使われているかを確認する
効果量とは
効果量(effect size)は、群の差や変数どうしの関係がどれくらい大きいかを、数値で表したものです[3]。効果量には、測定した単位のまま表すものと、単位をなくして表すものがあります。
2つの群の平均の差は、単位のある効果量です。一方、平均の差を標準偏差で割った標準化平均差は、差の大きさを標準偏差の何倍かで表します[4]。Cohen(コーエン)のdは、代表的な標準化平均差です。
歩行練習の効果を2群で比較した研究を考えてみます。練習した群の平均歩行速度が、練習しなかった群より0.10m/秒速く、どちらの群も標準偏差が0.20m/秒だったとします。この場合、単位のある効果量は0.10m/秒、標準化した効果量はd=0.10÷0.20=0.5です。つまり、d=0.5は、2群の平均の差が標準偏差の半分に相当することを示しています[5]。
効果量を標準化すると、測定方法の異なる研究の結果を比較できるようになります。たとえば、ある研究では10m歩行テスト、別の研究では6分間歩行テストで歩行能力を測っていたとします。測定単位が異なるため、測定値の差をそのまま比較することはできません。しかし、標準偏差を基準にすれば、どちらの差も同じ尺度で表せます[6]。
ただし、標準化した効果量は、測定の信頼性、対象者の範囲の狭さ、研究デザインの違いなどによって影響を受けることがあります[7]。Baguley(バグリー)は、多くの目的において、元の単位で表した効果量のほうが、標準化した効果量よりも頑健で使いやすいと述べています[7]。
効果量が生まれるまで
効果量は、測定方法の異なる研究の結果を共通の尺度でまとめる手段として広まりました[6]。その後、研究の主な結果とともに報告する数値として、論文の報告指針にも取り入れられました[8]。図1に、その発展に関わる主な出来事を年代順に示します。

図1 効果量が生まれるまで。研究者や組織が直面した問題と、それに対して示した方法を「問題 → 方法」の形でまとめた(文献5、6、8–13をもとに作成)
1952年、英国の心理学者Hans Eysenck(ハンス・アイゼンク)は、心理療法の効果に疑問を投げかける論文を発表しました。Eysenckは、心の不調を抱える患者の多くは、心理療法を受けたかどうかにかかわらず改善すると述べ、心理療法には効果がないことを示唆しました。この主張に説得力のある反論が示されるまでには、25年かかりました[14]。
1962年、米国の心理学者Jacob Cohenは、ある心理学の専門誌に1960年に掲載された研究を調べました。Cohenが「中くらい」とした大きさの効果が実際に存在するとき、それを統計的に検出できる確率、つまり検出力は平均48%で、2回に1回も検出できない計算でした[9]。
研究を始める前に必要な人数を計算するには、予想される効果の大きさを数値で設定する必要があります。Cohenは、その値をある程度恣意的に選んだことを認めたうえで、慣習として受け入れられればよいと考え、目安を示しました[10]。1988年の著書では、dの「小・中・大」をそれぞれ0.2・0.5・0.8としています[5]。Cohenの研究については、「検出力とサンプルサイズの決め方」の記事で説明しました。
1976年、米国の研究者Gene Glass(ジーン・グラス)は、米国教育学会の会長講演で「メタアナリシス」という言葉を生み出しました[6]。Glassはメタアナリシスを、個々の研究の解析結果を大量に集め、知見を統合するための統計解析と定義しました[15]。この講演で最初に取り上げた考え方が標準化平均差で、異なる測定方法を使った研究の結果を、共通の尺度で比較できるようにするものでした[6]。
翌1977年、Mary Lee Smith(メアリー・リー・スミス)とGlassは、心理療法を受けた人と受けなかった人を比較した研究を集めました。375件の研究結果をそれぞれ効果量に換算し、統計的に統合しました[11]。平均の効果量はd=0.68で、この値は、心理療法を受けた人の平均的な状態が、受けなかった人の75%より良好だったことを意味します[14]。
SmithとGlassの研究結果によって、心理療法には効果がないとするEysenckの主張は誤りだとみなされました。その後、メタアナリシスは医療分野全体にも広がっていきました[14]。
1981年、米国の統計学者Larry Hedges(ラリー・ヘッジズ)は、Glassが用いた効果量について、標本から求める推定値としての性質を数式で検討しました。その結果、標本が小さい場合には推定値に偏りが生じることを示し、その偏りを取り除いた推定値を導きました[12]。小さな標本で生じるdの偏りを補正する方法は、Hedgesの1981年の研究にさかのぼります。ただし、「Hedgesのg」という名称は、補正していないdを指す場合にも使われます[16]。
一方で、心理学の学術誌では、統計的有意性検定の使い方をめぐる議論が続いていました。こうしたなか、米国心理学会が設置した統計的推論の作業部会は1999年、主な結果には必ず効果量を示し、その効果量に区間推定をつけるよう勧告しました[8]。
2010年に刊行された米国心理学会の論文作成マニュアル第6版は、効果量の記載を「ほとんど常に必要」とし、それぞれの効果量について、可能なかぎり信頼区間を示すよう求めました[17]。同じ年に改訂された臨床試験の報告指針CONSORTにも、結果を臨床的に解釈しやすくするための項目が加わりました。結果が2値の場合には、リスク差のような絶対的な効果量と、リスク比のような相対的な効果量の両方を示すよう勧めています[13]。
現在の効果量の考え方と報告方法は、Cohen、Glass、Hedges、米国心理学会の作業部会、CONSORTなどの仕事の積み重ねによって形づくられました。「小・中・大」の目安はCohenに[5]、標準偏差を基準にして異なる研究の結果を統合する考え方はGlassに[6]、小さな標本で生じる偏りの補正はHedgesに[12]さかのぼります。また、効果量と信頼区間をあわせて報告することは、米国心理学会の作業部会が勧め、その後、論文作成マニュアルやCONSORTにも取り入れられました[8, 13, 17]。
効果量と有意差の違い
p値や統計的有意性は、効果の大きさや結果の重要性を測るものではありません。米国統計学会は、2016年の声明で、p値を使う際の原則の1つとして、この点を指摘しました[18]。
p値は、実際には差がなく、検定の前提も正しいと仮定したときに、観察された差と同じか、それ以上に極端な結果が偶然に得られる確率です。p値があらかじめ決めた基準より小さいとき、その差は統計的に有意である、つまり「有意差がある」といいます。この基準には、0.05がよく使われます。詳しくは「統計的仮説検定」の記事で説明しました。p値は効果の大きさと人数の両方に左右されるため、人数が多ければ、ごく小さな差も統計的に有意になります[6]。
2標本t検定を例に考えます。オランダの研究者Lakens(ラーケンス)は、効果量dと検定統計量tの関係を式で示しました[5]。筆者がこの式を2群の人数が等しい場合について書き直すと、tは、dに「1群の人数を2で割った値の平方根」をかけた値になります。dが同じとき、人数が4倍になればtは2倍になり、p値は小さくなります。
図2に、観察されたdを0.2、0.5、0.8に固定したときの、1群の人数とp値の関係を示します(筆者が計算)。d=0.5の場合、1群10人ではp=0.28で有意差はありません。しかし、1群32人ではp<0.05となり、1群64人ではp=0.005まで小さくなります。d=0.2という小さな差も、1群194人以上になるとp<0.05になります。

図2 観察された効果量dを固定したときの、1群の人数とp値の関係。2群の人数が等しい2標本t検定について、両側検定のp値を筆者が計算した。dが同じとき、人数が増えるほどp値は小さくなる。d=0.2という小さな差も、1群194人以上でp<0.05になる
アスピリンの試験には、米国の男性医師2万2,071人が参加しました。最終報告では、心筋梗塞の減少についてP<0.00001と報告されています[19]。2群の心筋梗塞の発生割合をカイ二乗検定で比較すると、χ²は約27、p値は約0.0000002になります(筆者が計算)。
相関係数φは、χ²を総人数で割り、その平方根をとった値です[20]。この試験ではφが約0.035と小さいまま、参加者が多かったため、p値はきわめて小さくなりました(筆者が計算)。
反対に、人数の少ない研究では、効果が大きい場合に、偶然のばらつきによって有意差が得られないことがあります[21]。有意差がないからといって、効果がないとは限りません[22]。
効果量の種類
効果量は、平均の差を標準偏差で割るd族と、変数どうしの関係の強さを表すr族に大きく分けられます[5]。d族にはCohenのdやHedgesのgなどがあり、r族には相関係数r、分散分析のη²(イータ2乗)、2値変数どうしの相関係数φなどがあります。
η²は、全体のばらつきのうち、群の違いによって説明される割合を表します。r²は、一方の変数のばらつきのうち、もう一方の変数によって説明される割合を表します[5]。
心筋梗塞を起こしたかどうかのように、結果が2値で表される場合には、別の効果量も使います。リスクは出来事が起こる確率で、オッズは、その確率を出来事が起こらない確率で割った値です。2群のリスクの比をリスク比または相対危険度、オッズの比をオッズ比と呼びます。どちらも値が1なら、2群の間に差がないことを意味します[23]。
リスク比やオッズ比のように、2群の値の比で表すものを相対的な効果量と呼びます。一方、リスク差のように、2群のリスクの差で表すものを絶対的な効果量と呼びます[24]。
相対リスク減少は、1からリスク比を引いた値で、リスクが何%減ったかを表します。治療必要数(NNT)は、リスク差の逆数です。ある出来事を1件防ぐために、何人を治療する必要があるかを表します[24]。
相対的な効果量だけで結果を示すと、絶対的な効果量で示した場合よりも、医師は効果を大きく見積もる傾向があります[24]。同じ試験の結果も、どの効果量を使うかによって、数値の大きさや受ける印象が変わります。
表1に、アスピリンの試験結果を6種類の効果量で示します。リスク比と相対リスク減少は最終報告の値を使い、そのほかは心筋梗塞の件数と各群の人数から筆者が計算しました[1, 19, 25]。
| 効果量 | 値と意味 |
|---|---|
| リスク比 | 0.56(95%信頼区間0.45〜0.70)。 |
| 相対リスク減少 | 44%。 |
| オッズ比 | 0.58。 |
| リスク差 | 0.91%ポイント=2.17%−1.26%。 |
| 治療必要数(NNT) | 約110人。 |
| φ(2値変数どうしの | 約0.035。 |
表1 アスピリンの試験結果を6種類の効果量で表した値(文献1、19、25をもとに作成)。対象は米国の男性医師2万2,071人で、アスピリン群1万1,037人、偽薬群1万1,034人。確定した初回の心筋梗塞は、アスピリン群139件、偽薬群239件だった。リスク比と相対リスク減少には最終報告の解析値を用いたため、件数から計算したリスク比0.58とは値が異なる。そのほかの値は、件数から筆者が計算した
偽薬群で心筋梗塞を起こした人の割合は約2%で、心筋梗塞はまれな出来事でした。こうした発生頻度の低い出来事については、喫煙や肥満のような確かな危険因子の効果も、相関係数で表すと小さな値になりやすいことが報告されています[26]。
出来事がまれな場合、2群の発生割合の差には上限があります。この試験では、仮にアスピリン群で心筋梗塞が1件も起こらなかったとすると、偽薬群との差は約2%ポイントにとどまります。そのため、φも大きくなりにくくなります。実際に、アスピリン群の心筋梗塞を0件と仮定して計算すると、φは約0.10です(筆者が計算)。
件数で見ると、約1万1千人ずつの2群を平均約5年間追跡した結果、確定した初回の心筋梗塞は、アスピリン群で偽薬群より100件少なくなりました[1]。
効果量の大きさは、何を結果として測るかによっても変わります。同じ試験で、心血管疾患による死亡を結果とすると、リスク比は0.96(95%信頼区間0.60〜1.54)でした。研究者らは、該当する人が少ないため、結論は出ていないとしています[19]。
検定ごとの効果量の求め方
検定の種類によって、使う効果量は異なります。多くの効果量は、検定統計量と人数から計算できます[5]。表2に、このサイトで取り上げた検定について、対応する効果量とその求め方を筆者がまとめました。
| 検定 | 使う効果量と求め方 |
|---|---|
| 2標本t検定 | Cohenの |
| 対応の | dz:差の |
| 1標本t検定 | d:平均と |
| 一元配置分散分析 | η²:群間の |
| 繰り返しの | 偏η²:効果の |
| Mann-Whitneyの | r=Z÷√Nを |
| Wilcoxonの | r=Z÷√Nを |
| Pearsonの | 2×2の |
| Pearsonの | r:相関係数 |
| リスク比とオッズ比に | リスク比、 |
表2 このサイトで取り上げた検定と、対応する効果量(文献5、20、23、24、27、28をもとに作成)。n1とn2は各群の人数、nはペアの数または人数、df1とdf2はF値の2つの自由度を表す。Nは人数を表すが、Wilcoxonの符号付順位検定では、ペアの数または測定値の総数を指す
2標本t検定で使うCohenのdは、2群の平均の差を、2群をまとめた標準偏差で割って求めます。この標準偏差は、各群の分散を「それぞれの人数から1を引いた数」で重みづけして平均し、その平方根をとったものです[5]。標本から計算したdは、母集団の効果量を大きめに見積もる傾向があり、特に標本が20人未満の場合に偏りが目立ちます[5]。
標本が20人を超えるとdとgの差はごく小さくなりますが、Lakensは、偏りを補正したHedgesのgを報告するよう勧めています[5]。先ほどの歩行速度の例で、1群10人とすると、d=0.5はg≒0.48になります(筆者が計算)。
対応のあるt検定では、2回の測定値の差の平均を、その差の標準偏差で割ったdzを使います。前後の測定値の相関が0.5より大きいと、dzは、2回の測定の標準偏差の平均で割ったdavよりも大きくなります。
davは、異なる人どうしを比較した研究のdに近い値になります。Lakensは、一般にはdzよりもdavなどを報告するよう勧めています[5]。
分散分析で使うη²は、効果の平方和を全体の平方和で割った値です。一方、偏η²(偏イータ2乗)は、効果の平方和を、効果の平方和と誤差の平方和の合計で割って求めます。
異なる人どうしを比較する一元配置分散分析では、η²と偏η²は同じ値になります[5]。しかし、要因が2つ以上ある場合や、同じ人を繰り返し測定する場合には、全体の平方和に、ほかの要因や個人差による平方和も含まれます。そのため、偏η²はη²以上の値になると、筆者は定義式から考えます。
Mann-Whitney(マン・ホイットニー)のU検定では、検定統計量を標準正規分布に従う値に変換したZを、人数Nの平方根で割ったrを効果量として使った研究があります[28]。
一方、Divine(ディバイン)らは、2群から1人ずつ選んだときに、一方の群の値が他方の群の値を上回る確率を示すよう勧めています。この確率を求める際には、2人の値が同じ場合を半分として数えます[27]。
Wilcoxon(ウィルコクソン)の符号付順位検定で、表2のようにr=Z÷√Nを使う場合、Nをペアの数とするか、測定値の総数とするかによって、rの値は約1.4倍異なります(筆者が計算)。どちらのNを使ったかを明記すれば、読者が計算を確認できると筆者は考えます。
カイ二乗検定では、2×2の分割表にはφを、それより大きな分割表にはCramér(クラメール)のVを使います[20]。相関分析では、相関係数rそのものが効果量になります[5]。
効果量の大きさの目安
Cohenが示した「小・中・大」の目安は、比較できる先行研究がない場合に使うためのものです[5]。小・中・大の順に、dでは0.2・0.5・0.8、rでは0.1・0.3・0.5、η²では0.01・0.06・0.14としています[5, 10]。
ただし、Cohen自身も、「小・中・大」は分野や研究の内容、方法によって変わる相対的なものだと述べています[10]。
実際に、それぞれの分野で報告された効果量を調べると、目安となる値は異なります。ある研究では、リハビリテーション分野のCochrane(コクラン)のメタアナリシス99本から、3,381件の効果量dを集めました。その分布の25・50・75パーセンタイルを、それぞれ「小・中・大」の目安としました[29]。
リハビリテーションの介入の種類ごとに求めたところ、「小」は0.08〜0.15、「中」は0.19〜0.36、「大」は0.41〜0.67でした。いずれもCohenの目安を下回っていました。この研究の著者らは、介入の種類ごとに求めた目安を使うよう勧めています[29]。
効果量が小さい結果が、重要な意味をもつこともあります。Lakensは、その例として、自殺を減らす効果がd=0.1の介入を挙げています[5]。
アスピリンの試験も、その一例です。φは約0.035で、rの「小さい」効果の目安である0.1にも届きませんでした(筆者が計算)。一方、約1万1千人ずつの2群を比較すると、確定した初回の心筋梗塞はアスピリン群で100件少なくなっていました[1]。
効果量の大きさは、図3のように、2群の分布がどの程度重なっているかによって表すこともできます。2群が標準偏差の等しい正規分布に従うと仮定すると、d=0.5の場合、分布の約80%が重なります[30]。
また、対照群の約69%の人は、介入群の平均より低い値になります。2群から1人ずつ無作為に選ぶと、介入群の人の値が対照群の人より高くなる確率は約64%です(どちらも筆者が計算)。

図3 d=0.5の場合の2群の分布の重なり。両群が正規分布に従い、標準偏差は等しいと仮定した。分布の重なりが約80%という値はHanelらによる[30]。69%と64%は筆者が計算した
同様に、2群が標準偏差の等しい正規分布に従うと仮定すると、SmithとGlassが示した「75%より良い状態」という結果は、d=0.68の場合に、介入群の平均より低い値をとる対照群の人の割合と一致します(筆者が計算)。
効果量の限界
効果量は標本から求めた推定値であり、標本の大きさや研究デザインによって値が変わります。また、どのような研究結果が発表されるかによっても、効果の大きさについての評価は左右されます。
研究の計画や解析方法を、データを集める前に公開することを事前登録と呼びます。心理学の論文で報告された効果を比較した研究では、事前登録のない論文から900件、事前登録した論文から93件の効果を集めました。相関係数rの中央値は、事前登録のない論文では0.36、事前登録した論文では0.16でした[10]。
p≦0.05となった結果を選んで発表すると、変数どうしの関係が実際より大きく見積もられやすいことが指摘されています[21]。また、効果が明確になったとして早期に打ち切られたランダム化比較試験91本を、同じ研究課題について早期打ち切りを行わなかった試験と比較した研究もあります。早期に打ち切られた試験のリスク比は、打ち切られなかった試験の0.71倍で、効果が大きく見積もられていました。この差は、出来事の発生件数が500件未満の段階で打ち切られた試験で、特に大きくなっていました[31]。
アスピリンの試験も早期に打ち切られており、最終報告までに確定した初回の心筋梗塞は378件で、500件に達していません[1]。このため、筆者は、この試験のリスク比についても、効果が大きめに出ている可能性を考慮して解釈する必要があると考えます。
標準化した効果量は、平均の差が同じときも、研究デザインによって値が変わります。同じ人を2回測定するデザインでは、個人差によるばらつきが誤差の平方和から除かれるため、偏η²の分母が小さくなります。
実際に、平均が7.7と8.7の同じデータを、異なる人どうしを比較するデザインとして解析すると、偏η²は0.26でした。一方、同じ人を2回測定するデザインとして解析すると、偏η²は0.71になりました[5]。
研究対象の選び方も、標準化した効果量に影響することがあります。たとえば、点数の差が同じときも、対象者の重症度の幅が狭い試験と広い試験では、標準化平均差が大きく異なる場合があります[6]。
効果量にも信頼区間があり、推定値だけでなく、その不確実さも考慮して解釈する必要があります[5]。95%信頼区間は、母集団の効果量について、推定の不確実さを示すものです。
先ほどの歩行速度の例でd=0.5とすると、1群10人の場合、95%信頼区間は約−0.39〜1.39になります。この区間は、練習しなかった群のほうが速い可能性から、練習による大きな改善がある可能性まで含む広い範囲です。一方、1群64人では、95%信頼区間は約0.15〜0.85となります(どちらも筆者が近似式で計算)。
効果量と臨床的に意味のある最小差の違い
効果量は差の統計的な大きさを表す数値ですが、その差が患者にとって意味のあるものかどうかは示しません[6]。
臨床的に意味のある最小差(MCID)は、患者が臨床的に価値があると考える最小の点数の差です。改善の大きさだけでなく、患者がその改善にどの程度の価値を置くかも反映します[6]。求め方については、「臨床的に意味のある最小差」の記事で説明しました。
生活の質を測る質問票について、38件の研究を検討した報告があります。この報告では、6件の研究を除き、臨床的に意味のある最小差を標準偏差で割った値は、Cohenの目安で「中くらい」にあたる0.5[5]に近く、平均は0.495でした[32]。
ただし、臨床的に意味のある最小差は、対象者や状況によって変わることがあります。Revicki(レビッキ)らは、標準偏差などから計算する方法よりも、患者や臨床家の評価を基準にして求めた値を優先して使うよう勧めています[33]。
したがって、d=0.5という値だけを根拠に、患者にとって意味のある差だとは判断できないと筆者は考えます。
論文での効果量の読み方と書き方
CONSORTの2025年版の解説文書は、すべての評価項目について、推定した効果量とその信頼区間を示し、p値だけで報告しないよう求めています[34]。
チェックリストの項目26では、主要評価項目と副次評価項目のそれぞれについて、群ごとの結果に加え、推定した効果量と、その推定精度を表す95%信頼区間などを示すよう求めています。結果が2値の場合には、絶対的な効果量と相対的な効果量の両方を示すこととしています[35]。
理学療法の主要な学術誌6誌に掲載されたランダム化比較試験について、2000年の39本と2018年の101本を比較した研究があります。平均の差など、群間の効果の推定値を報告した試験の割合は30.8%から57.4%に、群間の差の信頼区間を報告した試験の割合は20.5%から54.5%に増えていました[36]。
論文を読むときは、まず、どの種類の効果量が使われているかを確認します。たとえば、dzとdav、η²と偏η²では値が大きく異なる場合があります。効果量の種類が明記されていなければ、ほかの研究との比較が難しくなります。
次に、信頼区間を確認します。dでは0、リスク比では1が、効果がないことを表す値です。信頼区間にこれらの値が含まれるかどうかを確かめます。さらに、元の単位で表した差を臨床的に意味のある最小差と比較すれば、患者にとって意味のある大きさかどうかを判断する手がかりになります。
米国心理学会の作業部会は、主な結果について、効果量とその区間推定を示すよう勧めています[8]。筆者は、元の単位で表した差と標準化した効果量の両方を、それぞれの信頼区間とともに示すことで、読者が結果を解釈し、ほかの研究と比較しやすくなると考えます。
たとえば、歩行速度の例で1群64人とすると、次のように報告できます(筆者が計算)。
「平均の差0.10m/秒(95%信頼区間0.03〜0.17)、Hedgesのg=0.50(95%信頼区間0.15〜0.85)、p=0.005」
まとめ
効果量は、群の差や変数どうしの関係がどれくらい大きいかを数値で表したものです。元の単位で表す効果量と、標準偏差で割って標準化した効果量があります。p値は効果の大きさと人数の両方に左右されるため、有意差の有無だけでは、差の大きさは分かりません。
t検定ではdやg、分散分析ではη²や偏η²、順位に基づく検定ではr、結果が2値の場合にはリスク比やNNTなどを使います。Cohenが示した「小・中・大」は、比較できる先行研究がないときの目安です。リハビリテーションの介入の種類ごとに求めたところ、「中くらい」の目安は0.19〜0.36でした。
効果量は標本から求めた推定値であり、研究デザインや対象者のばらつき、発表される研究の偏りなどによって、その値や評価が左右されます。そのため、信頼区間とあわせて解釈する必要があります。また、効果量が示す統計的な大きさと、患者にとって意味のある差かどうかは、区別して考えなければなりません。
効果量は、測定方法の異なる研究の結果を統合する手段として1970年代に広まり、1999年以降、研究の主な結果とともに報告するものとして、報告指針にも取り入れられました。
アスピリンの試験では、心筋梗塞の発生がまれだったため、φは約0.035と小さな値になりました。一方、参加者が多かったため、p値はきわめて小さくなりました。同じ結果を相対リスク減少で表すと44%であり、件数で見ると、約1万1千人ずつの2群で、アスピリン群の心筋梗塞が100件少なくなっていました。
さらに学びたい人へ:おすすめの本
- 大久保街亜・岡田謙介『伝えるための心理統計:効果量・信頼区間・検定力』(勁草書房、2012年):統計改革と呼ばれる動きを背景に、検定だけに頼らないデータの示し方を解説した本です。「効果量:効果の大きさを表現する」の章で効果量を扱い、信頼区間と検定力の章が続きます。Kindle版もあります。
参考文献
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